3月FOMC議事録バランスシート縮小案を徹底分解
※当記事は2022年4月13日にMarket Passにて掲載した記事をリメイクしnoteに投稿したものとなります。Market Pass更新が出来ずご迷惑をおかけし大変申し訳ございません。
はじめに
先日6月FOMC議事録が発表になりました。現在翻訳中ですが、その前に前回の3月FOMCで取り上げられたバランスシート縮小案について解説できたらと思います。
2022年4月6日、3月FOMC会合の議事要旨が発表になりました。
ここでバランスシート(以降BS)縮小に関する情報が議論されていると事前からアナウンスがありましたが、4月5日にハト派(利上げ/金融引締めに対して穏健派)と称されていたブレイナードFRB理事は事前にBS縮小案についての情報を発表しました。
ハト派と呼ばれている彼女が思わぬタカ派発言をしたことにより、市場は一時的に混乱し、債券利回り上昇/株価下落に直面しました。
この記事ではその議事録の中の「Plans for Reducing the Size of the Balance Sheet」 バランスシート縮小案について翻訳し、分解して解説を行っております。
重めな内容になってしまい恐縮ですが、この記事を読んでくださった読者の方のQTについての理解がより高まれば幸いです。
さっそく議事要旨から見てまいりましょう。
3月FOMC議事要旨:バランスシート縮小案についての翻訳と解説
【用語解説】
SOMAとは、System Open Market Accountの略称で、公開市場操作で取得した債券などの資産を管理する口座です。所謂買いオペ、売りオペ用口座ですが、ここにFedのバランスシートとよく称されるFedの資産が管理されています。SOMAはNY連銀に置かれ、NY連銀スタッフが管理します。実際の公開市場操作はFOMCから指示を受けたNY連銀の公開市場取引デスク(Open Market Trading Desk)が行っており、その取引内容はSOMAに記帳されます。
下記が2003年6月から2022年3月までのSOMAのポートフォリオの推移です。
Fedのバランスシートは2019年のコロナショック以降、現在に至るまで8兆ドルを超えるまで膨れ上がりました。
ポートフォリオの中身を見てみると、米国財務省短期証券(T-bill)が4%、利付米国債(Notes& Bonds)が59%、米国物価連動国債(TIPS)が5%、米国不動産担保証券(MBS)が32%という構成になっています。
この、SOMAに管理されている資産のどれを、どのくらい、どのように、小さくしていくかがこの話題の焦点です。議事録に戻りましょう。
【用語解説】
MBSとは、Mortgage Backed Securitiesの略で「不動産担保証券」のことです。米国では住宅ローンの貸し出しリスク分散などの観点から住宅ローン債権の多くが証券化されており、債券市場では米国債と同様、重要な投資対象となっています。Fedが購入対象とするのはエージェンシーMBSと呼ばれる証券で、政府系住宅金融会社が元利支払いを保証した証券です。
Fedが保有する国債が満期を迎えると、Fedは米財務省から償還金を受け取ります。Fedがこの償還金を国債に再投資しなければ、FRBのBS上、資産の部における財務省証券の金額は減少します。これが所謂BS縮小です。
下記は筆者が作成したBS縮小のイメージ図です。
資産増加の部分の国債もしくはMSBを償還させることでFedは米国財務省から償還金の支払いを受け、負債増加部分の当座預金を吸収することによりBSを縮小させるのです。
【用語解説】
利付国債:約束された表面利率(クーポン)が決まっており、米国財務省は保有者に対して毎年その約束された利子を支払う
国庫短期証券(T-bill):1年未満の国債で、一般的に割引債として発行される。例えば99円で発行され、半年後には100円で償還されるものなど
FRBの目論見としては、イールドカーブをスティープ化させ、長期金利を上昇させることによって金融システムの安定と、実質的な利上げの両方を果たしたいのです。
なぜSOMAのポートフォリオから利付債を優先的に償還させて減らし、上限を超えた分で利付国債ではなくT-billに再投資する方がいいのでしょうか。それは、タームプレミアム機能を正常化させたい思惑に基づいたものになります。
【用語解説】
タームプレミアムとは、期間の長さに伴う上乗せ利回りのことです。
債券市場では、一般的に残存年限の短い債券よりも、長い債券の方が利回りが高くなります。これは償還までの期間が長い分、価格変動や流動性などのリスクが高まるため、投資家が期間に対する見返りを求めるからであるとされています。「明日お金返すね」と「10年後にお金返すね」のお話です。タームプレミアムが低下すると、イールドカーブはフラット化します。
つまり逆イールドが起こっている現在の状況ではタームプレミアムが正常に機能していない状況なのです。それは、Fedがコロナショック以降緩和のために市中から利付国債を買い続けてきたことに起因する歪みが現れているのです。Fedが利付国債を購入せず、100%利付国債が市中で消化されることになれば、理論的にはタームプレミアムが正常に働き、短い年限の利回りは低く抑えられ、長い年限になればなるほど利回りは高くなると考えられているからです。イメージとしては下記のようにツイストスティープニング(少なくともスティープ化)させたい意向でしょう。
MBSは上記で解説したように住宅ローン債権(誤字ではなく、ここでは「債権」です)を証券化したものなので、比較的長期の債券になります。従って、自然償還させるには年月が必要になるので、今回合意された月次上限の350億ドルに償還額が満たないという指摘が議事録ではされています。従って、今回「正常化」に向けてMBSを市場に売却して市場から資金を回収、消化する売りオペ(所謂金融引締め)が検討されているということです。具体的な開始時期は今回明言されていませんが、FOMCメンバー内で合意が取れている様子ですので遠くない将来起こり得る可能性の高いオペレーションであるということは覚えておくと混乱が少ないでしょう。
上記でも述べたように、Fedが保有する国債が償還に伴い、米財務省から償還金を受け取ります。償還金を再投資しなければ、Fedのバランスシート上、資産の部における財務省証券の金額は減少します。しかし米財務省は、財政収支に変化がない限りは、また新たに国債を発行して得た資金を使い、Fedに支払う他の国債の償還金を賄わなければならないのです。
そして、民間銀行が、この米財務省の新規発行国債を購入し、その購入原資としてFRBに預けている準備預金を用いれば、FRBのバランスシート上、負債の部における準備預金が減少します。この結果、資産の部の財務省証券、負債の部の準備預金について、それぞれの残高が減少し、FRBのバランスシートは縮小します。なお、超過状態にある準備預金の残高減少は、民間銀行の余剰資金縮小を意味します。下記の図がそのイメージになります。
行き過ぎた流動性の現象は金融システムにダメージを与えます。銀行は短期金利でお金を借り、長期金利でお金を借り出しているのですが、お金が借りられない現象が起こると民間企業への貸し渋りや貸し剥がしにつながります。
前回のバランスシート縮小時にはこれが混乱材料となり、株価は3カ月に渡って下落しました。流動性がなくなり、マーケットが悲鳴を上げたため、同じ轍を踏まないようにと用意されたのがSRFなのです。
【用語解説】SRFとはStanding Repo Facilityの略で、これは、基準を満たした金融機関が迅速かつ容易に国債を中心とした証券を現金に換えられるようにするものです。SRFの狙いは、短期金融市場の安定を確保し、それを通じて金融政策をより効果的にするものです。前回のBS縮小局面では準備預金が急激に減少し、金融システムに混乱を来したため、常設の仕組みを作り、何らかのショックが起こっても、金融機関がそのファシリティを随時利用することで、市場の混乱を自動的に防ぐことが議論され、設置に至りました。2021年7月から開始されています。
このSRFの機能についてはFOMCメンバーの中でも判断が分かれており、画期的で安定を保てるのでBS縮小を急いでも問題ないとするメンバーがいる一方、この機能に懐疑的で、準備預金が大きく減少する危険性を含んでいるため、BS縮小規模と期間で調整すべきと考えているメンバーもいるようです。
おわりに
以上が3月FOMC議事録のバランスシート縮小案の翻訳と解説でした。今後機会があればその縮小がどのように進んでいるかお話できればと思います。
この度も長い記事にお付き合いいただきありがとうございました。
BS縮小案が皆様の参考になれば幸いです。