中小企業共通EDI
知り合いに町工場のカリスマ経営者がいるのですが、彼のSNSを読んで、考えさせられました。
受発注業務において、FAXを使うことで生産性が落ちるとしてDXが推奨されているというお話です。
その記事を紹介してくれた彼自身、受発注業務のDXが生産性向上に寄与するようになるには、様々な障害を乗り越えないといけないという風にコメントしていました。
まったくもって同感です。
というか、日本という国の受発注形態は、典型的なアナログ型なんです。
図面がない(スケッチはおろか口頭の場合も)
お金を払わない(無償サービスを要求)
納品後の価格変更(主に値下げ)
納品後の相手部品不具合へのすり合わせ調整
支給された材料が不良品だった(材料の検品や修正)
予算もなく、稟議も通っていないが、納期だけは確定している(見切り発車)
等々、枚挙に暇がないほど、イレギュラーが頻発します。
もちろん、きちんとした計画のもとに、タイムリーに仕事が進んでいくものもあります。
この辺りは、お客さんの状況次第というところです。
弊社でも、無償サービスについては、ある程度までは対応しています。
でも、限度を超える過剰なサービスを求めてくるところは丁重にお断りしております。
いずれにせよ、こういう変則的な発注形態に柔軟に対応できるのは、人間しかいないんですよね。
これはこういう事情があるから、ああしないといけない。
という感じで臨機応変に動けるのは人間しかいません。
(将来的にシンギュラリティが起きてAIで代用可能になるかもしれませんが・・・多分、損して得取れ的発想は教え込めないんじゃないでしょうか。)
さて。お題の中小企業共通EDI。
国が一生懸命に考えて、予算を取って開発してくれているわけですが・・・
正直言って、無理だと思います。
業界ごとに慣習が違いますし、一番最初の課題として、知人のカリスマ経営者が指摘していたように、
関東と関西では、振込手数料の振込先負担と受取人負担の違いによる請求金額との不一致問題があります。
これは単純なようでいて、複雑な問題です。
発注元が関東で、受注元が関東だと、振込人が手数料負担を行ないます。
発注元が関西で、受注元が関西だと、受取人が手数料負担を行ないます。
どちらかが関西企業である場合、どちらが手数料負担をするか発注元次第で変化します。
実際、弊社も関東の企業と取引経験がありますが、ある企業は振込人が負担し、ある企業は手数料引きで振込をしてこられます。
一応、法律では「振込人負担」という風に決まっております。
民法(第484条、第485条)に、【持参債務の原則】という決まりがありますし、下請法でも【書面での合意契約なしに振込手数料を引く行為を禁止】しています。
もっとも、関西では商習慣として根付いていますので、書面での合意なく手数料引きが行なわれています。
(それだけに、関東の会社さんが書面契約なしに振込手数料を差し引いて振り込んでこられた時は驚きましたが・・・)
で、カリスマ経営者の指摘があったように、この振込手数料負担が、各企業によってバラバラの基準で運用されているんですね。
となると、DXして中小企業「共通」なんて出来なくなってしまうんです。
売掛金の消込段階で、エラーが大量発生してしまいますから。
そんなのは、この発注元は引く・引かないとすれば良いと思われるかもしれません。
でも、先ほどの事例のように、発注元が受注企業を見て、適宜手数料負担をどちらにするか、変更している事例が数多くあるのです。
しかも、3万円未満は振込人負担とか1万円未満とか、独自ルールまで存在します。
んでもって、使う金融機関の組み合わせで振込手数料が異なります。
振込手数料を引くとなっていますが、実費だけに留まらず、事務手数料まで引いてくるところもあります。(これも下請け法違反ですが・・・)
引いてくる金額もバラバラ、基準もバラバラなんですよね、
さらには、半金半手(半分現金・半分手形)だったり、回り手形の有無による金額条件の変更も発生しますので、総額判定だけでは機能不全になります。
要は、日本の商取引は、相互信頼における信用取引なので、
厳格なルールの運用が存在しない
というお話なんです。
この点、DX先進国のドイツは、徹底的なルール厳守社会です。
日本人がドイツ人と一緒に仕事をすると、往々にしてドイツ人は融通が利かない仕事っぷりだと非難します。
反対にドイツ人は、日本人は優柔不断でコロコロと変わる計画性のない仕事をするんだと呆れます。
お互いに仕事に対する考え方の違いなんですよね。
もちろん、個別に見ていけば、ドイツ人も融通が利く人はいますし、日本人もガチガチのルール厳守主義の人もいますけれども・・・
いずれにせよ、まずは、簡素な支払いルールに変更するのが良いと、私も思います。
法律により、月末締めの翌月末、銀行振込のみとする。
今の日本企業(特に大企業)は、莫大な剰余金を持っています。
日々の決裁費用なんて余裕で出せるでしょうし、出せないなら都銀や地銀が融資してくれるはずです。
都銀や地銀にとっては、優良企業への貸出で経営改善が進み、多くの国民にとって利益になることでしょう。
下請け企業にとっては、手形で現金化が遅れ、資金繰りで行き詰るリスクが減ります。
不渡りをくらったら、連鎖倒産する場合だってあります。
何よりも、公共事業で国が投資した資本が、スムーズに国民全部に行き渡りやすくなります。
これは、プライマリー・バランスの面でも、国民の税負担を軽減するうえでも、景気浮揚効果を引き上げる上でも大きなメリットになります。
この辺り、経営の神様と言われた松下幸之助翁も生前、何度となく仰っておられたのですが・・・
松下政経塾出身の政治家の方々で、今、手形廃止論とかを唱える議員さんは、一人も見たことがないですね。
いずれにせよ、受発注システムのDXで生産性が向上するのであるならば、知人のカリスマ経営者が言っていたように、振込手数料の振込人負担は法制化すべきでしょうね。
それが無ければ、中小企業共通EDIの普及はなく、DX推進も頓挫するでしょう。
この辺りは、日本の宿命なのかなあ・・・
私やカリスマ経営者の予測を覆えし、DXが進み日本が良くなることを願っております。
ただ・・・
日本の強みって、【融通性】にあるんですよね。
大規模投資での低価格路線が取れず、徹底したブランディングによる高価格路線も取れない。
その結果、【すり合わせ調整】を必要とする業務に強みを発揮している。
で、そういうのを柔軟にやっていくには、【アナログ】の方がやりやすいし、コストも抑えられる。
恐らく、現状認識をきちんと精査しておらず、ドイツ等のDX先進例を見て、日本もやらねばならない! 世界に遅れているぞ!
となっているのでしょう。
むしろ、【融通性】を評価し、高価格を提示してくれるようになれば、生産性は上がるのになあと思います。
この辺り、日本の文化として根付いているので、難しいと思いますけどね。