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大学入学共通テスト「情報Ⅰ」試作問題 コメント①

 2022年11月9日に大学入試センターから発表された試作問題に対するコメント。参加している研究会に提出したもの。

第1問・問1・a

 他の問と比べ、文言の詰めなど、完成度が低く感じられる。


 「どんなときでも」・「しなければいけない」という定言命法的な記述から、誤答選択肢であると判断できるが、同時に「早く」という主観的な修飾語が誤答の根拠となっている点が心配。
 実務の現場では、メッセージに対する「回答」はすぐにできなくても、受信したことをまずは「返信」するという慣行が存在することもある。学習指導要領では、セキュリティと同時にマナーについても学ぶこととなっており、ビジネス・マナーの観点からすると、ある程度は「適当」な文章となっているといえるのではないか。

 適当な内容である。

 誤答選択肢であることは明らかであるが、「本人が特定されることはない」という記述の文意が不明確である。「Webページに匿名で投稿した場合は投稿者が特定されることはない」など、特定される対象を明確にした方がよい。

 誤答選択肢であることが明らかな文章である。

 正解のひとつであるが、逆に「著作権の侵害にあたらない」場合を考えてみると、著作権保護期間終了、パブリックドメイン、クリエイティブコモンズなどのケースが考えられる。場合によっては、『トムとジェリー』の初期作品の映像から画像をキャプチャしたものや初音ミクの画像をSNSでみずからのプロフィール画像に用いても、著作権の侵害にはあたらないのではないか。
 細かいところであるが、文言として、「許可なく掲載」は「許可なく使用」の方がすわりがよい。

 誤答選択肢であることが明らかな文章である。

 正解選択肢である①・④以外は、ある程度、状況設定や用語の意味を補って読み込むことが求められているように感じられる。
 ②について。「特定」ということばをウェブ用語としての「特定」で用いている。つまり、SNSなどへの投稿内容から、第三者が投稿者の氏名や勤め先を割り出すという意味での「特定」である。この種の「特定」はよく行われているため、誤答であることが明確である。匿名であっても「身バレ」するという情報セキュリティに対する意識を問うていることはわかるので、文言をより一般的なものに変えた方がよいのではないだろうか。
 ③について、実名参加が原則のSNSでは、交流は実名で行われており、個人情報のうち、基本四情報のひとつである氏名はすでに共有されている。「問題」はない。この選択肢では、「個人情報」ということばに「自分のプライベートに関するあれこれ」というニュアンスを持たせており、そういった慣用に依存した文章となっていることに不安を覚える。
 このようなところから、問題として練られていないという印象を受けた。
 なぜネット・トラブルが絶えないのか、情報および情報技術の特性と絡めて考えるという視点が弱いように思われる。

第1問・問1・b

 表面的な問題に感ずる。
 「最も適当なもの」ということから、③が正解だと判断することはできる。
 しかし、実際に③の行為を企図すると、書籍を調べるといっても、何を読むべきか、インターネットで探すことになるのではないか。その際、より多くの読者がよいものだと評価した書籍が候補にあがる可能性が高い。また、書籍には、ウェブ情報の焼き直しに近いものもある。大学図書館・公共図書館のOPACを検索するといっても、自費出版の図書も含んだ玉石混交の本の海から該当する分野の定評ある書籍を探すことは難しい。
 「複数のWebサイト」といっても、Wikipediaを本家とする同工異曲のサイトが多いという状況がある。複数のサイトを閲覧する意味は乏しい。また、SNSから拾うことができる情報は、フィルターバブルによってみずからの思想傾向・趣味嗜好に近いものに限定されるきらいがあり、見解が分かれる論点に関し、相異なる意見をインターネットからバランスよく摂取することは難しい。
 情報空間におけるこのような難点をどのように克服し、ポストトゥルースの時代に情報および情報技術をどのように利活用していくのか問うことが大切だと思われる。

第1問・問2

 用語の使用法に気になるところがある。
 問題文では、パリティを含まない「01000110」を「送信データ」、パリティを含む「010001101」を「データ」と表記している。
 問題文には、

受信側では、データの1の個数が偶数か奇数かにより、データの通信時に誤りがあったかどうかを判定できる。

3頁

との記載がある。つまり、パリティを含む「データ」において、1が偶数個であれば誤りはなく、奇数個であれば誤りがあるということになる。「データ」に誤りがあるかどうかは受信時点で「判定」できるとされているので、⓪における

パリティビットに誤りがあった場合は、データに誤りがあるかどうかを判定できない。

4頁

という記述と明らかに矛盾し、誤答選択肢であることが明白ではないのか。⓪の記述が

……場合は、送信データに誤りが……

と書かれていれば、このような疑問は生じないものと思われる。

第1問・問3

 実際に解いていく際のプロセスが気になった。この分野はまったく専門外なので自信がない。
 (1)は論理積回路であることがすぐにわかる。
 (2)は、まず真理値表を問われるので、②を選ぶ。次に論理回路にとりかかるが、真理値表に引きずられ、値を論理回路上に順に流し込むと、時間がかかる。

表 正解の真理値表にA・B・Cの値を入力

ということから①が正解となる。 

こういった解き方ではなく、A・B・Cのうち、少なくとも二つが1である場合を考えると、

{(A AND B) OR (B AND C) OR (A AND C)} OR (A AND B AND C)
AはA=1の場合。B・Cも同じ。

ベン図で見ると、最後の項の

A AND B AND C

は、A AND Bなどでカバーされているので、考えなくてよいことがわかる。


図 ランプが点灯するケース

したがって、

(A AND B) OR (B AND C) OR (A AND C)

から

{(A AND B) OR (B AND C)} OR (A AND C)

これは、図3の論理回路に該当し、三つの論理積回路と二つの論理和回路で所定の動作をすることがわかる。
 与えられた材料から問題を解いていくときに、素直に従わず、論理回路・真理値表とくれば、ベン図というもうひとつの道具をもちだすことができるかを問う問題だと思った。
 共通テストに「情報Ⅰ」が組み込まれることで、こういった解法についても、受験産業で教えていくことになるのかと思う。

第1問・問4

 「究極の5つの帽子掛け」という情報分類手法が共通テストでとりあげるにたるものかという点にやや疑問を感じた。もちろん、出題の意図がリチャード・ワーマンの所説の啓蒙でないことはわかる。いくつかの分類軸を有する情報分類手法を紹介し、何らかのかたちで情報が整理されている事例を提示し、どの軸が用いられているのか考える問題である。しかし、ワーマンの分類手法は精緻に構築されたものではないため、解答を考えるときにどうしても曖昧さが生まれ、「最も適当なもの」という問い方で正解が担保されている印象を受ける。
 ワーマンの枠組みの価値を貶める意図はない。「究極の5つの帽子掛け」は、前著において「5つの究極の整理棚:LATCH」として提唱されており、ワーマンは、人々の情報行動をより良いものにしようとの意図から、今でいえば、たとえばこんまりの片づけ術のように、便利なツールを紹介するにあたり、人口に膾炙しやすい看板を考えていったに違いない。
 このことは、「究極の5つの帽子掛け」が、LATCHという5つのフックをもったひとつの帽子掛けなのか、複数のフックをもったそれぞれL・A・T・C・Hと名付けられた5つの帽子掛けなのか、どちらか判然としないことからも明らかである。どちらでもよい話だろう。ちなみに、『それは情報ではない。』において、「5つの究極の整理棚」はL・A・T・C・Hという5つの段をもつ整理棚を意図しているように読める。
 情報はつねに複数の基準で分類されるもので、どの基準を用いるのか決めるのは利用者の考えるストーリーであるというところが主張のひとつのポイントだと思われる。そのように考えると、図4「鉄道の路線図」は、確かに第一義的には「場所:L」を基準としているが、他の軸も用いられているのではないかと考えていってしまう。
 たとえば、駅と駅は物理的にレールで結ばれており、そのトポロジカルな整理が路線図である。しかし、路線図を見るとき、隣り合ったA駅とB駅がレールで結ばれているからといって、A駅発の列車がかならB駅に停車するわけではないことは承知のとおりである。B駅は快速通過駅かもしれないからである。路線図は地理的な位置および位置関係を表すだけでなく、列車の停車する場所の順番=階層を意味しているかもしれないし、列車の種別=カテゴリーを含んでいるかもしれない。だから、路線図の駅のシンボルは、○だったり、◎だったり、⊖だったりする。ここまで書いてきて、問題の路線図の駅がいずれも○であることに気がついた。札幌市営地下鉄のホームページを見ると、全路線・全編成が各駅停車らしい。だから札幌市営地下鉄なのかと納得し、しかし札幌市以外の受験生が困惑するかもしれないとも考えている……。

 図5については、③・④が正解であるが、問題文に

……ランキング」は[コ」と[サ]を基準に整理・分類され……

7頁

とあり、「分類」ということばが入っているため、いずれかに③の「カテゴリー」が該当することが分かってしまいそうである。
 また、本州・四国・九州の温泉宿は入っているが、北海道のものがない。都道府県ごとに見たときに北海道はもっとも温泉地の数が多く、北海道を除いたランキング、つまり何かの地理的基準を前提としたランキングではないかとも推測される。
 他者が整理した情報を見ていくときには、このような懐疑的な姿勢も必要だろうか。

第2問・A・問1

 正解は③。空欄にアを入れて文章を完成させると、

もちろん、でも、特許権を保有していても権利を行使しないとしていたから世の中で広く使われるようになったんだよ。

9頁・10頁

となる。
 空欄の後にも、選択肢の末尾にも、「,」がなく、したがって、世の中で広く使われるようになった唯一の理由はデンソーが特許権を行使しなかったことであると読める文章である。
 事実と異なるように思う。デンソーは、特許権を行使せず、正確には、他者によるデンソー特許権の実施を無償で許諾し、同時に、AIMJ(当時)を始めとする国内の標準化、さらに国際標準化を積極的に推し進めたからこそ、最終的にJIS・ISOの標準となり、現在の普及にいたったといえる。
 オープンアーキテクチャや特許公開などの技術戦略は標準化と不即不離の関係にあり、その点に言及がないことは寂しい。

第2問・A・問2

 問題文に

これは、図3のように円形の目印でも同じと考えられるが、

10頁

とあり、(d)~(f)のどの角度で読み取っても、黒白黒白黒の比は1:1:3:1:1であることがわかる。したがって、⓪は明らかに誤りであると推測されてしまうのではないか。
 また、選択肢はいずれも円形を採用することで生ずる不都合を書いているので、「円形」という文言は省き、問題文に書き入れてはどうかと思う。たとえば以下のような選択肢に単純化・整理することができるのではないか。

  1.  ⒟~⒡の角度に応じて黒白の比が異なるため、目印として正しく認識できないから。

  2.  上下左右を判別することができず、二次元コードの向きを正しく認識できないから。

  3.  出力装置の解像度が低いと、四角形に比べ、認識できる小さな目印を作れないから。

  4.  二次元コードが傾いていると、傾きを検出できないため、正しく認識できないから。

第2問・A・問3


 同じ復元能力で、文字数に比例してセルの数が多くなっていないものがあり、誤り。

 正しい。

 段階的に比例しているので、誤り。

 表を見るかぎり、1.3倍~1.9倍ほどなので、誤り。

 セルの数が多くなるので、正しい。

 セルの数は増えているので、誤り。

第2問・A・問4

 [オ]は、表3においてその下のセルに記載された33×33よりも小さいものなので、25×25の②となる。
 [ク]はもっとも大きなものであるので、①となる。
 ここで、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの情報量を数える。Ⅰは26B、Ⅱは41B、Ⅲは65B。

表 Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの情報量

 表1を見ると、半角英数字が40文字の場合、復元能力7%のときは29×29、復元能力30%のときは37×37であることがわかる。
 Ⅱは41Bであり、表1のケースよりも1B大きいが、表3を見ると、7%のときは29×29で表1と同じである。30%の場合は、したがって、37×37以上となることが考えられるので、[キ]に入るのは、③となる。ここで、33×33の⓪を入れると、表1と矛盾する。
 [カ]は消去法で⓪の33×33となる。
 以上の解答には、オ~クが⓪~③のいずれかひとつに重複することなく該当するという前提が必要となる。今回の研究会の議論でも、「後の解答群のうちから一つずつ選べ」という問題文の文言によって、前提が示されていると解釈できるということになった。とはいえ、たとえば情報処理技術者試験では、問題文中の四つの空欄(ア~エ)が四つの選択肢(a~d)にそれぞれ照応する場合、

ア~エがa~dのいずれかに該当するとき,aに該当するものはどれか。

といった問い方をしているようである。このような問題文表記上の配慮は必要だと思う。
 なお、上記の「解法」とは別に、QRコードの仕様を知っていれば、下表より正解を拾うことができる。
 逆に考えると、このような仕様表がまずあり、それに基づいて⓪~④のQRコードを作成したため、オ~クがそれぞれ⓪~④のいずれにかに照応することは作問者にとって自明であったため、上記のようなその旨の注記を問題文に付記することに重きがおかれなかったのではないかとも思われる。

表 QRコードの仕様と選択肢

注:L・Hはそれぞれ誤り訂正レベルが7%・30%のときの情報量のおおよその上限(バイト換算)である。

 何かの規則性を発見する場合、筋道をたてて考えていくことは重要であり、そのような推論を行うことは情報科の学習指導要領に照らして必要であるが、本問は人工的な規格における人為的なルールを見出すものであり、やや違和感を感じた。仕様表を見ればよいのではないかということになりそうだからである。
 また、同じく研究会の議論で話が出ていたが、「探究」などでQRコードの仕様を掘り下げて学んだことがあれば、容易に解答にたどりつけるかもしれない。

Ver.0.1 2022.11.11

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