本当に「0円」でPRはできるのか?広報はコストがかからないのか?を検証する
皆さんこんばんは。広報歴30年のまりです。今日はちまたにあふれる『0円PR』という言葉。PRは本当に「0円=お金をかけずにでできるのか?」について私の意見を述べたいと思います。*ここではPR=広報の同義ととらえてお話します。
PR=0円とはどういうこと?
皆さんは広告をご存じですよね?雑誌をめくると、ウェブサイトを開くと、きらびやかで華やかな広告があふれています。広告は基本的にスペース(土地代)を払って、その上に好きなクリエイティブ(お家)を建てることに似ています。都心の一等地が土地代が高く、有名な一級建築士のオシャレなデザインハウスは設計費や建築費がかかります。それと同じように、人気のある雑誌やウェブサイト(購読者数が多い)に広告を出すときのスペース費は高く、そこにおしゃれな広告を広告代理店に制作してもらうと製作費は高くなります。でも社内に優秀なデザイナーを抱えている場合、クリエイティブも社内でさっと作ることができれば安くあがるかもしれませんし、それでも有名タレントを使って広告を制作するとなると相当の金額がかかりますよね。
それに対して、広報は、雑誌社などの媒体に取り上げてもらって記事になるのが普通です。つまり、スペース代=媒体費が基本的にかからないという特徴があります。広告のように、スペースを買う必要がなく、雑誌、新聞、ウェブ媒体の記者に取り上げてもらうことで記事化できるわけですから、その媒体費は不要なわけです。その部分だけを考えるとPR=0円という計算式も成り立つでしょう。
では、本当に0円でできるのか、と聞かれたら?
私はNoと答えるでしょう。なぜなら、例えば「プレスリリースで発信する」場合で説明した場合、その0円の計算式には、以下のようなさまざまなコストが入っていないからなのです。
「プレスリリースを発信する場合」のコストを考える
①プレスリリースを制作するコスト
②宣材写真などの撮影コスト
③媒体にプレスリリースを配信するコスト
④媒体に記事化を促すためにアプローチするコスト(メディア訪問、ミーティング、メールのやり取り、電話のやり取りなど)
⑤メディアからの取材に準備をして対応するコスト
⑥追加の質問などに答えたり調べて回答するコスト
⑦掲載になった記事をモニターし、クリッピングするコスト
⑧記事をまとめてレポートするコスト
ざっとあげただけでもこれだけのコストが裏でかかっています。
すべてを社内の人員でまかない、プレスリリースを配信するのも自社の完全なメディアリストにメール配信することで事足りるのであれば、0円PRは可能だと言えるでしょう。それにしたって、その社内の人件費は毎月のお給料として発生しています。
さらに、社内にそのようなリソースがない場合、外部のPR代理店などの力を頼ることになります。単発でプレスリリースの作成を依頼したり、メディアリストが社内にない場合、プレスリリース配信サービスを利用したり、写真の撮影もカメラマンにお願いする、などなど、そこにはそれ相応のコストが発生するのです。広報代理店と月ぎめのリテイナー契約となると最低でもひと月うん十万のフィーが発生するでしょう。
場合によっては自社のウェブサイトに掲載するために、企業PRビデオを製作する必要が出てくるでしょう。これも外部の制作会社にお願いすると企画費・撮影費・製作費などの形でうん十万かかってくるのが普通です。
そもそもなぜ広報活動をするのか?
露出を獲得して認知を拡大するため、ブランディングの確立、ファンを増やす、採用を強化するため、社内のコミュニケーション活性化・・・。
いろいろあげられると思いますが、究極的にPRの意義は「関係するステークホルダーと良好な関係を築くこと」ですから、それぞれのステークホルダーに合わせ、どのようなメッセージを伝えるのか、をとことん考える必要があるのです。広報パーソンは日々、悩んでいます。どうやったら自社の製品をサービスを世の中に知ってもらえるだろう・・・同じ素材であっても、いかに魅力的に感じてもらうにはどうしたらよいだろうか、さまざまな切り口を考えます。広報とはそのために必要な手段を選び、広報プランを策定していく・・・という終わりなき旅のような仕事なのです。相手によっては、また発信する内容やコンテンツ、そしてどの手段をとるかによっては、コストが発生することは大いにあり得るのです。
PRの費用対効果
広告のようにコスト算出がしやすく、また投資に対するリターンがわかりやすい場合はまだ経営陣に対して説明もしやすいかもしれません。
対する広報は、一度プレスリリースを発信したからと言って山のような掲載記事を獲得したり、テレビに取り上げられたり、雑誌から取材依頼がジャンジャン入る・・・なんてことはまずありません。魔法じゃないんです。本当に地道で継続的な努力が必要なものなのです。ですから一度プレスリリース打ったからと言って「何の掲載にもならなかったじゃないか」と言っての費用対効果をシビアにみる経営者はとても多いと思います。
まとめ
以上のように、「0円」という言葉には、かなりの条件が整った場合のみ成り立つものだと考えます。広告に比べたら安い(媒体費がない)というのは事実としてあります。ひとりでビジネスを立ち上げ、ひとりでプレスリリースでも配信でも取材対応でも何でもこなすことができる人のみ「0円」でPRするのは可能だと言えるでしょう。
私はむしろ、この言葉は広報を知らない人たちをミスリードする危険性があるのではないかと心配します。PR/広報パーソンの一人として「広報とかPRって0円でできるんでしょ?それなのにこの広報費用はなんでこんなに高いの?」なんていう要らぬ疑問を引き起こしかねない言葉だなと若干の危惧を覚えているのです。
企業の経営者も、PR担当者も、広報の目的や意義、そしてその手法を正しく理解して中長期的なゴールに向かって継続的に取り組む。そしてそこに
「コストは必ず発生する」このような理解が必要だと考えます。
写真を ibaraki_nakai さんからお借りしました。ありがとうございます!