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組織にスモールワールドネットワークを構築する

1998年にスティーブン・ストロガッツとダンカン・ワッツがネットワークのメカニズムを明らかにする論文を発表しました*。

規則正しいネットワークでは任意の場所に移動するための回数は多くなりますが、少数の経路をランダムにつなぎ変えるだけで、任意の場所に移動するための回数が劇的に減るというネットワーク特有の現象を説明した論文です。この現象はスモールワールドと呼ばれます。

この記事では論文内容の概要を説明し、次に組織にスモールワールド効果をもたらす組織デザインと、その簡単な方法を紹介します。

経路のランダムな接続が平均移動回数を減らす

※補足 図として分かりやすくするため、単純なネットワークにしています。論文ではもう少し複雑です。誤解しやすいポイントは、全ての移動の回数が減るわけではなく、増える場合もあります。しかし、全体の平均移動回数は減ります。


要素同士の近接性

スモールワールドネットワークの際立った特徴は、要素の総数を無視できるほど強力な「要素同士の近接性」です。

ネットワークの要素を増やしてみましょう。規則正しいネットワークで要素を増やすと、それに伴って任意の場所に移動するための回数は増えていきます。

規則正しいネットワークでは、要素を増やすと移動回数が増える


ところが、ランダムな経路を含んだネットワークでは、移動回数は頂点の数ほどは増えていきません。それどころか、たくさんの要素を追加して、ようやくすこしずつ増えていきます。

経路の一部がランダムな場合、規則正しいネットワークほどは移動回数は増えない

世界人口は80億人ですが、わずか数人を介して繋がっています。たとえばFacebookでは平均4.7人を介して全員にアクセスできます**。世界人口は80億人に適用しても、倍の160億人になっても、4.7が50や1000へと大きく増えることはありません。これがスモールワールドの特徴である、要素同士の近接性です。


スモールワールドネットワークから組織構造を考えると、正式な経路は非効率

社内には様々な知識や経験を持った人たちが集まっています。自分が知らなかったり、できなかったりしても、他の誰かは容易に解決できる可能性があります。

ところが、コミュニケーションを組織図の通りの上下関係に絞ったり、組織ごとの縦割りが幅を利かせていることがあります。他の部署のメンバーと話をするためには、まず自分の上司にお伺いを立てて、次に相手の部署の上司にお伺いして…。

この「正式な経路」を通るコミュニケーションパスを図にすると以下になります。

正式な経路を通る組織構造

規則正しく見えるネットワークですが、このネットワークでは自分の助けになる誰かに到達するためにいくつものステップが必要になります。

自分の組織にはいくつ階層があるでしょう。正式な経路でしかコミュニケーションできないとしたら、上りの階層と下りの階層の合計が、任意のメンバーを話すためにかかります。

もし社内にノウハウのスモールワールドネットワークを構築して、問題発生と問題解決の近接性が高めることができれば、問題の対処は速やかになります。

スモールワールドネットワークの経路

特に自分のチームで解決できない問題や、他部署の力を借りなければならない問題ほど影響力は高くなります。

大切なポイントは、ほとんどの仕事は一人や一つのチームで完結できず、他のチームや部門に部分的に依存していることです。

自分や自分のチームが問題解決に優秀であるほど、他のチームや他部門に起きた問題の解決をまつ割合が増えるということです。

仕事が自分個人やチームだけで完結できないならば、自分達ばかりが問題解決がうまく進んでも、全体の仕事の進展には影響しません。

仕事がいくつもの部門にまたがる組織において、部分的な優秀さは全体の仕事の進捗にはプラスには働きづらいのです。


全員が集まる全社会議は、少数の個人が繋がる

企業がコミュニケーションを捗らせるために行われる方法に全社会議があります。社員全員が参加する会議で、話す機会を設けることで、この縦割り組織を崩そうと定期的な機会を設けています。

しかし、ネットワークの観点から見れば効果は限定的かもしれません。全員が集まって1時間、誰かと話す機会があったとしても、実際に話せるのは数人の個人でしかないからです。結局、知り合っているのは個人と個人との関係に留まることが多々あります。

全員が集まれば、わあわあと動く様子に活気を感じるかもしれませんが、ネットワーク造りの観点から見たら良い設計ではないかもしれません。


組織に近接性をもたらすスモールワールドミーティング

私が紹介する方法はスモールワールドミーティングです。

スティーブン・ストロガッツとダンカン・ワッツの論文をそのままワークにしたような方法です。 簡単にはじめられて、そこそこ効果的です。

次は150人の組織、5つの部署で30人、部署には5人で構成される6チームがある組織の例です。

スモールワールドミーティングの準備
・週に1回、5つの部署で誰か一人を選出する。5人が選ばれる(ランダムでかまわない)。
・1時間の場を設ける

スモールワールドミーティングの実施
5人が「チームの話」をする
一人ずつ5分で下記を話す
 ・自分のチームの出来事
 ・自分の隣のチームの出来事
 ・自分のチームは何が得意か
 ・自分のチームで困っていることは何か
 ・隣のチームは何が得意か
 ・隣のチームで困っていることは何か

・一巡したら、各チームはそれぞれのチームの話を聞いて、助けになれそうなことや、助けてもらいたいことを話す
・スモールワールドミーティングが終わった後にも話を続けるための連絡先をお互いに共有する
・自分の部署に戻って、上記のサマリーを話す

これだけで組織内の人と人との近接性は大いに縮まります。副次的には自部署内のメンバー同士の近接性も高まります。他部署に説明するために、自部署についてよく知ろうとする動機が働くためです。

かかる時間は全社会議と比較にならないほど小さいものです。全社会議では実施に150人の組織なら150人時間かかります(準備時間を含めればもっと費やしている)。

スモールワールドミーティングでは1回5人時間で、1回当たり1/30です。毎週行ってもお釣りがきます。知り合っているのはチームとチーム、そしてコミュニケーションの窓口となる代表者です。


応用 スモールワールドオンボーディング

簡単な応用もあります。

入社した人は、社内の人々を知りません。そのため、自分はどのような助けを社内の人から得られるのか、自分の能力によってどのような人を助けることができるのか、この貢献関係を長い時間をかけて築いていかなければなりません。

つまり、人間関係の理解の上に築かれるパフォーマンスは、入社してから発揮するまでに多くの時間がかかるということです。

入社したての人にとって、急速に組織の近接性を高めて貢献できるように、スモールワールドを活かしたオンボーディングをしましょう。他のチームに移籍する際も使えます。

通常、入社した人は長く在席することで少しずついろんな人と知り合っていきます。近接性の推移を描いたら、非常にゆっくりとしたペースで近接性が高まることになります。

入社して何年でしょう。他の部署のチームはどんなことをしているのかどれくらい知ってるでしょう。自分からブラックボックスになっているチームはないでしょうか。そもそも存在すら知らないチームもあるかもしれません。自分の長年の悩みが、そのチームによって簡単に解決できるかもしれませんし、その逆に、簡単に助けられるケースもあるかもしれません。

組織内の他の人の有用な知識やノウハウにアクセスしづらいままなら、近接性の設計に失敗しているかもしれないということです。

たとえば「社内にこんなすごい人がいるなんてしらなかった」「早く出会っていればよかったのに」といった声は失敗のシグナルです。


スモールワールドミーティングを自部署で行ったり、他部署とのスモールワールドミーティングに参加することで、急速に近接性を改善できます。試してみてください。いきなり全社で行うには大がかりなら、隣の部署や前後工程の部署とするだけでも効果があります。

ぜひ試してみてください。


今回のテーマは『プロダクトマネジメント大全 中巻 組織開発』でより詳しく紹介する予定です。上巻はこちらからどうぞ。


参考資料

今回の組織ネットワークに興味をもったら、こちらもどうぞ


*ネットワーク科学の起源のひとつであるスティーブン・ストロガッツとダンカン・ワッツの論文
Watts, D. J., & Strogatz, S. H. (1998). Collective dynamics of ‘small-world’networks. nature, 393(6684), 440.
https://edisciplinas.usp.br/pluginfile.php/4205021/mod_resource/content/1/NAture_Watts_Strogatz.pdf

**Anatomy of Facebook
https://www.facebook.com/notes/10158927855913415/



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