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組織開発の究極の目標は「黄金期」 #RSGT2022

Regional Scrum Gathering Tokyo 2022 Advent Calendar 2021の18日目です。
https://qiita.com/advent-calendar/2021/rsgt

組織そのものを開発する動きが活発になってきています。組織デザイン、全社アジャイルと呼ばれたりします。この組織そのものを開発する活動は「組織開発」と呼ばれたりします。

この10年で私の周りではチームのあり方が大きく変わりました。10年前までは別々のことをしているのに単に同じ場所にいるという理由でチームと呼ばれていたこともよくありました。

ところが今では大きく変わりました。ひとつの仕事を一緒にこなすモブワークやスウォーミングを常にしている人達がいます。サッカーのボールを追いかけるように全員がひとつに集中しています。

また過去のスクラムのスクラムマスターは、一つのチームに関心をもつことが大部を占めていたと思います。今では『SCRUMMASTER THE BOOK』で示されたように、スクラムマスターの関心対象はひとつのチームから始まって、やがて企業全体に働きかける道筋が示されました。チームに限定されていた役割が、より広い範囲も担うようになってきたように思います。

このように、そもそもチームのあり方が変わったり、働きかけの対象の変化が起きています。


もっとエクストリームにこの変化、そして組織開発を考えてみましょう。

近年起きている変化が、さらに促されたり追求されたりすると、いったいどのようなものになるでしょう?

言い換えれば組織開発の究極の目標とはなんでしょう?

究極の目標とは、とてつもなく困難で多大な努力がされていいるにもかかわらず未だに成し遂げられていないが、実現によって社会全体に大きなインパクトをもたらすものといえます。

たとえば発電では常温核融合、コンピュータアーキテクチャなら万能量子コンピューター、コンピューターグラフィクスでいえばリアルタイムレイトレーシング、管理会計では瞬間損益計算書、宇宙開発では軌道エレベーターあるいは超低価格ロケットといった大きなインパクトをもたらすものです。

これらに比類する組織開発の究極の目標は「黄金期」だと私は考えます。

まず黄金期に関わる黄金世代と共にいくつか紹介します。


黄金期と黄金世代

黄金期とは繁栄している様子です。黄金世代とは黄金期を代表して活躍する方々です。実例を見てみましょう。

『週刊少年ジャンプ』の1980年代後半~1990年代前半は一つ一つが看板のような強力な作品が並んでいました。30年経った今でもリメイクされたり、たくさんのファンがいるタイトルばかりです。

黄金時代のジャンプ

ジャンプ黄金期に連載されていたタイトルの一例
『ドラゴンボール』
『Dr.スランプ』
『SLAM DUNK』
『こちら葛飾区亀有公園前派出所 』
『幽遊白書』
『ジョジョの奇妙な冒険』
『ダイの大冒険』
『新ジャングルの王者ターちゃん』
『聖闘士星矢』
『北斗の拳』
『シティーハンター』
『キャプテン翼』


1990年代後半のJ-POP黄金期
ほかのジャンルも見てみましょう。1990年代後半のJ-POPは活況で、CDのミリオンセラーがいくつも誕生していました。音楽番組の『ミュージックステーション』や『うたばん』は20%を超える視聴率を誇っていました。

 ZARD
 Mr.Children
 B'z
 ラルクアンシエル
 GLAY
 椎名林檎
 浜崎あゆみ
 宇多田ヒカル

このように、才能が発揮されたり、いくつもの新しい技術を生み出したり、新たな価値感が育まれる状況が黄金期です。


黄金期を育むメッカ

次に業界に極めて大きな影響を与えた場所をみてみましょう。

マンガ業界を牽引する人材を輩出したトキワ荘
トキワ荘とはアパートのことで、マンガの神さまと言われるような人達が一同に集まったアパートです。

 手塚治虫
 藤子不二雄A
 藤子・F・不二雄
 石ノ森章太郎

才能ある漫画家たちがトキワ荘に集まった背景には、寺田ヒロオの「空いた部屋には若い同志を入れ、ここを新人漫画家の共同生活の場にしていきたい」「新人漫画家同志で励まし合って切磋琢磨できる環境をつくりたい」との思いがあった。このほかに「漫画家が原稿を落としそうになった際、他の部屋からすぐに助っ人を呼べる環境が欲しい」という編集者側の思惑と、「他の漫画家の穴埋めでもいいから自分の仕事を売り込む機会が欲しい」という描き手側の利害の一致もあったとされている。

それら若手漫画家達の多くは後に著名になり、その漫画家達により同じアパートに住んでいたという事実が世間にも伝えられるようになった。なお、トキワ荘への入居と仲間入りに際しては、メンバーたちにより、

・『漫画少年』で寺田が担当していた投稿欄「漫画つうしんぼ」の中で優秀な成績を収めていること。
・協調性があること。
・最低限、プロのアシスタントが務まったり、穴埋め原稿が描けたりする程度の技量には達していること。
・本当に良い漫画を描きたいという強い意志を持っていること。

といった基準で厳格な事前審査が行われていたとされる。こうした背景を考えると、トキワ荘に居住した(居住できた)のは単なる若手漫画家ではなく、選び抜かれた漫画エリート集団であり、トキワ荘から多数の一流漫画家が世に出たのは偶然ではなく必然だったと指摘されている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/トキワ荘


ほかにも社会を大きく変化させるきっかけとなった場はいくつもあります。たとえ何十年前であっても、地球の反対側で起きていても、私たちの生活に大きな影響を与えた変化の起点になりました。

PayPalの共同創業者たちがPayPal売却後に創業した企業
 イーロン・マスク スペースXやテスラ・モーターズ
 リード・ホフマン linkedin
 スティーブ・チェン、チャド・ハーリー、ジョード・カリム youtube
 ジェレミー・ストップルマン、ラッセル・シモンズ yelp
 デビッド・サックス yammer
 ピーター・ティール Palantir

1960年代 ユタ大学コンピュータグラフィックス科
 エド・キャットムル テクスチャマッピングなどの発明、Pixer社長
 ジョン・ワーノック Adobeの共同創業
 ジム・クラーク シリコングラフィックスとネットスケープの創業
 アラン・ケイ オブジェクト指向プログラミング、GUIなどの開拓
 ジム・ブリン 環境マッピングやバンプマッピングの発明
 ※当時の描写は『ピクサー流 創造するちから』が参考になる

フェアチャイルド・セミコンダクター社
 ゴードン・ムーア Intelを共同創業
 ロバート・ノイス Intelを共同創業
 アンドルー・グローヴ Intel三番目の社員
 ジェリー・サンダース AMDを創業
 ユージーン・クライナー クライナー・パーキンスの創業
 ドン・バレンタイン セコイア・キャピタルの創業
 ※当時の描写は『インテル 世界で最も重要な会社の産業史』が参考になる

サンタフェ研究所
 複雑系科学の中心地であり、知見を多数生み出している研究所。他の研究所のような安定的な収入源を持たず、研究者が出入りが激しい仕組みを持っている。


伝説のプロジェクト

期限のある仕事を共にする中で、仕事を質高く完遂するために生み出した技術が、その後の業界に大きな影響を与えることがあります。

トヨタ 初代クラウン
 トヨタの初代クラウンの開発が、その後の主査制度を確立。関わったメンバーはその後のトヨタの大ヒットプロダクトを生み出していく。
 中村健也 内閣総理大臣専用車などの主査
 長谷川龍雄 初代カローラ主査
 佐々木紫郎 三代目カローラ主査
 豊田英二
 『初代クラウン開発物語 トヨタのクルマ作りの原点を探る』が詳しい


アニメーション映画『太陽の王子 ホルスの大冒険』
 興行は振るわなかったが、どのように絵作りをするか、どのようにスタッフとともに作品を作り上げていくのかを作り上げた。
 高畑勲
 大塚康生
 宮崎駿
 小田部羊一
 奥山玲子

下記は登場人物の感情の動きをスタッフにも深く理解してもらうために開発されたテンションチャート。いまでいうカスタマージャーニーマップが50年以上前の1968年には使われていました。

テンションチャート 『高畑勲展』より


小田部羊一氏は初めて目にする方も多いかもしれません。アニメーターの仕事ののち、1985年に任天堂に転職し、マリオのデザインを洗練させる仕事をされました。

初期のマリオは垢抜けないデザインでしたが、小田部氏が参画以後は非常に垢抜けたイラストレーションやアクションとなりました。このころのマリオは説明書もワクワクするものでした。

以下は1980年代のマリオシリーズの変化です。

1983年発売の『マリオブラザーズ』
1985年発売の『スーパーマリオブラザーズ』
小田部氏が参画後
1988年発売の『スーパーマリオブラザーズ3』
https://www.nintendo.co.jp/ds/interview/dsi/vol8/index4.html
https://www.nintendo.co.jp/ds/interview/dsi/vol8/index4.html

現在でもそのまま使われているかのような生き生きとした動きが30年前に実現されていました。



神回のイベント

ごく僅かな期間によって生まれる場合もあります。世界的に影響を与えることになった神回といっていいイベントもあります。

メイシー会議
1946年から年に一度集まって話し合い、サイバネティクスや認知科学を生み出した学際会議。
 ノーバート・ウィーナー
 フォン・ノイマン
 クロード・シャノン
 レナード・サヴェッジ
 マックス・デルブリュック
 マーガレット・ミード
 エリク・エリクソン
 ローマン・ヤコブソン
 グレゴリー・ベイトソン
 ウィリアム・ロス・アシュビー

ダートマス会議
1956年に開催され、人工知能という言葉と概念を生んだ学際会議。
 ジョン・マッカーシー LISP発明
 マービン・ミンスキー LOGOの発明者の一人
 ナサニエル・ロチェスター アセンブラの発明、世界初大量生産コンピュータの設計
 クロード・シャノン
 レイ・ソロモノフ
 オリバー・セルフリッジ

アジャイルソフトウェア開発宣言
2001年に17名の著名なソフトウェア開発者が集まり、共通する考えまとめた。その後、アジャイルという考え方は一世を風靡する。
 Kent Beck
 Mike Beedle
 Arie van Bennekum
 Alistair Cockburn
 Ward Cunningham
 Martin Fowler
 James Grenning
 Jim Highsmith
 Andrew Hunt
 Ron Jeffries
 Jon Kern
 Brian Marick
 Robert C. Martin
 Steve Mellor
 Ken Schwaber
 Jeff Sutherland
 Dave Thomas


影響力は多大だが、いまだ局所的な黄金期

このようにひとつの企業を超えて大きな影響を与える状況がたびたび起きてきました。しかし、言い換えれば局所的でもあったのです。

黄金期の全てがよかったわけではありません。中心的に活躍する人達と、彼等を支える周辺の人達に二分されて序列が生まれてしまいました。

中心で活躍する人達は、さらに活躍の機会に恵まれ、それが何十年も続きます。その人達の人生が、そのまま業界の歴史のような経験です。

一方で、周辺で支えた人達にはそれほど機会は与えられません。この間には機会の断絶があります。

そして黄金期の第一線を担ってきた人達が去った後には停滞がやってくることもたびたびおきます。第二創業期の困難や後継者問題です。


偏在する暗黒期

機会に恵まれつづける人達がいる一方で、「暗黒期」を体験している人達がいます。

「エンジニアは会社からも、社会からも注目されているが、私たちの仕事はそうではない」このような職種の違いによる悩みをきくようになりました。「20xxにはAIに仕事を奪われる」と何度も言われつづけている人達です。

また世の中では学習といった言葉があふれるようになりました。しかし本で学んでも、仕事で使えるのはごく僅かで、学習に費やされた時間やコストの多くは報われません。せっかく技術を身に付けても今の職場ではチャンスがないから転職すことになってしまったりします。

チームの成長もよく話題に上るようになりました。ところが「チームはよくなっている。自慢のチームだ。ところが関わっているプロダクトはとても自慢できない。」といったギャップに悩まされているチームを見るようになりました。


組織開発は「黄金体験」をデザインできるか

もし組織開発が極めて高い価値を生むとしたら、それは偶然のように発生してきた黄金期や黄金世代を意図的に生み出せるようになることだと私は考えます。

それは黄金期や黄金世代が現れる力学やメカニズムに精通し、人の能力や工夫を自在に発揮できる場を触発するデザインになるでしょう。そのデザインは人から「黄金体験」を引き出すのではないかと思います。


Regional Scrum Gathering Tokyo 2022

このような黄金体験はどのようにしたら体験できるのでしょう。ひとつは2022年1月5~7日に行われるRegional Scrum Gathering Tokyo 2022です。コミュニティによって質高く体験が育まれてきた稀少な場です。

RSGT2020は、これまでと比較にならないぐらい最高の時間になりました。びっくりしました。
RSGTが終わった後も、何かと交流する機会があったりして、コミュニティが最高に楽しくなりました。

https://confengine.com/conferences/regional-scrum-gathering-tokyo-2021/proposal/14873



本記事の一部にはなりますが、企業の成長、分業、体験の集約と独占、官僚主義へと向かう自己組織化などを話す予定です。もし上記のようなテーマに興味がありましたらぜひお話ししましょう。


ブルシットプロダクトからチームを守れ! 「顧客が本当に必要だったもの」をいかに追求しつづけるか
https://confengine.com/conferences/regional-scrum-gathering-tokyo-2022/proposal/16109

ブルシットプロダクトとは何か
・ブルシットプロダクト
・顧客につけ込むダークパターン

組織システムは何に自己組織化しようとしているのか
・分業の功罪
・太い経験と細い経験
・負の自己組織化
・官僚主義や大企業病は自己組織化の双子
・ブルシットプロダクトマネジメント
・負をマネジメントする

顧客を助けるプロダクト組織へ
・顧客を助ける
・顧客の能力を高める
・無知/無能/無関心から、知ってる/できる/当事者意識へ


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