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中居正広氏の「責任」についての雑感
2024年に女性とのトラブルが『女性セブン』や『週刊文春』といった週刊誌に報じられ、示談済みとのことで芸能活動継続の声明を出すも、2025年1月にはその引退を表明せざるを得なかった中居正広氏。
言わずと知れたジャニーズの国民的アイドルグループSMAPのリーダーを努め、マルチなタレントとして、芸能界のいわば頂点にいた存在のトラブルと引退は、市井の人間として衝撃的だった。
中居氏のトラブルに端を発し、フジテレビが、女性職員を有力者の性的な接待要因として、いわゆる上納していたのではないかとの疑惑も浮上し、フジテレビは重ねて会見を実施。多くのスポンサーが番組でのCM提供を控えるなど、2025年2月時点で、混迷は続いている。
そんな中、発端となった中居氏が、誰に対してどんな責任があるのかについて、素人なりにちょっと考えてみた。
①女性に対する民事責任
まず、トラブルの対象となった女性に対する民事責任について。
報じられているところによれば、女性との間には示談が成立しているそうである。示談とは、損害賠償など民事上の権利義務の争いについて、当事者間の合意で終了させることであり、民法695条の和解契約に相当する。すなわち、女性との間での民事上の責任は、女性側も契約として合意した示談により、すでに果たされていることになるのではないだろうか。
②女性に対する刑事責任
ただ当然、責任は民事だけでなく、刑事もある。中居氏の女性への行動が、例えば刑法上の不同意性交等の罪に該当するのであれば、刑事責任が発生する余地がある。
刑事責任は、成立に告訴を要求される親告罪を除き、被害者の意向に関わりなく犯罪が成立しうる。つまり、中居氏と女性が示談をしていても、刑事責任を問われうる可能性はあるのである。
とはいえ、これも、捜査の着手や検察官への送致(いわゆる書類送検)はありうるとしても、実際に刑事裁判で有罪となり刑事責任を問われる可能性はほぼ無いのではないか。
まず、親告罪ではないとしても、被害届を出さないとなれば、女性の処罰意思は低いと判断されざるを得ない。刑事事件だと被害者の捜査協力が不可欠だが、示談で詳細を公にしないことを両当事者が望んだのであれば、その協力は得にくいだろう。捜査するにしても、捜査協力が得られないのであれば捜査はできない。
仮に捜査をし送致できたとしても、示談の成立に加え、芸能界引退といういわば社会的制裁は、送致後の起訴不起訴の判断に大きく影響する。おそらく、証拠不十分の不起訴か、情状に配慮した起訴猶予になり、刑事裁判に至らないのではないか。
このように、芸能界引退に加え示談が成立しているとすれば、女性への民事責任は全うしており、かつ刑事責任を追及される可能性は低いと考える。
③その他の責任
被害女性に対する責任は示談と芸能界引退である程度果しえたとしても、中居氏のその他の責任はあり得るだろう。
具体的には、中居氏のトラブルによる番組降板あるいは番組終了があった場合に、そこで生じたテレビ局や番組制作会社等に対する損害を賠償する責任は生じうるかもしれないし、中居氏に対しスポンサーをしていた企業等は、イメージ悪化に伴う損害賠償を請求する余地はあると思う。
それは、続報次第ではあろうけれども。
さらにその他と言えば、中居氏の道義的責任はあるのかもしれない。しかし、それこそ中居氏の心理や行動次第であり、その責任を誰に対してどの程度負っているかというのは、可視化できない。責任があると思う人々の個人的な感情としてしか、扱うことはできないだろう。
現在報じられている情報に基づく限り、番組制作会社やスポンサーに対するものは別として、トラブルの対象となった女性に対しては、中居氏、少なくとも法的にはほぼほぼ責任を取った形ではあると思う。
これに対し、SNS上では、責任の取り方が不十分であり不愉快として、訴訟などの事実の具体的な吟味を経ずに、さらなる責任を求める声もあるようだ。一方で、トラブルの対象となった女性に対し、やはりSNS上のアカウントのコメント欄に誹謗中傷が続いているという。
中居氏に対し、根拠や程度が定かではない無限責任を求める人々の意見を正当とするなら、相手女性に対して根拠や程度が定かではない無限責任を求める人々がいても、不思議ではない。
しかし、個人的にはどちらもおかしいと思う。
自分が中居氏によって、あるいは相手女性によって何か具体的な損害を受けたのなら、権利として請求すればいい。しかし、そのような権利が無いのなら、ただの自分の不愉快であり、それを中居氏や相手女性にぶつけるのは不当だし、行動が誹謗中傷や危害予告などにいたれば、それ自体が別の犯罪になりかねない。
もちろん、中居氏による女性への振舞いに問題があったのかもしれないし、トラブルによって中居氏という一流タレントが芸能界を引退したのも事実だ。それに様々な感情を持つ人がいるのは当然である。その感情をどこかにぶつけなければ気が済まないのは、わからんでもない。
ただ、その感情はあくまで自分個人のものだ。おそらく、多くの場合、法でも権利でも何でもない。自分の感情は他人にぶつけずに自分で面倒を見るのが、一人前の人間ではあると自分は思う。
中居氏の責任を巡るあれこれで難しいのは、中居氏本人の責任はもちろんだが、中居氏が責任を取る立場にない渦巻く人々の感情を、世の中としてどう宥めるかなのではなかろうか、そんなことをつらつら思った次第である。
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