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2024年11月9日四国停電,何が起きていたのか。

2024年11月9日(土)20時22分,四国エリアで約37万戸の停電が発生しました。四国電力送配電の資料等を基に,何が起きていたのかを電力系統工学の視点から解説します。なお,本記事は公開資料を基にしていますが,一部推測を含みますのでご了承ください。


四国の電力系統と事故前の状況

事故前の系統状況(四国電力送配電資料)

上図が四国の主要な電力系統です。西端の伊方発電所から,東端の橘湾発電所および阿南直流変換所まで,500kV送電線が東西に横断しています。途中の讃岐変電所から枝分かれする形で本四連系線により交流で本州とつながり,阿南直流変換所からは直流で本州とつながっています。
交流連系では連系した系統同士の周波数が自然に同じになり,直流連系では送電量をコントロールすることができる(伏線)という特徴があります。

交流,直流ともに2回線ずつ計4回線で四国と本州がつながっていますが,事故当日はいずれも片回線を停止して作業を行っており,交直各1回線の計2回線での運用でした。
普段の半分というとちょっと不安な感じがするかもしれませんが,地理的に離れた2ルートが同時に停止することは考えにくく,万が一2ルートが停止したとしても四国単独で需給バランスをとればいいので,特に問題はありません。

交流連系線事故発生

交流連系線事故発生時の状況(四国電力送配電資料)

14時21分,運用していた交流連系線で事故が発生し,自動停止しました。
事故前は交流連系線で120万kWの電力を本州に送っていましたが,自動停止した瞬間に送電量は0になりました。このままでは120万kWの電力が余って需給バランスが崩れてしまうので,ECSという装置により,発電していた石炭火力の橘湾発電所を緊急停止し,またEPPSという機能で瞬時に直流連系線の指令値を書き換えて送電量を約70万kW増やしました。
交流送電量が120万kW減った代わりに,四国エリアの発電量を50万kW減らし,直流送電量を70万kW増やしたので,需給バランスは保たれ,この時点では需要家への影響は発生していません。

交流連系が2回線とも途切れてしまったので周波数が本州と自然に一致することがなくなり,EFCという機能を使って直流送電量を細かくコントロールし周波数が本州と一致するよう制御を始めます。
事故の後1時間半ほどかけて四国エリアの発電量を徐々に減らし,それと同時にEFCの機能で直流送電量を減らすことで,直流送電量は事故前と同じ10万kWぐらいになりました。

直流送電量が急増し停電発生

停電発生時の状況(四国電力送配電資料)

交流連系線の1号線が事故で停止してしまったので,作業のために停止していた2号線の作業を中断して交流連系を復活させようとします。まずは2号線の本州側を系統につなぎ2号線に電圧をかけました。次は2号線の四国側を系統につなげばいいのですが,ここで問題が発生しました。
交流系統同士をつなぐときには,電圧波形の山と谷のタイミング(位相といいます)が一致している(同期がとれるといいます)必要があります。もし同期がとれていないと,系統同士の瞬時電圧の差により過大な電流が流れてしまいます。同期をとるためには,系統内の発電量を加減して周波数を微調整し位相をあわせます。
本州エリアにつながっている交流連系線2号線と四国エリアの同期がとれていることを確認して連系線を四国エリアにつなごうとしますが,いつまでたっても同期がとれません。なぜなら,四国エリアの周波数はEFCによりぴったり本州エリアと一致させているため,発電量を加減してもそれをキャンセルするようにEFCが送電量を加減してしまうため,エリア同士の位相差が一定のままになってしまっているからです。
そこで,20時22分,発電量の加減で周波数を調整できるようにEFCを停止しました。すると,交流送電線の事故時に動作していたEPPSの指令値70万kWに従って,直流送電量が70万kWになってしまいました。EFC停止前の送電量は7万kWだったので,送電量が突然63万kW増えたことになります。

これにより四国エリアの需給バランスが崩れ,周波数が低下します。周波数が低下すると,まず火力発電機や水力発電機が自動で出力を上げます。それでもバランスを回復できず,周波数が低下しすぎると発電機が運転継続できなくなり更に需給バランスが崩れる悪循環に陥るため,周波数の低下を検出する装置により自動で需要を停電させ,周波数の低下を食い止めます。
交流でつながっている系統の周波数はどこでも同じなので四国エリア全体の周波数が低下し,四国のいろいろなところで合計50万kWを停電させたところで需給バランスが取れました(直流送電量増加の63万kWとの差異は,火力発電機や水力発電機の出力増)

復旧

停電復旧の状況(四国電力送配電資料)

50万kWの需要を停電させたことで需給バランスが取れ,周波数は安定しました。この時は,交流連系もなく,直流連系のEFCも停止しているので,本州エリアとは無関係に四国エリア内の発電機のみで60Hzを保っている状態です。この状態であれば,発電機の出力を調整することで位相をあわせて同期をとることができます。
20時58分,同期を確認したうえで交流連系線2号線を四国エリアとつなぎ,交流連系が再開しました。
この後30分ほどかけて停電させた需要を徐々に復旧させ,その分の電力は交流受電量が増えていきます。
21時半過ぎにはEPPSにより70万kW送電していた直流送電量を元通りの7万kWまで減らし,それと同時に交流受電量はほぼ0まで減りました。その後四国エリアの発電量を増やして交流連系線は事故前と同様の四国から本州への送電となました。

まとめ

今回の大規模停電は,昼の交流連系線事故時に動作していたEPPSの指令値70万kWが,EFCを停止したことに伴い,実際の直流送電量になってしまったことによるものでした。
送電量をコントロールできるという直流連系の特徴が裏目に出てしまいました。

最後に,当日午後の送電量のグラフを載せておきます。グラフを参照しながら本文を読むと理解が深まると思います。

四国から本州への送電量

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