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マーカス的音楽理論~ディミニッシュスケール1

「音数学」...音楽は概して数学であり、そのほとんどは数学のようにシステマチックに説明できるという信条に基づいて音楽を分析すること。

今回話したいのは、ディミニッシュスケールについてである。クラシック理論ではオクタトニックスケール(Octatonic Scale, oct...8の意味で8つのトニックからなる音階と解することができる)と呼ばれているようである。

例として以下の画像を見てもらいたい。

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これはいわゆるGハーフホールディミニッシュスケールとジャズでは呼ばれている音階である。筆者これを和訳しG半全ディミニッシュスケールと呼びたい。なぜそういう訳になるのかは後述。筆者はこの音階の成り立ちの経緯についてこのように推測している。

ジャズにおいてポリーコードという概念が成立し和音の複雑さを極めていた時代があった。ポリーコードというのは英語で書けばPoly Chordで、polyは「多い」もしくは「複数」という意味で、簡単に言えば二つの異なった和音を同時に鳴らしてしまおうという考え方である。日本語訳すれば複合和音とでも言ったところか。例としてFとGを足した複合和音を以下に表示した。

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察しのいい読者ならすぐにこの表記の仕方がわかるだろう。/よりも前に表示されている和音が上に来ており、/よりも後に表示されている和音が下に来ている和音である。この概念が成立して以降、ジャズの和音の可能性は最大限に広がることとなる。ある人はマイナーに別のマイナーを乗せたり、メジャーにマイナーを乗せたりした。そこで誰かががこう言ったに違いない。

「ディミニッシュにディミニッシュ乗せたらどうなる?」

まずディミニッシュ和音について説明したい。

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例としてBディミニッシュ(BdimもしくはBoと表記)を提示した。和音構成はB, D, F, Abとする。このディミニッシュ和音は他のマイナーやメジャー和音と違いすべての構成音が等間隔に配置されているのである。BとDは短3度、DとFは短3度。FとAbも同様である。すべて等間隔に配置されているので、Bdim=Ddim=Fdim=Abdimとなる。そこでこういう結論に行きつくはずだ。察しのいい読者ならすぐ気づくだろう。

そもそもディミニッシュ和音は3種類しか存在しないだ。

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これは半音ずつあげたものであるが、Bdim-Cdim-C#dimと続きDdimに到達してもDdimの構成音はBdimと全く同じであるため3種類しか存在しないというのがわかるはずだ。したがってディミニッシュにディミニッシュを合わせてみるというのは、これらの組み合わせ3通りしかない。

ではBディミニッシュにC#ディミニッシュを乗せてみよう。

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弾いてみればわかるだろうが、なんともクラスタートーンのようなストラヴィンスキーにありそうなきつい響きである。

この和音の使用用途はどうだろうか?そもそもディミニッシュ和音というのはこの音階が作られる以前にその使用方法が確立されていた。というのもドミナント和音、いわゆる属七(V7)の和音を属九へと発展させたときにその構成音にディミニッシュ和音が出現するからである。例としてG7(-9)を提示する。

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この和音のベース音Gを取り除けばBディミニッシュ和音が出現するのである。

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島岡和声、いわゆる芸大和声として広く日本に普及している和声論では、このBディミニッシュは根音(G音)省略形とされ属和音(V)の一種として取り扱われているが、筆者が留学したアメリカの大学では7度の和音、viio7として扱われていた。特に使用用途に違いはないが解釈の違いといったところだろう。このviio7の和音はドミナントと全く同じ機能を持ち、この和音の後には必ずトニックへと解決が求められる。つまり以下のようなBディミニッシュからCへの解決がすでにクラシックの世界で確立していたのである。

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これを踏まえてジャズにおいてもディミニッシュの複合和音はドミナント和音の一種として使われることになる。G7-Cという連結において、テンションとして置かれた7度のディミニッシュ和音、Boはさらに拡張され、その全音上のディミニッシュ、C#oが足されることになる。

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なぜ半音上のCoではなく全音上のC#oなのか、それはCoにはF#の音が含まれるからである。前述したとおり、BoはG7(-9)と根音省略形である。G7がドミナントたらしめる理由は、G7の構成音であるFがあるからである。このF音がG7においてEに解決する力を強く持ってることによってその不安定さが増し、したがってトニックへと解決するドミナントとして機能するのである。もしここに、F#が入ればG7はG7ではなくなり、Gmaj7となりトニックと同じ和音形態になってしまうのである。言い換えれば属七において、根音から長7度の音は絶対に回避されるべきものであり、それが一度なりさえすればドミナントとしての機能を失ってしまうのである。そういう理由でGドミナント7としてのBoにCoを足さず、C#oを足す試みが為された。そしてジャズ奏者たちは和音というよりこの技術を音階としての使用法に注目したのである。

前述したG半全ディミニッシュスケールを再度見てもらいたい。

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この音階は、C#o/Boを分解しただけである。

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つまり、ディミニッシュスケールとは、2つのディミニッシュ和音の構成音でできている。

そしてジャズ奏者たちはこのスケールをG half whole diminished scale, Gハーフホールディミニッシュスケールと名付けてドミナント和音での即興の音階として使用し始めたのである。なぜハーフホールと言うのかというと、英語において半音はhalf step,ハーフステップと呼び、全音はwhole step、ホールステップと呼び、この音階が半音、全音、半音、全音…と交互に進んでいくからである。これが和訳した時に半全となる所以である。

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もちろんこれをAbから始めれば、それはAb全半ディミニッシュスケールと呼ばれる。現場においてはこの両者の区別は厳密にされておらず、G7において「Gディミニッシュスケールを使え」と言われれば奏者は皆G半全ディミニッシュスケールを想像し、和音がGディミニッシュにおいて「Gディミニッシュスケールを使え」と言われれば皆G全半ディミニッシュスケールと認識するだろう(幾多もの例外が存在するが…)。

次回はこの音階のさらなる使用用途について記述する。

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