倒産防止共済についてのあれこれ

法人であれ個人であれ、事業を始めて色々な情報を集める中で一度は目にする倒産防止共済。
既に加入している方も多いのではないかと思います。

節税を考えた際に、一番初めに検討すべき制度と言えますので、制度の概要と注意点を整理しましょう。

1.制度の概要

倒産防止共済と呼ばれる共済制度は独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する共済で、正確には「経営セーフティ共済」と言います。
制度の趣旨としては、
「自身の会社経営が健全でも、「取引先の倒産」という事態はいつ起こるかわかりません。経営セーフティ共済は、そのような不測の事態に直面された中小企業の方々が、必要となる事業資金を速やかに借入れできる共済制度です。」
とのことです。
https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/index.html

※同機構が運営する共済に「小規模企業共済」もありますが、これについては後日触れるかもしれません。

制度の中身としては、
①原則として月次で掛金を拠出する(月額5,000円~200,000円)
②掛金は支出時に全額損金(or必要経費)算入可能
③取引先事業者が倒産した際、無担保・無保証人で掛金の10倍まで借入可能
④取引先事業者の倒産後、(取引の確認が済み次第)すぐ借入ができる
⑤解約手当金を受け取れる
⑥一時貸付金を受け取れる(解約手当金の95%が上限)
となっています。

特に②と⑤のメリットに着目して加入している方が多いかと思います。

2.制度の詳細

概要に記載した項目の内、
1)掛金の拠出と損金(or必要経費)算入について(上記①及び②)
2)解約手当金について(上記⑤)
についてもう少し詳しく見ていきましょう。

1)掛金の拠出と損金(or必要経費)算入について

掛け金の拠出については
・掛金月額は5,000円~200,000円の範囲(@5,000 円)で自由選択
・掛金総額が8,000,000円まで積立可能
です。

また、
・掛金について増額or減額可能
・掛金の前納が可能(前納の場合、前納減額金が発生する)
です。

税金の計算上の取り扱いとしては
・拠出した掛金は税法上、損金算入可能
・1年以内の前納掛金も拠出した期の損金算入可能
・前納期間が1年超のものは、期間の経過に応じて損金算入可能

なお、個人の場合、事業所得の必要経費にはなりますが事業所得以外の収入(不動産所得や雑所得等)には必要経費の参入が認められないのでご注意ください。

以上の通り、前納を活用すると最大で23ケ月分(11ケ月+12ケ月(前納)=23ケ月)の掛金を1事業年度で拠出でき、月額を最大の20万円とした場合は、460万円の損金算入が可能となります。

2)解約手当金について

解約した場合は、解約手当金を受け取れます。
注意点は
・自己都合でもOK
・掛金を12か月以上納めていれば掛金総額の8割以上が戻る
・掛金を40か月以上納めていれば掛金全額が戻る
・ただし、掛金を収めた期間が12か月未満の場合は掛け捨て(戻らない)
です。

3.加入要件と注意点

1)加入要件

誰でも加入できるわけではありませんので、加入の要件を確認しましょう。
・継続して1年以上事業を行っている会社または個人の事業者
・資本金の額、常時使用する従業員数に制限あり
https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/entry/eligibility/index.html
例)サービス業の場合
資本金  5,000万円以下
  従業員 100人以下

また、
・住所の変更を繰り返し、継続的な取引の状況の把握が困難な場合
・事業にかかわる経理内容が不明の場合
・納付すべき所得税または法人税を滞納している場合
等の場合は加入ができません。

要約すると、普通に事業を行って、真摯に経理を行い、真面目に納税していればOKです。

2)加入手続き

加入手続きは、中小機構と業務委託契約を結んでいる団体(委託団体)または金融機関の窓口で行います。
原則としては、下記2パターンが多いかと思います。
・融資実績のある金融機関
・事業上の預金取引を1年以上継続している金融機関

※以下の金融機関は取り扱いなし
ゆうちょ銀行、農業協同組合、労働金庫、新生銀行、あおぞら銀行、外資系銀行、インターネット専業銀行等

※詳細は以下を参照
https://www.smrj.go.jp/kyosai/tkyosai/entry/contact/index.html

加入時の必要書類としは主に、
(法人)謄本、確定申告書、納税証明書(その1)
(個人)確定申告書、納税証明書(その1)
となります。
なんにせよ、資料を請求して加入機関へ行ってみるのが良いです。

4.資金繰り管理が必要

無事加入できたとしても月額掛金をいくらにすればよいのか悩みます。
主な検討事項は下記の通りかと思います。

・いかに40カ月以上拠出するか
 →解約手当金が拠出額の100%となる

・節税メリットを享受したい
 →拠出した期の損金となるため損益見込みを把握する必要アリ。
 ※節税といってもあくまでも「課税の繰り延べ」です。

・そもそも払えるのか
 →資金が外部に固定されることとなりますので資金繰り管理が必要
 ※ある程度の余剰資金で行うべきです。

・いつ解約するのか
 →解約手当金は受領した期の益金となり課税されます。
 ※損益計画に基づき負担の少ない計画を立てることが大切。

5.税務申告時の留意点

これまでさんざん損金算入可能!といってきましたが倒産防止共済の拠出掛金を損金算入するにはせっかく加入・拠出したのに最後の最後でミスする可能性があります。
(以下、法人の場合)

それは租税特別措置法第66条の11です。
これの第2項に、

「2  前項の規定は、確定申告書等に同項に規定する金額の損金算入に関する明細書の添付がない場合には、適用しない。ただし、当該添付がない確定申告書等の提出があつた場合においても、その添付がなかつたことにつき税務署長がやむを得ない事情があると認める場合において、当該明細書の提出があつたときは、この限りでない。」

と記載されています。
ですので申告の際は損金算入に関する明細書として

別表10(7)「社会保険診療報酬に係る損金算入、農地所有適格法人の肉用牛の売却に係る所得又は連結所得の特別控除、特定の基金に対する負担金等の損金算入及び特定業績連動給与の損金算入に関する明細書」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/itiran2021/pdf/10(07)02.pdf

を忘れずに添付しましょう。

ちなみに記載内容は、
「Ⅲ特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」欄に
・基金に係る法人名:独立行政法人中小企業基盤整備機構
・基金の名義   :中小企業倒産防止共済
・告示番号    :(記入しない)
・当期に支出した負担金等の額   :掛金の支出金額
・同上のうち損金の額に算入した金額:掛金の支出金額
となります。

6.その他(ただの戯言)

実はよくよく条文を読むと、損金経理要件はなさそうなんですよね。
ということは、保険料(費用)として処理しないで保険積立金(資産)計上しておいて、別表で減算することも可能となります。
※税効果会計は今はムシ
そうするとPL上は利益が出ているのに、課税所得はマイナスというパターンも。
しかし、会計上の利益と税務上の所得が乖離する→利益と手元資金の乖離となるので個人的にはお勧めしません。
融資の際に好印象!という言い方もできそうですが、倒産防止共済加入の件については申し込みの際にちゃんと説明すれば十分かと思います。

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