広報の仕事 その3「企業広報とブランディング」
新卒で広報宣伝部・広報室に配属になったことがきっかけで、それ以来、会社を変え、業界を変えながら広報の仕事を30年近くやってきました。
広報にはさまざまなタイプの仕事があり、大変幅も広いし奥も深い、非常にやりがいのある仕事です。
私の長女がちょうど中学3年生なのですが、これから自分の将来について考えるであろう時期に差し掛かっています。そんな娘や、娘と同年代の中高生の皆さんにわかりやすく自分の仕事について紹介したいと思いました。これから数回に渡って、広報の仕事に興味がある中高生、あるいは大学生の方にわかりやすく「広報の仕事」についてお伝えしたいと思います。
今日は「企業広報」について紹介します。
企業広報とは
企業広報とは、企業によって呼び方と、業務内容が若干変わることがあります。「コーポレート広報」あるいは「コーポレートコミュニケーション」とも呼ばれ、文字通り、「企業」=「コーポレート」に関わる広報活動全般を指します。しかし、製品広報に対する企業広報という意味でとらえると、製品のような割と狭い、ピンポイント部分を広報していくというより、より大きく全体的な「企業のブランディング」「企業の認知度を高める」「企業のファンを増やす」「採用(リクルーティング)広報」という分野を指すことが多いです。
企業広報の役割は企業のブランディング=企業ブランドの確立、と企業文化の醸成です。企業ブランドの確立とは、社会における企業の立ち位置や世間から見た企業のイメージを創り上げることです。このメーカーといえばこのマーク、この会社といえばこの色など、企業をイメージで覚えていることも多いのではないでしょうか。例えば、マクドナルドと聞くとあの赤に黄色のM字が浮かびますし、アップルと聞くと、シンプルで洗練されたリンゴのマークが浮かびます。そして、そういったロゴだけでなく、マックと聞けばハンバーガーやポテトの味やにおい、アップルと聞けば、高性能なスマホがイメージできますね。このように、ブランドというのは、その体現するロゴや店舗のイメージ、商品のイメージなどがある固有の「メッセージ」を消費者に与えるものでもあります。ですから、ブランドがすでに確立されている企業であれば、そのブランドに沿った形での情報発信が必要になりますし、ブランドが確立されていない企業にとっては、いかにブランドを形成していくようなコミュニケーション活動をしていくか、が重要課題となります。そして企業文化の醸成とは、たとえば「自由な働き方を認める先進的な社風」であったり「地域に密着した地元の人々に愛される老舗企業」など、独自の企業文化を、より確立し、強固なものにしていくことを意味します。
企業ブランドを確立し、企業文化を醸成するために、広報担当は対象となるオーディエンス=ステークホルダーに対して継続的に情報発信します。対象となるステークホルダーは幅広く、従業員、株主・投資家、ビジネスパートナー、販売代理店、消費者、地域住民、官公庁、学生などが挙げられます。
企業広報活動の例
では、具体的に企業広報活動の例を挙げてみましょう。
例えば、私が最初に入社したカメラメーカーでの例になります。企業広報に関わる業務としては、「屋外広告」「企業広告」「写真コンテスト」「寄付活動」「ショールーム運営」「企業広報誌」「各種イベント」などがありました。
屋外広告と言うと、街のビルの上にキラキラと光り輝くネオンサイン。当時は、銀座や新宿の街中、上海やNYなど海外の大都市にも多数設置されていました。ここではメッセージは不要で、ロゴのみ光り輝かせ目立たせるものになります。そして、駅看板や電車広告。駅看板や電車広告は文字通り、電車での通勤時ついつい見てしまいます。新幹線の中が一番高いんですよね。また、ラッピング広告と言って、電車の外側やバスの外側を丸っとラッピングするような広告もありました。
企業広告は、これも範囲が広い言葉ですが、当時私の勤めていた会社でやっていたのは、日経新聞の1面を丸々使って、何回かの連続シリーズで広告を展開することでした。有名なタレントを使ってその方の体の内部をレントゲンで撮影した画像を使ってやった、非常にユニークな広告もありますし、作家などの文化著名人と当時の社長との対談などをシリーズ化して展開したこともあります。
写真コンテストは、カメラメーカーならではだと思いますが、アマチュアやセミプロのカメラマンの方から写真を募り、コンテスト形式で授賞したり、写真展を開催したりということです。寄付活動は、自然環境保護団体である国際NGOに毎年カレンダーを制作して寄付し、その団体はそのカレンダーを販売し活動基金に充てていました。
上記の活動を企画し実行していくのは、主に宣伝部、あるいはマーケティング部と呼ぶところも多いのでしょうか、そういう部署になります。大企業であれば広報と宣伝・マーケは別のファンクションになります。小さめの企業であれば広報宣伝は兼務しているところも多いかもしれませんね。で、上記のような活動をやるだけではなく、それをプレスリリースやプレスイベントなどで発信していく、のはこれまでも数回にわたって説明していますが、広報の重要な役割になります。
企業広報誌
企業広報誌は、「社内報」が従業員向けの内容に特化したものであるのに対し、「企業広報誌」は対象が外部のステークホルダーになります。今では、その多くが企業からのニュースレターやメルマガにとって代わられているかもしれませんね。当時は、この企業広報誌が欲しいという方には住所や名前を登録していただき、郵送で送るという8pから12pほどのカラーの印刷された小冊子でした。年に4回発行しており、当時は外部の制作代理店に制作を依頼しており、その代理店さんのライターさん、アートディレクターさんが毎号の企画を提案してくださったり、文章のほとんどを書いてくださったりしていました。広報で企業広報誌の担当もしていた私は、その代理店さんと一緒に毎号の巻頭ページの特集を考えるのが大好きで、毎回ワクワクしておりました。なぜなら、大抵の場合、私がもちろんお会いしたことのないような、またお会いすることもないような高名な文化人や大学教授などがそのインタビューの対象で、その方たちのお話が非常に面白かったり、興味深いものだったからです。毎回ではありませんでしたが、時々そのインタビューの現場に立ち会わせていただけたのも幸運でした。巻頭特集の他には、その時期に発表された新製品を特集で大きく紹介するページと、簡単に紹介するページがありました。大きく紹介するページでは、その製品開発に携わった技術者へのインタビューがあったり、開発の裏側のストーリーが描かれたりしました。全体の校正作業と、その新製品紹介ページは私の重要な任務でした。
まとめ
ここまでお読みいただいたように、企業広報(コーポレート広報)は製品広報がピンポイントで製品についてアピールするのに対し、会社を全体としてまるっとアピールしていくということ、がお分かりいただけたと思います。製品広報=ドットであるとすると、企業広報=面でのアプローチ、と言えますね。ドットだけの情報発信だと、どうしても全体像がわからなくなります。そのために、企業のいろいろな面を見せ、企業として自分たちがどのような経営理念のもとに、どのような活動をして、どんな社会貢献をしているのか、そういうことを訴求していくのです。一朝一夕にはできませんが、こういう活動を地道に継続することで、企業への理解が深まり、製品を手に取ってみようかなと考える消費者が増えたり、この企業で働きたいと思う学生が増えたり、一言で言うと「ブランディング」が確立され、「ファンが増える」と言うことになります。
今日はこの辺で終わりにします。最後までお読みいただきありがとうございました。少しでも、広報を目指す若い方たちのお役に立てれば幸いです。