残留応力による変形
最近の材料は、優秀なものが多く、残留応力で悩まされるケースが減っています。
(これは非常にありがたいことです。材料メーカーさん、ありがとう!)
それでも、除去部が大きい加工や、残存部の肉厚不足、難形状の場合、残留応力による変形が発生し、不良になることがあります。
残留応力といっても、何が何やら分からん! という方もいらっしゃるかもしれませんので、大まかにイメージでお話してみることにします。
金属は、かなりの高温にならないと液体にならないということは、皆さん、良く御存知かと思います。
もちろん、低い融点の金属も存在します。
金属元素で、融点の高さトップ5とワースト5を挙げてみると
え~っと・・・すいませんでした。 <(__)>
あまりにも、マイナーな金属だらけで、イメージしにくいですね。
もうちょっと有名な金属の融点(固体と液体の境目の温度)を紹介します。
鉄:1538℃
金:1064℃
銀:961.8℃
銅:1085℃
アルミ:660.3℃
錫:231.9℃
鉛:327.5℃
いかがでしょう?
今度は、金属が高い温度で液体になるというイメージを持ってもらえたでしょうか。
金属の定義の一つが、常温(20℃)で固体であることになります。
唯一の例外とされるのは、水銀ですね。
さて。この高い温度から、常温まで温度が下がる際に、冷えて固まるわけですが、外気に触れる部分が早く冷え、内部にある部分がなかなか冷えないということは、イメージしやすいと思います。
つまり、不均一に冷えて固まるわけですね。
そうなると、元素同士がバランスを取りながら固まっていくことになります。(表現としては変なのですが、イメージとして受け止めてください)
その結果、例えば、下のイラストのように、元素がお互いに引っ張り合った状態で冷え固まる場合、
上のイラストのように元素同士が引っ張り合う形でバランスを取る形になります。
一方、下のイラストのように、押し合いへし合いで、圧縮しあいながら固まる場合、
上のイラストのように、ぎゅうぎゅうづめで固まってしまうこともあります。
あとは、均一に押し合うことも引っ張り合うこともない状態
と、大雑把に三種類の形(実際には、これらが混在)になります。
このように、冷えて固まる際、圧縮力や引張力という応力が残留しているわけです。
この内部に溜まっている応力を内部応力とか残留応力と呼んでいます。
加工は、この金属同士の結合(つながり)を断ち切ることになります。
つまり、金属内部でバランスを保っていたのを、強引に断ち切るわけですから、
バランスが崩れ、変形してしまうのです。
そのため、加工により削り取られた後の材料が変形せずに踏ん張れるギリギリの範囲を超える薄肉残しをすると、トラブルが発生しやすいことになるわけです。
材料メーカーによる調質技術(金属元素を整列させる技術)は高まっていますので、過去の経験だけではなんとも言えないことが多いのですが・・・
概ね、『肉厚の半分まで』が、切削加工による加工限界の一般解となっています。プレスや板金加工だと『肉厚の2倍以上』とする場合が多いです。
材料の個体差や、加工時の応力のかけ方、加工時の熱対策によっても、変動がありますので、明確な加工限界を提示することは困難となります。
上記の表現は、あくまでも色々な方々の経験値であることが多いです。
だから、上の数字は、大体これぐらい、という目安で考えてください。
大切なことは、
「残留応力により、加工ひずみ(変形)が発生する可能性がある。」
「残す部分が、出来るだけ薄肉にならないように注意する。」
ということを心がければよいと思います。
こういう事柄を研究し、数値化している大学や研究機関、材料メーカーもあると思いますので、必要がある場合には、そういう研究をしている所に問い合わせるか、実際に加工実験を行なって調べるのが良いでしょう。