【ASMR台本形式短編小説】『幽霊のお姉さんと過ごすひととき』のあとがき

この記事は拙作『幽霊のお姉さんと過ごすひととき』のあとがきとなっております。ネタバレを多分に含みますので未読の方は是非とも以下からご一読くださいませ。

本作は第3回「G’sこえけん」音声化短編コンテストに向けての応募作品となっています。こちらのコンテストには2部門——「ボイスドラマ部門」と「ASMR部門」がありまして、『幽霊のお姉さんと過ごすひととき』は「ASMR部門」に応募しています。

さて、この記事では作者視点で本作の各話について語っていこうかと思います。駄文乱文となりますがどうかご容赦いただければと。


はじめに

しばらく自分語り的な文章が続きます。興味のない方は目次から"Prologue「私をここから連れ出してくれないかな?」"へ飛ぶことをおすすめいたします。

本作はASMR音声作品とすることを目標とした短編作品です。なので記述の形式もヒロインのセリフとト書で構成される、台本形式となっています。

作品本文のスクリーンショット
Prologue 「私をここから連れ出してくれないかな?」より

ヒロインの名前は出てきません。ただ「幽霊」とだけ描写されます。また、「主人公」というのは聞き手のことです。「あなた」に置き換えても構いません。

こういった形式の文章を書くのはあまり経験のないことで——おそらく完結した短編作品として発表したのは初めてのことかと思います。

音声作品の視聴経験の方はと言うと、それなりに多く聞いてきたと自負しています。……主にR-18音声作品を。

では全年齢作品は聞いていないのかと言えばそんなことはありません。

「RaRo」様の「リンジンASMR ~万年腹ペコ!? となりの彫刻家。木材・石鹸彫刻/スプレー/梵天竹耳かき~【CV:井澤詩織】」は彫刻音という珍しい題材を扱っているのがとても興味深かったですし、「
CANDY VOICE」様の「深淵の執行人が見せる、二人だけの時間【耳かき・添い寝】癒しの耳かき執行人ー御門院晴一郎ー(CV.森川智之)」は森川さんのかっこいいお声に安心感を覚え、すんなりと眠りに誘われてしまった記憶が(おぼろげに)あります。

また、私はスマートフォン向けゲーム、『ブルーアーカイブ』のユーザーでもありますので、全年齢向け音声作品の話となればブルアカASMRについても語らねばならないでしょう。
といっても、購入作品数は多くなく、現在(2024年9月6日現在)での購入作品は以下の3作品となっています。

  •  【ブルーアーカイブ】ユウカASMR~頑張るあなたのすぐそばに~

  •  【ブルーアーカイブ】ヒナASMR~甘えられる優しいひと時~

  •  【ブルーアーカイブ】ヒマリASMR~ほどけた心をゆだねられ~

正直、この3作品については甲乙がつけられません。ですので3作品すべてに共通する印象として好きな点を挙げることとなるのですが、とにかくこちらの3作品は作業用音声としてかなり「使える」と思います。作業中のタイプ音や生徒たちの呟きがとてもリアルに感じられて、すぐそばで生徒が一緒に仕事をしてくれている……そんな感覚が味わえるのです。

もちろん、生徒と一緒に過ごす甘いひとときもそれはそれは魅力的なのですが、私は作業用音声として音声作品を聞くことが多いため(R-18音声作品ですら作業のお供として利用することがあります)、作業用音声としての使用感は個人的に重要なポイントだと見做しております。

——さて、ではそんな私が書いた『幽霊のお姉さんと過ごすひととき』は一体どうなのかと言うと…………作業用音声としての実用性を一切考慮していません!

といいますか、自分が音声作品をどのように利用するかを改めて客観的に考えたのは、このあとがき記事の執筆中の話でして、つまり作品の執筆前にはそんなことは1ミリたりとも考えませんでした。

……というわけで次回作を書くことがあれば作業用音声としての実用性を意識した作品になるかと思います。

じゃあ『幽霊のお姉さんと過ごすひととき』はどういうポイントを意識したのかと言うと、ぼんやりとしたASMR作品のパブリックイメージ的な癒しを意識した……としか言いようがありません。なにせ執筆開始時点で締切2週間前だったのです。分析なんて放り捨ててとにかく書いて出すことだけを考えていました。

さて、そんな状況で生まれた作品がどのようなものになったのか、是非とも一緒にご確認いただけたらと思います。

Prologue 「私をここから連れ出してくれないかな?」

主人公——つまりあなたが廃病院の地縛霊、「幽霊」と出会う場面です。

このお話を書いている時点では幽霊のお姉さんに甲斐甲斐しく世話を焼いてもらって癒される——そんなシンプルな筋のお話を構想していました。

Track1でお姉さんに栄養状態を心配された主人公がおいしいご飯を食べて、Track2でお風呂に入った主人公がお姉さんに髪を洗ってもらったり背中を流してもらったりして、
Track3で髪を乾かしたり耳かきしたりして、
Track4で童謡でも歌ってもらって寝かしつけてもらって………………。

という流れにするつもりでした。それで最後にお姉さんは(そもそも地縛霊が人間に憑依なんてできるわけないので霊体を維持できなくなる)といった理由でいなくなってしまうか、主人公の家を新たな地縛先として居着くか、みたいな形でエンディングを迎える。——そういう流れですね。

しかし、その目論見ははかなくも崩壊してしまいます。大筋こそ維持されたものの、思い描いたものとはまったくの別物となったのです。

すべては、Track1でお姉さんが馬脚を現したことに端を発します。

Track01 「夕食を味わわせてくれないかな?」

本来、ここはお姉さんが主人公に夕食を作ってあげる予定のシーンでした。しかしここでいくつかの疑問が作者の脳裏をよぎります。

  1. 幽霊のお姉さんに物が持てるのか?

  2. 設定上昭和後期頃に亡くなったお姉さんに現代の家電が使えるのか?

  3. 設定上病弱なご令嬢だったお姉さんに料理の知識があるのか?

  4. 誰かの癒しが必要な状況の主人公の家に、まともな手料理が作れるだけの材料があるのか?

そんなもん無視すれば良かったのかもしれませんが、作者はこれらの問いに真正面から向き合い、筋書を変更するに至ります。

主人公が買い置きのカップラーメン(担々麺)を食べてお姉さんがその味に悶絶し気に入るという流れに。

ちなみに、主人公の食べたものの味覚がお姉さんにも共有されるという設定はプロローグ執筆時点から考えていました。これによって食べものの味を味わいながら同時に食レポをこなすという、両面宿儺でもなければできなさそうな芸当が可能となったわけですね。可能になったからなんなんでしょうね。

また、このお話ではお姉さんが給湯器に手を突っ込んで「あちっ」と言って手をひっ込めるというくだりもあります。やってることがガキすぎる。ここでもうミステリアスの「ミ」の字も残らないくらいに世間知らずのお嬢様属性——といいますかガキ属性が強く顔を出してきてます。せめてあと2トラック分くらいはミステリアスなお姉さんを続けさせるべきだったかもしれない。

ここでお姉さんがミステリアスお姉さんをやめてしまったため脱落してしまった読者さんもいたかもしれないと思うと申し訳ない限りです。

ちなみに、このTrack1ではカップラーメンができるのを待ちながらお姉さんが話をするくだりがあるのですが、ここは実際に音声合成ソフト(CeVIO)にお姉さんのセリフを流し込んで、だいたいの時間を計りつつ書きました。

さて、というわけで本作の方向性を変な方向に決定づけてしまったTrack1については以上となります。その煽りを受けて癒されるというよりはらはらする感じになってしまったTrack2について見ていきましょう。

Track02 「髪を洗ってあげよう」

お風呂が湧いたので浴室へ入り、まずはシャワーを浴びる主人公。そこに幽霊のお姉さんがにゅっとドアを通り抜けて中へ入ってきます。直前に「心配せずともお風呂までは付いていかないさ」なんて言っていたのに、です。

といっても、お姉さんが即座に前言撤回をしたのはお姉さんのキャラクター設定を変な方向に真面目に考えたことが原因ではありません。私にとって「ミステリアスなお姉さん」概念のキャラクターイメージの大部分を占めていたのが、漫画「鵺の陰陽師」の鵺さんだったことが大きな要因として挙げられましょう。

鵺さんは主人公の学郎に無茶振りをすることがたびたびあるのですが、「○○には絶対ならないよ」→(鵺さんのせいで)○○が起こる、という展開が作中で何度かあります。本Trackの導入部分の流れも、これの影響が大きいでしょう。ちなみに鵺さんのこれは、無茶振りを通して学郎を鍛えるという意味があるものなので、本Trackでのお姉さんの挙動とは全然意味が違うということは明言しておきましょう。

また、お姉さんのフランクなところも鵺さんの影響が大きいかもしれませんね。

さて、話を戻してTrack2の内容についてです。本Trackを書くにあたって髪の洗い方を色々と検索し、ある程度正しそうだと思われる方法を書いたのですが、ここで障害となったのがお姉さんが霊体である、ということです。

Track1時点で考えた疑問「幽霊のお姉さんに物が持てるのか?」への答えとして私が定めたのは、「軽い物なら持てる」でした。物体への干渉はかなり限定されている、というわけですね。

私達肉体を持つ人類はあまり意識する機会がないかもしれませんが、髪を洗うというのは実のところ、けっこうな重労働です。シャワーヘッドはまあまあ重いし、水で洗い流すのも毛穴に汚れが残らないようにするのも、シャンプーを泡立ててしっかり揉み込んでいくのも、案外力が要ります。

そんな重労働に幽霊のお姉さんは霊体ひとつで立ち向かうわけです。

例えるなら、幼い子供を一人でおつかいに出すようなものでしょう。

癒しなのか……………………?

お姉さんはこの重労働を通し、今の自分の限界を認識して、このTrackは終わります。

癒しASMR作品ってこういうのじゃないと思う。

Track03 「耳かきしてあげよう」

「リベンジさせてくれないだろうか」

「お風呂では、キミに迷惑をかけた。今度こそはちゃんとやり遂げて——キミに、癒しを与えたい」

 幽霊、少し不安げな声で尋ねる。

「いいかな?」

「……ほんとう? よかった。ありがとう」

「私なりに、さっきの失敗の原因を分析してみたんだ。そこで気付いたんだが、髪を洗うには水を出したり止めたり、シャンプーを泡立てたりと、なにかとモノに干渉しなくてはいけない機会が多かった。中には、非力な……そして物理的肉体を持たない私にとっては、かなりの重労働となるものさえあった」

「なので今回は、モノにあまり干渉せず、かつ軽いものしか扱わない方法でキミを癒してあげようと思う! その方法とは——うん、キミが見ている、これだ」

 幽霊、主人公に耳かきを見せる。

「そう。耳かき。部屋を物色させてもらったら竹のものがあったのでね、今回はこれを使わせてもらうことにしようかと」

Track03 「耳かきしてあげよう」より

というわけでこのTrackではお姉さんがリベンジを試みます。

使うのは竹製の耳かきとティッシュくらい。霊体なので膝枕はしてあげられない。息を吹きかけることくらいならできる。……という感じで、ポルターガイストもまともに起こせない幽霊のお姉さんにも無理なく実行できる範囲の仕事です。

耳かきについてもやり方をネットで調べるなどして書いたのですが、「耳かきはするな」という話ばかり出てくるので皆さんが自分でする際は自己責任でお願いします。

さて、耳かきそれ自体についてはかなり順調に進みます。幽霊のお姉さんでも無事にやりとげることができました。

しかし、幽霊のお姉さんの生前は病弱なお嬢様。後片付けのたぐいは侍女がやってくれていたのです。

そのあたりで少しばかり手抜かりがあり、幽霊のお姉さんは「次こそは」と主人公の寝かしつけを決意します。

この辺でようやく普通のASMR音声作品っぽくなってきた気がします。

Track04 「寝かしつけてあげよう」

このTrackでは最初、お姉さんに童謡を歌ってもらうつもりでした。しかし、寝かしつけに使う童謡は何が良いのか、童謡の歌詞を掲載する権利的な問題が発生しえないものはどれか……など考えることが案外多く、やめました。

代わりに入れたのが、いわゆる「米軍式睡眠法」を用いた睡眠導入です。最後の方はお姉さんのひとり語りになっていますね。主人公はお姉さんの語りパートではもうすでに眠っている、もしくはうとうとしてる想定です。

睡眠というのは多くの人の関心事のようで、インターネットで検索をかければ様々な睡眠法が出てきます。たとえば「認知シャッフル睡眠法」はdlsiteの無料音声作品で題材となっていますね。

しかし、本作の執筆に際し注意しなくてはならなかったのは、お姉さんは昭和後期ごろに亡くなった人物であり、かつお姉さんが入院していた病院は現代——作中に説明はありませんが令和です——では廃病院となっているということ。

つまり、あまり新しすぎる睡眠法は出せない。

そのため、第二次世界対戦中に開発されたという「米軍式睡眠法」をモチーフとした睡眠法を説明させたというわけです。

……なんだかこうして振りかえっていると、さっきからずっと自分で決めた設定に足を引っぱられているような気がしますね。いっそ自称幽霊の生お姉さんでも良かったのかもしれない。そうしたら髪も洗えるし。そうなると今度は廃病院に不法侵入して、幽霊を自称する奇人が生まれてしまうのですが……まあ音声作品で奇人なんていつものことですね。

さて、このTrackのお姉さんひとり語りパートでようやくお姉さんの未練が明かされます。それは「他人の役に立ちたい」というもの。

失敗もありつつ、これでようやく未練を果たせたとお姉さんは思っていたようです。お姉さんは一夜のまぼろしとして消える気まんまんです。

さて、そんなお姉さんがどうなったのかというと……

Track05 「あれ……? おかしいな……」

朝になっても消えませんでした。

このTrackは音声作品にたまにある「繋ぎ」のパートです。他のトラックが20分とか30分とかあるなかで、ぽつんと5分程度の短いトラックが挟まってるやつ。

あれが私は地味に好きでして、それを意識して入れてみました。入れる必要があったのかは分かりません。

Track06 「屋台料理を味わわせてくれ」

幽霊お姉さんの食レポ、リターンズ。

丸一日色々やったけれど成仏の兆しのないお姉さんは主人公と一緒に夏祭に来ています。

取り憑いてる幽霊なら雑踏の中でもはぐれる心配がない、というのは我ながらなるほどなあと書いてて思いました。

それはさておき。皆さんは夏祭りと言えば何を思い浮かべますか? かき氷? りんご飴? チョコバナナ? ベビーカステラ? 余談ですが学マスで最近実装されたサポートカードイベントでは千奈さんがベビーカステラに興味津々でしたね。
他にもたこ焼やお好み焼き、綿飴など色々あることでしょう。

ですが、ここで私が出したのはそのいずれでもなく、ケバブとクレープです。

なんだか逆張り人間みたいになっていますが、これがただの逆張りならば煮イカを食べさせていたと思います。真っ赤で味のついたイカを。

ではなぜケバブとクレープなのかというと、これもまたお姉さんの設定に割と真面目に向き合おうとした結果の産物です。お祭りが初めてのお姉さんとはいえ、どうせなら日本風のものより海外風のものに興味が惹かれるのではないか——そう考えたのです。
しかも、Track1でお姉さんは担々麺にいたく感激していましたからね。刺激物を好みそうだ、という考えからケバブとなりました。あのお肉のインパクトもまた興味を惹く要素としてはばっちりで、きっと初見なら誰もがあの屋台には近付いてみたくなることでしょう。

クレープの方については、しょっぱいもののあとは甘いものを食べたくなるのが人情だろうという考えから。お姉さんがチョコレートと生クリームを知っているかどうかはちょっと考えましたが、知っていることにしました。さすがにそのくらいは口にする機会があったでしょうから。きっと侍女にこっそり持ってきてもらったりしていたのでしょう。

そんなこんなで楽しんでいると、お姉さんの身体が透けはじめます。

つまり、幽霊のお姉さんの本当の未練とは、夏祭りを楽しむことだったのです。

Track07 「楽しかったよ」

「……だが、そうはならなかった。私の未練は、誰かの役に立つこと、そうしてお礼を言われることなんかじゃあ、なかったんだ」

「いま消えかけている私の身体を見れば答えは瞭然だろう」

「私はね、きっと、どんな形でもいいから、お祭りに参加してみたかったんだ」

「まったく、笑えてくるよ。恵まれすぎていたのに何も返せぬまま死んでしまったこと、それこそが未練だとずっと思い続けていたというのに……本当は、そんなことは未練でもなんでもなかった」

「自分が恵まれた分だけ、誰かの助けになりたい——だなんて物語の主人公のようなかっこいい動機なんて結局、私ははじめから持ち合わせていなかったんだ」

Track07 「楽しかったよ」より

私がこの作品で一番描きたかったのは、あるいはこのセリフかもしれません。

私は現在架空カードゲーム小説の執筆中でして、そろそろお披露目できるかと思うのですが、その作品を書いていて気付いたことがあります。

どうやら私は、「自分が善人だと思っている人間が自分の利己的なところを自覚し、自分自身に落胆する姿」がとてもとても好きなようです。

このシーンも、つまりはそういうことです。

このあとのお姉さんと主人公が別れるシーンで幽霊のお姉さんがある歌について言及します。これはお気付きの方もいるでしょうが、坂本九の代表曲「上を向いて歩こう」のことです。さすがにお姉さんに歌わせる勇気はありませんでしたが。とはいえお姉さんの設定的に、この曲に言及した方が「らしさ」があるかな、と思い言及させてみました。

——というわけでお別れはかなりしんみりしたものとなりました。

癒しがテーマの作品がこれで本当に良いのか…………?

Epilogue 「追い返されちゃった」

お姉さんが消えておわり!のがお話としては綺麗だと思ったんですが、ビターエンドは癒しがテーマの作品としてよろしくない、という意見をいただきましてお姉さん帰還エンドとなりました。

実のところ、最初から帰還エンドは考えていたのですが当初予定していた帰還エンドはなんというか「軽すぎる」と感じたためお姉さんには一回、三途の川の手前まで行ってもらうことに。閻魔大王様の裁きの結果特例として現世に返される……みたいな流れも考えていたのですが、閻魔大王様の裁きまでってけっこう時間がかかるんですよね。というわけで、お姉さんは三途の川を渡ることすら許されずリターンします。

なにせ、閻魔大王様の裁きを待っている間に主人公がなにをしてかすかわかりませんから。

本作品において主人公とは聞き手——すなわち「あなた」のことであると冒頭で説明しました。しかし、音声作品というのは往々にして聞き手になんらかの役割を求めてくるものです。毎日の労働で疲れきった会社勤めのサラリーマン、慕ってくれる後輩JKがいる高校生、自分に思いを寄せてくれる幼馴染のいる高校生、世界を救った勇者、メイドを傅かせているご主人様、ある一点を除いてはなんにも取り柄のない貧民…………などなど。

というわけで本作でも、明言こそされませんが主人公にはある属性が付与されています。

それこそが、主人公が夜の廃病院に一人で忍び込んだ理由なのですが——やはりここでも明言はしないでおきましょう。

余談ですが、主人公の社会的立場としては大学生くらいを想定しています。

さて、三途の川のちょっと前から現世にカムバックしてきたお姉さんは以前よりもパワーアップしています。なんというか「地獄の偉い人から仕事を与えられた」という理由付けを行ってようやく、お姉さんを物理干渉力の強い幽霊として描いても良いと思えるようになったのです。

その結果として、最終トラックでいきなりお姉さんは分身しはじめます。

察しの良い紳士淑女の皆様におかれましては、その着想元が成人向け音声作品であるとお気付きかもしれませんね。
全年齢作品にはあまり明るくないのですが、成人向け作品にはそのような、ヒロインが分身して聞き手を責める……という内容のものもあるのです。

なので続編を書くとしたら成人向けにしたい気持ちがちょっとあります。お姉さんにあんなことやそんなことをさせない(お姉さんができない)理由がなくなってしまいましたから。

私は最終話で第一話のリフレインをするタイプのアニメが大好きなので、主人公とお姉さんが再契約をして終わり、というこのエピローグの終わり方は正直かなり気に入っています。

結果的に、お姉さん帰還エンドにしてよかったと思います。

さいごに

ここまで拙文をお読みいただきありがとうございました。

もしよろしければ、この流れで拙作『幽霊のお姉さんと過ごすひととき』もお読みいただけると大変助かります。コンテストの応募規定2万字以内に収めていますので、読むのに時間はかからないかと思います。

…………そしてそれがあなたにとって良いものであれば♡の応援と☆評価を(いくつ入れてくださっても構わないので)入れていただけると、とても励みになります。

少々自分語り多めのあとがきになってしまいましたが、私は小説のあとがきを読む際はたくさん自分語りをしてほしいタイプの読者ですので、きっとこういうあとがきを面白がってくださる方も世の中にいると信じてこの文章を公開します。

さいごに、作中でのお姉さんの為した癒しと主人公から受けた施しについて振り返ってみましょう。○は「癒し/施しであると自信を持って断言できる」、△は「癒し/施しであると言えなくもない」くらいのニュアンスです。点数化するなら○が1点、△が0.5点。

  •  Prologue 「私をここから連れ出してくれないかな?」 :お姉さんが癒しを餌に主人公に憑依する。癒し△、施し○

  • Track01 「夕食を味わわせてくれないかな?」 :お姉さんが担々麺の味に感動する。癒し△、施し○

  • Track02 「髪を洗ってあげよう」 : お姉さんが髪を洗おうと奮闘する。癒し△、施し△

  • Track03 「耳かきしてあげよう」 :お姉さんが耳かきする。癒し○、施し△

  • Track04 「寝かしつけてあげよう」 :お姉さんが主人公を寝かせる。癒し○

  • Track05 「あれ……? おかしいな……」 :癒しも施しもなし。

  • Track06 「屋台料理を味わわせてくれ」 :お姉さんがケバブやクレープを味わわせてもらう。施し○

  • Track07 「楽しかったよ」 :お姉さんが成仏する。施し○

  • Epilogue 「追い返されちゃった」 :お姉さんが主人公のところへ戻ってくる。癒し△

以上を点数化すると…………癒し4:施し5

拙作は、癒しの物語ではなく施しの物語だったのかもしれませんね。

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