リーダーにはビジョンとパッションが必須
グローバル化が進む変化の激しいビジネス環境下では、リーダーは正解のないところから新しいやり方を生み出し、これまでのやり方を変えて結果を出すことが求められます。そのためには、現場の情報を吸い上げ、意見を引き出し、多様な意見が出やすい環境づくりをしなくてはなりません。
1.リーダーの存在意義とは
日本のリーダーが海外に赴任した際の現地での就任あいさつは、「今度、この地域を統括することになった○○です。前任者に引き続き、どうぞよろしくお願いします」と、極めて簡単な自己紹介で終わらせてしまうことが多いようです。
「私はこの地域の責任者として何を重要と考え、このポジションで何を成すためにここに来たのか、この組織の皆さんと一緒にどういうチームをつくりたいのか」というビジョンスピーチをする日本人は、残念ながら多くありません。日本国内において、新任の課長や部長が着任したときにビジョンスピーチをすることは、さらに少ないのではないでしょうか。
これまでの日本の組織では、誰がリーダーに就任しても、日常の仕事は粛々と遂行されてきました。大手企業では、新任部長であっても、自分の席にいれば、次から次へと優秀な部下がやってきて、「これをお願いします」「今日は、このスケジュールで動いてください」というように、日々の仕事の段取りは部下が執り行うので、それをこなしていれば一日が終わります。
それを是とすれば、日々の仕事は当面は進んでいきますが、変革やイノベーションは起こらないでしょう。変革やイノベーションを起こさないのであれば、VUCA時代におけるリーダーの存在意義とは何なのか――。改めて考えさせられます。
2.リーダーは伝えたいビジョンを持つ
穏やかな水面でボートを漕いで競争するボート競技のリーダーのアプローチと、激しい川の流れの中で川下りをする激流ラフティングのリーダーとでは、求められる要件が違うということは、誰もがイメージできると思います。VUCA時代は、たとえれば、激流ラフティングです。だからこそ、リーダーはビジョンを示して方向性を明らかにするとともに、志、情熱を持って、メンバーのやる気を引き出していかなければならないのです。
ビジョンが示されていれば、メンバーは、何をすることが最優先であるかを自分で考えることができます。リーダーが明確なビジョンを持ち、ぶれなければ、激しい川下りをすることへの恐れや不安よりも、リーダーを信頼し、成果を出すことに喜びを感じるようになります。
日本から上海に赴任された、あるシニアエグゼクティブのグローバルリーダー(日本人女性)が赴任初日に行ったことは、ビジョンスピーチ。それも、最初の自己紹介は、勉強中の中国語で、その後は英語で行ったということを、日本でお会いしたときに、活き活きと話してくださいました。
上海のローカルスタッフから、「ビジョンスピーチを語るリーダーが日本から来たのは初めてだ」と言われたそうです。その方は、ビジョンスピーチをしながら、現地のスタッフとこれから仕事をすることへの信頼関係や人間関係構築の手ごたえを強く感じたと、話してくれました。
香港の大手日系メーカーでローカルスタッフとして働いていた知人は、日本人の2名のシニアマネジャーと仕事をした実体験から、グローバルリーダーにとって、何よりも大切なことはビジョンだと語ってくれました。最初に赴任してきた日本人リーダーは、語学は堪能だったが、自分が何をしたいかのメッセージがなく、スタッフとの丁寧な対話もしなかったため、香港スタッフとの溝は深まり成果を出せなかった。
次に来た二人目の日本人マネジャーは、一人目のリーダーと比べると英語はあまり上手ではなかったが、積極的にスタッフとコミュニケーションをとり、自分の考えを日常的に伝え、その結果、スタッフも彼にコミットし、成果を出すことができたということでした。
グローバルリーダーにとって重要なことは、言葉の問題ではありません。言語は、あくまでコミュニケーション手段です。グローバルリーダーには、英語は必須条件です。しかし、それ以上に大事なことは、リーダーとして伝えたいビジョンがあるか、ということです。
3.ポジションに就くことへの意志と情熱(パッション)
リーダーになることのパッションの源はどこにあるのでしょう。多くの日本人リーダーには、「自分がこのポジションで何をしたいのか」「この会社でどういう貢献をしたいのか」といった、リーダーとしてのビジョンや意志、そして決めたことをやり抜く情熱が不足しています。昇進・昇格をして新しいポジションに就いた人に、「あなたは、なぜそのポジションになれたのか」「何をしたいのか」と問いかけたとき、明決に回答できる人がどれだけいるでしょうか。
ある企業の新任リーダー研修で、「皆さんは、なぜリーダー(新しいポジション)に就いたのだと思いますか?」と質問したところ、これまでの仕事ぶりが認められたから、という回答が大多数でした。自分のリーダーシップが認められたから、あるいは、新しいポジションに就く準備ができていると認められたから、はたまた、自らそのポストに挑戦をしたから、といった回答をした人はいませんでした。
新たなポジションに就くということは、組織の中のステージが変わり、その役割に伴う責任や権限の範囲が広がるということです。リーダーシップ・パイプラインの階層が変わることへの不安もあるでしょう。しかし、それにも増して、仕事のスケールが今よりも大きくなるという「ワクワク感」や、いまだ経験したことのないさまざまな挑戦を乗り超えた先にある大きな成果を達成したいという意欲が、リーダーとしての情熱の源泉ではないでしょうか。
しかし、年功序列の考え方が根強くある日本企業においては、「ポジションに就く」ということが、年次的に昇進の時期に来ている、あるいは、同期よりも昇進が少し早い・遅れている、という認識でとらえる人がほとんどだと感じます。
リーダーになることへの覚悟や準備ができていなくても「ポジションが人を育てる」という日本的人材育成の考え方は、現在のビジネスのスピードと大きく乖離します。戦略的、体系的にリーダー人材を育成する方法へと転換していかなければ、世界の競争で勝つことができるリーダー人材の輩出はさらに遅れることになり、日本企業の世界での競争力がさらに落ちていくことが危惧されます。
4.ポジションは、ねらって獲りにいくもの
欧米でもアジアでも、「リーダーのポジションは、ねらって獲りにいく」という意識が強くあります。アメリカの調査結果の中に興味深いものがあります。「あなたがこれまでに経験した一番のチャレンジは何か?」という質問に対し、「昇進して初めてリーダーになった」ことが、「結婚した」「子どもが生まれた」「離婚した」といった人生のイベントよりも大きなチャレンジだったという調査結果が出ています。
「ポジション」をねらうのは、そのポジションに就いて「成し得たいこと」、言い換えれば志や情熱があるからです。一方で、ポジションに就くことによる、負わなくてはならない結果責任のプレッシャーもありますから、そのために自分のスキルや知識、能力を高めるための努力や学びも必要ですし、役割を果たすことへの覚悟も必要です。
これらの点は、自分のキャリアに対する自己責任の意識が強い世界のリーダーと比べたときの日本のリーダー候補との大きな違いです。これでは、日本のリーダーが海外の優秀な人材とポジション争いをして勝てるわけがありません。
クローバル化が加速する中、外資系多国籍企業では、インド、シンガポール、中国などアジアのリーダー間で自国での限られたポジション獲得競争が激化しています。そのため、日本でそれに匹敵するグローバルポジションをねらって手を挙げてくるという話をグローバル人事の方から聞きます。しかも、アジアのリーダーと日本人リーダーとを公平かつ客観的にタレントレビューで評価をすると、残念ながら日本人リーダーは能力的に見劣りするということでした。
さらに残念なことに、日本のリーダーは、現状のポジション以上に権限や責任範囲が広がる、より高いレベルのグローバルポジションを獲ることへの野心や情熱が低いということも嘆いていました。
5.「ティアラ・シンドローム」
女性の昇進の落とし穴として、アメリカに、「ティアラ・シンドローム」という言葉があります。仕事に全力を尽くしていれば、きっと誰かが認めて昇進させてくれる――。このような思い込みを「ティアラ・シンドローム」と言います。アメリカでこのような言葉があるということを意外だと思う方もいらっしゃるでしょう。真面目にやっていたら、誰かが認めてくれてティアラをつけてくれる、そんな夢のようなことはなく、ポジションは、自ら手を挙げ、チャレンジしていくものだ、という分かりやすいたとえです。
男女雇用機会均等法以前に入社し、現在、第一線で活躍している女性リーダーとお会いすると、共通項があります。自らポジションを獲るという意志を持ち、キャリアを積み、そして機会を活かして得たポジションで、これまでの誰よりも優れた成果(結果)を出しているということです。
性別に関係なく、新しいポジションを自ら獲りにいくということは、本人の意志と能力の両方が必要です。グローバルポジションは責任・権限の範囲が広くなるわけですから、より一層「そのポジションで何をしたいのか」「どういう貢献をしたいのか」という志、情熱を持って、自ら獲りにいく意志が必要です。
6.おすすめ人材アセスメントソリューション
7.グローバルポジションを獲りにいく
グローバル企業において、日本人は優秀な部下にはなれるが、グローバルポジションはとれないという事態が起きつつある。外国人、とりわけアジアの優秀なリーダーたちが、日系企業の重要ポジションを占め始めている。このままでは、日本人はグローバルはおろか、国内でも重要なポジションをとれないことが危惧される。
日本企業では、なぜリーダーシップ開発が停滞しているのか。グローバルポジションをとれるリーダー人材は、いかにして輩出されるのか――。
日本人のリーダーがグローバルで戦うために世界基準で獲得すべきリーダーシップスキル、及びリーダーシップ開発成功の要諦、人事が起こすべき変革、経営のコミットについて、具体的事例とリーダーシップに関するグローバル・データを織り交ぜながら解き明かす。
8.会社概要:株式会社マネジメントサービスセンター
創業:1966(昭和41)年9月
資本金:1億円
事業内容:人材開発コンサルティング・人材アセスメント