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中国新移民と東京

2024年10月17日(木)のNACK5『Good Luck! Morning!』内「エコノモーニング」では、こんなお話をしました。

今日は、「中国新移民と東京」というお話をしたいと思います。
最近、日本、特に東京に来ている中国からの移民に、これまでと少し違う傾向が出てきています。店員さんとして見かけるような、従来のイメージの移民ももちろんたくさんいるんですが、今日お話しする「新移民」というのは少し違います。典型的なイメージは、30代から50代くらいの富裕層や中間層で、都心の高層マンションに住み、日本でビジネスを始めたり、高度な専門職として働いていたりしています。つまり非常にお金もちな知識人やビジネスリーダーといった人たちです。

実は2022年から2023年にかけては、中国の超大企業であるアリババの創業者ジャック・マー氏も東京に長期滞在していました。途中からは東京大学で客員教授を務め、学生向けの講演も行ったようです。こうしたビジネス界のトップが日本に一時的でも拠点を置くというのは、中国新移民がどういった人々なのかを象徴しているように思います。

私はこうした動きが以前からちょっと気になっていたのですが、私の知り合いで中国や東南アジアなどの動向に詳しいジャーナリストの舛友雄大(ますともたけひろ)さんが最近このテーマを詳しく取材されていまして、先日、お話を伺いました。

1つの節目となったのは、2022年の年末にかけて中国内外で広がった「白紙運動」というものです。これは中国政府の厳しいゼロコロナ政策への反対運動でして、さらにその政策に対する批判を封じ込める動きへの抗議運動でもありました。日本でも、新宿駅西口に100名ほどの若者が集まり、抗議活動を行いました。そしてその頃から、言論の自由や芸術活動の自由、そして統制が厳しくない生活環境を求める人々による、日本、特に東京への移住が目立ってきたそうです。彼らの間では「潤(run)」という言葉が使われています。潤滑とか潤沢といったことばの「潤」という漢字ですが、「逃げる」という意味があるそうです。そして、彼らの間では国を離れて移住するという意味で使われるようになっています。

彼らが住んでいるのは東京のどのあたりだと思いますか?私は 中国の方が多いというと新宿や池袋といった繁華街の近くをイメージするのですがそうではなく、特に文京区、港区、中央区といった都心の高級な住宅地に住む人が急増しています。湾岸エリアのタワーマンションや、赤坂、青山、麻布といった高級住宅地のマンションが特に人気なのだそうです。彼らはお金持ちの知識人やビジネスリーダーですから、東京都心の便利な環境で「生活を楽しむ」ことに重きを置いています。また舛友さんによりますと、彼らが日本での不動産購入を進める背景には、資産を中国国内以外にも持つことで政治的なリスクなどから自分の資産を守ろうとしているということもあるようです。

ところで、東京都心部では、この1年ほどで彼らのための中国語の書店やレストランがいくつか開店しています。たとえば書店は、この1年ほどの間に3か所、銀座と神保町と市ヶ谷にオープンしています。そこではリベラルな知識人が集まり、頻繁に講演会などのイベントが行われているそうです。レストランも、いわゆる「ガチ中華」と呼ばれる本場の味を楽しめる中国人向けのレストランが増えていますが、そういう庶民的なお店ではなく、中国人のお金持ち向けの本格的な高級中華料理店や会員制クラブなども銀座などに進出してきているそうです。こうした場所は、ただの本屋さんやレストランというだけでなく、新移民コミュニティの中で重要な役割を果たしています。
じつは、東京の都心に中国の知識人が集まるというのは歴史上はじめてのことではありません。今から100年ほど前の清朝末期、日本の明治末期から大正時代にかけて、孫文や蒋介石、周恩来、魯迅をはじめとするその後の中国を作っていった人たちが留学生として東京に来ていたんですね。神保町などには、彼らが通ったという中華料理屋が今でもあったりします。

音楽関係の話題もあります。今年4月から5月にかけて、中国国内では発禁処分を受けている李志(リージー)というロック歌手が日本国内5都市をまわるツアーを開催しました。全ての会場に1万人規模の人々が集まりツアーは大成功だったようです。なんと、彼の歌を聞くためにわざわざ中国から来日したファンもいたそうです。また、来年2025年には、ストロベリーミュージック・フェスティバルという中国で最大規模の音楽フェスティバルが東京で開催されるということが発表されています。ビジネスだけでなく、文化面でも要注目ですね。

他にも、優秀なITエンジニアや起業家も日本に来ているという話ですとか、子供に日本の教育を受けさせたいという理由でやってくる人たちもいて中国人向けの進学塾が高田馬場あたりで増えているという話など、興味深いことがたくさん起きています。

こうして見てみますと、中国新移民は、人数としてはそれほど多くなくても、高所得の知識人ということで、東京の経済や、文化、教育など、さまざまな面に無視できないインパクトを与えていくことになるかもしれません。今回いろいろ教えてくださったジャーナリストの舛友さんによりますと、この東京の新しい動向は、アメリカのメディアなどでも注目されているそうです。非常に興味深いですので、私自身も見守っていきたいと思います。以上、「中国新移民と東京」についてのお話でした。

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