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人の能力に寄り添ってマッチング問題を解決するために使うScrapbox

Photo by Petar Petkovski on Unsplash

この記事では以下の状況から発生するマッチング問題をScrapboxを用いて緩和する方法を紹介します。マッチング問題を説明し、その次にScrapboxの使い方を説明します。

Scrapbox Advent Calendar 2021のDay4です。

現在のScrapboxは2021年12月時点で8200ページ/40000リンク/800万字ほどです。一ヶ月当たり200-300ページ、7-10万字ずつ増えています。


インプットとアウトプットのマッチング問題

私たちは経験や本を通して学習しています。このインプット量は膨大です。ところが日々の様々な状況では、この膨大なインプットはごく一部しか用いていません。

一言で、大量の情報をインプットしているにもかかわらず、ほんのわずかにしか活かせていません。もったいないです。


学んだ知識を思い出せなかった例

専門家からみっちり教えてもらって様々なことを学べて非常に有益だった。ところが、あるときクライアントから「よいアイデアはないか」と相談を受けたのにうまく返せなかった。後になってから「専門家から教えてもらったことを伝えればよかった」と思い出した。学習をいかせずに自分にがっかりした。

この例で起きたことは下記です。
・知識や経験を事前にインプットしている
・知識や経験が活用できる状況にある
・知識や経験を思い出せず活かせない

これがインプットとアウトプットのマッチング問題です。


マッチング問題が解決されたらどうなるか

学んだことをめちゃくちゃ活用できて、あとからこれを言えばよかったと後悔することが大きく減ります。

一言で「あっ進研ゼミで習ったとこだ!」が毎日何回も起こるようになるということです。


マッチング問題が起こる原因

なぜ学んだことの一部分しか活かせないのかというと、アウトプットする機会が事前に予測が困難だからです。

知識を再活用するには、「いつ使うのか、どのように使うのか、どれくらい精緻に思い出せるか」といった知識の使い方の知識というメタ知識が必要です。ところが、これらのメタ知識はインプット時には学ぶことは限られています。

マッチング問題が起こる原因
・距離が離れている
・知識が断片的
・不正確な記憶

理想的な環境と現実を比較してみましょう。理想的な環境とは学校です。

距離が離れている
知識のインプットとアウトプットが時間的に近い環境にある点で理想は学校です。学校では学んだことが直後のテストで出されますし、そのことを生徒は分かっています。時間的に近いため、思い出しやすいです。試験や受験など、知識使うタイミングも特定できます。つまり、いつ学んだ知識や経験を使うことになるのか予測ができます。

ところが、ほとんどの知識は、それが必要となるタイミングの知識までを含んでいません。学んだことが活かせるのが数ヶ月先だったり、いつ必要になるのか分からないのが普通です。親切なゲームのように必要になったタイミングで適切な選択肢が現れてはくれません。

昔のゲームは不親切なものが多く、詰まってしまうこともありました。

『ドラゴンクエストV』の一場面。特定のアイテムを使うと仲間になる。ところがアイテムを手に入れたタイミングと使うタイミングは離れており、またわかりやすいヒントがなく、詰まってしまうプレイヤーがいた。


知識が断片的
テスト前の練習問題ではテスト問題と同じ形式になっていて、知識の使い方で悩む必要はありません。数学の公式の使い方は練習問題もテストも同じです。

現実では、インプットした知識はそのまま使うことはなかなかできず、状況に合わせて何らかの加工が必要です。しかしその加工の知識までは提供されないことがほとんどです。

たとえば、職場にアジャイルの考えを取りいれようと学んだとしても、大企業と中小零細では変わりますし、ソフトウェア開発と総務でも、その仕事の仕方や役務に適合するように柔軟に変える必要があるでしょう。しかしその適合の仕方や、適合のメカニズムまで解説されることはなかなかありません。多くがソフトウェア開発の事例に偏っています。


不正確な記憶
学校で習う多くのものごとは、記憶しやすく、また誤解なく思い出しやすいものが多くを占めています。やり方やキーワードで覚えられるものに偏っているということです。

本から知識を得るとしましょう。専門書は10万~20万字です。このうち一字一句、正確に思い出せるのはどれくらいの量でしょうか。おそらく、やり方やキーワードは思い出せると思いますが、ひとつの文章をそのまま記憶できていることはほとんどないと思います。

つまり10万~20万字のほとんどはやり方やキーワードを理解するために使っただけで、思い出す時には詳細はぼんやりしていたり、忘れてしまっているといえます。

さらにいえば、専門書のように知識が再利用しやすいように工夫が凝らされている情報源はまだよいほうです。生の経験は思った以上に勘違いして記憶しています。

以下の画像はリバプール大学の心理学者レベッカ・ローソンが実験で心理学部の大学生に自転車を描いてもらったものです。そもそも動かない自転車を描いてしまった例です。

現物が目の前になく想像で書くと、思った以上に勘違いしていることに気づいたりします。

『知っているつもり 無知の科学』


以下の3点を簡単に紹介しました。
・距離が離れている
・知識が断片的
・不正確な記憶

こういった原因によって、たくさんインプットしても、実際の場面ではごく僅かにしか使わない状況が生まれてしまっています。


マッチング問題を解決する

ではインプットした知識や経験の再利用率を上げるにはどのようにすればよいでしょう。

原因が「距離が離れている」「知識が断片的」「不正確な記憶」なのであれば、それを解消すればいいという単純な発想です。

・距離が離れている → 距離が縮まる
・知識が断片的 → 知識が充足的
・不正確な記憶 → 正確な記憶

発想は単純でも実現は困難でした。実に20年近く悩んでいました。この20年のあいだにシンプルなデータベース、xoopsといったCMS、本棚系のwebサービス、ファセット構造のwikiなどをいろいろ試してきました。ところが、いざ使おうとするときにアクセスにあたふたしたり、全く使い物にならなかったのです。

そこで出会ったのがScrapboxでした。


マッチング問題を解決するために使うScrapbox

Scrapboxは強力なリンク構造と検索能力を持った付箋のようなものです。

私はIDE(統合開発環境)のように使います。

Scrapboxを仕事の中心として使い、機能や工夫を用いて「距離が縮まる」「知識が充足的」「正確な記憶」の条件が整うように使います。つまり、インプットとアウトプットを別のツールに分けるのではなく、一体にするということです。

Googleではあやふやな記憶でもキーワードを入力すると、欲しい答えが検索上位に来ます。同じようにScrapboxで文章を書いていてあやふやな理解のところにきたら、キーワードを入力します。すると正確なリファレンスや、過去に考えたことすぐ表示されるようにしています。

人は不正確な記憶能力しか持ちませんが、リンクと検索という計算資源によって、正確な記憶を持つ状態を簡単に作っているということです。※ちなみにこのような技術や道具の使い方を労働補完技術といいます。

以前はその場の瞬発力だけで仕事をしてきましたが、現在は過去の積み重ねも含めたやり方ができるようになってきました。

知識や経験をアクセスしやすく、また効果的にするための工夫として、キーワード主義、中項目主義をとっています。ここではキーワード主義を簡単に紹介します。

キーワード主義
Scrapboxのページ名称を文章のようにしたり、日記のタイトルのように使う人もいますが、それだと検索しづらくなります。なので「生産」や「アウトカム」のようなキーワードにします。

私の理想は、検索結果が「ここは理想の図書館だー!! 自分のための図書館だー!!」と思えるように整えていくことです。楽しくないとScrapboxに触りたくなくなってしまいます。楽しければずっと触り続けて、質も量もよくなり、仕事にも役立つというわけです。


楽しみながらインプットとアウトプットを一体化していく

ゲームの攻略サイトを作ったことがある人もいると思います。楽しいですし、どんどん詳しくなりますよね。それを仕事のやり方の中心に沿えるということです。仕事の攻略が捗るというわけです。

この記事がみなさんの知的生産に役立てば嬉しく思います。興味があれば気軽にお声がけください。

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