ミャンマーの経済の現状と農家が直面する課題

地球市民の会のミャンマー事業スタッフが書くミャンマーにまつわるエッセイ。第19回は東洋大学の岡本郁子教授から寄稿をいただきました。

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経済状況の悪化と貧困

ミャンマーでは2011年以降、工業化の推進を含めた経済改革の進展が奏功し、経済状況は上向いていきました。その大きな成果の一つは、いわゆる絶対的貧困(人間として尊厳のある生活をするために必要な最低限の衣食住が満たされていない状況)にある人の数が大きく減少したことにあります。2005年には国民の約半数が絶対的貧困の状況におかれていましたが、2017年には約4分の1にまで減少したのです。ただ一方で、都市と農村に住む人の格差や平野部と山間部など地域間の相対的な格差はそのまま、あるいはむしろ拡大したのも事実です。

2020年に入ってコロナ禍が拡大したことで、他の国々と同様、ミャンマーの経済も停滞・縮小傾向に陥ります。そうしたタイミングで起きたクーデターとそれに続く政治的、社会的弾圧は、経済を疲弊させていきました。具体的には、一部の外資系企業の撤退や操業停止、それに伴う失業者の増加、金融市場の混乱、さらには現地通貨(チャット)の減価が進んだことによって輸入品や食料の価格上昇が顕著になっていったのです。その結果、ミャンマーは2021年アジア諸国で唯一マイナス18%という大幅なマイナス成長を記録することとなり、2022年の絶対的貧困状態の人も、2005年度の水準、すなわち国民の約半数になると見込まれています。

ミャンマーの人口の7割は農村部に住んでいます。そして、実は絶対的貧困層の8割は農村部にいます。経済状況の悪化はもっとも脆弱な層、すなわちこうした貧困層をいっそうの困窮に陥れることにつながります。


農家の生産と生活

そうした農村に居住する人々の経済状況を少しでも把握するために、2021年末から2022年初にかけて聞き取り調査を長年現地で活動している2つの団体、オイスカさんと地球市民の会さんに行ってもらいました。それぞれの事業地(ドライゾーンと南シャン(※))の農家さん約100人から情報を得ることができました。

(※)町や村の特定を避けるため、あえて大きな地域の括りで記しています。

農業生産の状況

ドライゾーンは一般に畑作が中心ですが、灌漑が得られる場所では水稲作が行われています。一方、シャン州では山の斜面を使いながら野菜類などが盛んに栽培され、また平地部では水稲作も行われています。

2021年の農業生産の状況はというと、コロナ禍が始まって以降経済状況の悪化はすでに進んでいたこともあり、両地域の農家とも通常年に比べると2021年度の耕作面積を減らしていました。その大きな理由は耕作資金の工面が難しいことでした。とりわけ、ドライゾーンの農家の方は耕作面積の減少だけでなく収量も減少している作物が目立ちました。すなわち農家あたりの生産量が大きく減少したことを意味します。

収量の減少の主たる原因は肥料の投入量の減少と見られます。耕作資金の工面が、金融市場の混乱などがあって例年よりも難しくなったところに、化学肥料などの投入財価格の高騰が追い打ちをかけた形です。たとえば、尿素肥料の場合、1年前に比べて価格が約3倍(1袋約25,000チャット→75,000チャット)になってしまいました。こうした価格高騰を受けて当然農家は化学肥料投入量を減らさざるを得ません。実際、肥料商からは、種類によっては通常年の6分の1~7分の1の量しか販売できていないという話も聞かれました(これは肥料商の商売も苦しいということも意味します)。

そもそも毎年の農業生産をするためには耕作資金の借り入れをせねばならない農家が多いのがミャンマーです。国営農業銀行の機能不全、市中での現金不足、今後の経済状況の不透明性から、フォーマル、インフォーマルにかかわらず資金の借入れが例年よりも困難になっているようです。化学肥料や種子などの投入財に関しては、農家の手元に現金がない場合収穫後に代金を支払うと約束して購入するケースも少なくありません。ただ、肥料商そのものが運転資金の工面に苦労していることもあり、2021年度の作付けにあたっては代金後払いを断られたという農家も一定数いました。

農業生産・販売上の困難をあげてもらったところ、生産・流通費のコスト増が著しいこと、そのコストをカバーするだけの融資が受けられないこと、そして作物によっては販売価格が低迷していることが挙げられました。ある意味三重苦といった状況に陥っていることが伺えます。

農家の生活状況

1年前(2020年末~2021年初)に比べて生活が苦しいと答えた農家は、ドライゾーンでは9割、シャン州では7割いました。そうした状況に農家はどうやって対応しているのでしょうか。聞き取りの中で挙げられたのは、食事の質を落とす、1回の食事あたりの品数を減らす、日常的な支出をできるだけ減らす、新たな仕事を増やす、借金をする、資産を売却するなどです。農家は様々な対応を組み合わせながらなんとか経済的苦境をしのごうとしているわけです。シャン州の農家に比べると、ドライゾーンの農家のほうがなんらかの対応をしている比率が高く、より経済的困窮の度合いが深刻なことを伺わせました。


今後の展望

現段階では、残念ながらミャンマー国内経済の改善が見通せる状況ではありません。むしろ一層悪循環に陥ってしまっているようにも見えます。

ミャンマーの農業シーズンは雨期の始まり、すなわち5月から本格化します。2021年の農業シーズンですら上記のような状況であったことを踏まえると、2022年度はより厳しい状況に農家は陥ることも想定せざるを得ません。生産を担う農家の疲弊、それが生産量の減少につながっていくならば、食料価格の高騰も避けられないことになります。そして世界的な燃料価格や食料価格の高騰の影響も間違いなく大きく影響してくるでしょう。

ミャンマーの農村地域には実は経営農地をもつ農家だけでなく、土地をもたない層が非常に多い(村の30-60%を占める)地域もあります。こうした土地なし層は常に食糧を購入せねばならない、農家よりもいっそう貧しい人々です。また、クーデター後の弾圧や治安悪化のため自分たちの住まいや田畑を離れざるを得なかった避難民のような、過酷な状況におかれている人々が多くいることも忘れてはいけません。

衣食住といういわゆるベーシックニーズが著しく脅かされている人々が増え続けているというのが、現在のミャンマーの状況になってしまっています。

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岡本教授からの報告にもあるように、ミャンマーの経済はかなり厳しい状況に置かれています。毎月継続でのご支援をいただくと、先の見通しを持って活動を行うことができ、助かります。

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