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2024年衆院選後雑感。アジェンダ変革への萌芽。

10月27日投開票の衆議院議員選挙。自民党・公明党の与党が過半数割れという大敗北を喫し、維新が議席を減らした一方、立憲民主党、国民民主党、れいわ新撰組が議席を伸ばした。

自公が215議席の結果であり過半数である233議席を割ったにも関わらず、単独過半数を取った政党も無い以上、与党自公が政権を維持するにせよ、非自民野党政権を成立させるにせよ、広く他党の協力を求めねばならず、まさしく、政権という鹿が中原に放たれることとなった。

そこで俄然注目を集めたのが、7議席から28議席へと議席を4倍に増やした国民民主党である。

旧民主党政権勢力を基盤としながら、裏金問題や統一教会問題への追及を優先させてきた立憲民主党とは一線を画し、「対決より解決」をスローガンにしてきた国民民主党は、自公とも非自民野党とも協力できる立場を最大限活用し、今後の政権枠組み作りの中でキャスティングボードを握る立場となった。

さて、そんな投開票結果から10日ほど。

そこで国民民主党がやったのは、首班指名選挙において他党党首に投票することは無いという玉木代表の言明で政権交代ムードに一線を画したことと、「手取りを増やす」公約に掲げてきた基礎控除の引き上げをはじめとする政策実現への他党への訴えである。

基礎控除引き上げ等の政策的当否やその実現は、今後成立する政権や予算及び法律の審議次第だが、少なくとも、SNSや報道を見る限り、国民民主党はそれまで主なアジェンダだったスキャンダルから政策へと国政のアジェンダを転換することに、一定程度の成功を収めたようだ。

今回の選挙もそうだったが、これまで報道等で示される国政のアジェンダは、いわゆる裏金問題などの与党スキャンダルの印象が強かった。多くの場合、しばらくすれば野党にも同じようなスキャンダルが発掘され、いわば国政の大問題として、スキャンダルの泥試合を有権者は見せつけられてきた感がある。

刑事民事の法令に違反するような行為は与野党ともにアウトであるが、それはそれで法的責任追及の過程があり、そちらに委ねればよいはず。にも関わらず、政治や報道の場で政治家や政党を裁こうと試みることが、政治の本分であるはずの経済政策や外交・安全保障政策をよりマシなものにすることにどう繋がるか、自分含め、多くの有権者にはわかりにくかったのではないか。

つまり、現代における政治不信や政治への興味関心の希薄化の元凶の一つは、主に野党や報道が繰り返してきた、スキャンダルを中心とするアジェンダ設定なのではないかと考えている。

国民民主党の台頭は、今のところ、このアジェンダ設定の変革に一つの萌芽をもたらしたと言えるのかもしれない。

選挙後、それまで裏金問題を追及していたはずの報道は見事に手のひらを返し、具体的な手取り収入に直結する基礎控除引き上げに関する賛否の議論について、様々な専門家の議論を紹介し始めた。

立憲民主党は、当初野田代表を総理とする首班指名選挙への協力を呼び掛けていたが、そのために、野田代表自らが、基礎控除引き上げをはじめとする政策協議に前向きな姿勢を示さざるを得なくなった。かつて基礎控除引き上げを主張していた共産党は、非自民政権への協力を言明しない国民民主党への批判を優先し、その政策を批判し始めているように見える。

自民党も、政策協議に入ることは前提に、政府関係者や閣僚などの発言を通じ、基礎控除引き上げなどの国民民主党が掲げた経済政策について従来からの政府見解を繰り返し説明し、盛んに交渉のための牽制をしているようである。

政党や報道が国政や首班指名選挙について言及する際、国民民主党が掲げた、「基礎控除引き上げ」をはじめとする政策への踏み絵を踏まざるを得ない状況になりつつある。

このように、国民民主党がキャスティングボードを握ったかに見えるここ10日余りで、政治のイシューは「裏金」から「基礎控除引き上げ」に変わったし、そのことは、わずか一ヶ月前の政治報道に比べれば隔世の感すらある。

政策本位で議論される政治というのは、これまで声高に言われていたものの、言うは易し行うは難しだった。しかし、政策実現を真正面から掲げる国民民主党が躍進したことで、それが変わりつつある。これは、有権者にとって、「投票すれば変わる」という意識を生んだわけで、今回の選挙の一つの収穫には違いないと思う。

もちろん、国民民主党の掲げる政策がすべて正しいかどうかはわからないし、今後の政党間交渉でどこまでそれが実現されるかはわからない。その意味では、注目されている国民民主党こそが、最大の土壇場にあると言っても過言では無かろう。

ただ、国民民主党がどうなろうとも、スキャンダルの泥仕合から政策論争へというアジェンダ変革の流れを止めることは無いよう、日本の議員や報道関係者に対し、それこそ意識の「改革」をお願いしたいところなんである。

(2024.11.6)

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masaru sakamoto(坂本 勝)
ありがとうございます!!