中秋の名月(陽2024/9/17)
旧暦8月15日の月(ほぼ満月, 多少ずれることがある)を「中秋の名月」といいます(「十五夜」とも). 東洋に共通する慣習らしく大陸起源のようです. 中秋の名月は「芋名月」とも呼ばれ, この時期がサトイモの収穫期でサトイモをお供えする習慣もあるようです.
伝統にケチつけるわけじゃないけれど, 本音をいうと満月ってのは月それ自体としては, 見ても写真に撮ってもあまりおもしろいモノじゃあありません. 月の顔が真っ直ぐに照らされるってことで山にも谷にも影ができないので, のっぺりした感じに見えてしまうから. だから名月の楽しみ方ってのは, 望遠鏡を出してガチで月を見るとかじゃなく, むしろ, やっと朝夕涼しくなった季節, 芋も収穫できてちょっとホッとした気分, 宵の口に昇ってきた大きな丸い月を眺めて, 月明かりの中で夜遊びでもしましょうか…みたいなことなんだろうと思います.
「のっぺり」と書きましたが, 最近読んだ小説「オオルリ流星群」の中でおもしろいことが書いてありました. 月は球形なんだけど, 実は見た感じとても平面的に見えているのだと. それは「レゴリス」という月の砂のため. 月の表面には大気がないため微小な隕石も減速せずに衝突します. それで月の表面の砂はとても細かく砕かれた微粒子になっており, とても「拡散的」な反射特性をもつそうです. そのため, 地球から見て斜めになった面(月の縁の方)に当たる太陽光も, あさっての方向に反射されるんじゃなく, こっちに戻って来る. つまり縁の方もあまり減光せずにしっかり光って見える. だから童謡に「お盆のよう」と何気なく歌われるのにも, 実はちゃんとテクニカルな根拠があるのだと.
ところで日本では十五夜の旧暦8月(陽暦の9月)は台風シーズン. 「中秋の名月, 十年に九年は見えず」という言葉があるそうです. そうなっちゃったときのリベンジとして企画された(笑)のが, もしかしたら「十三夜」, 旧暦9月13日の満月ちょっと前の月見(「後の月」とも)なんじゃないかと, 私は思ったりします. 十三夜の方は陽暦10月で秋晴れのシーズンになり「十三夜に曇りなし」と言われるとか.
十三夜は大陸にはなく日本独特の習慣だそうで, その由来として平安時代の後醍醐天皇や宇多天皇が十三夜の月を愛でたことが挙げられているようですが, 果たしてどうでしょう? 十三夜は「栗名月」「豆名月」とも呼ばれ, 栗やら豆やら実って豊かな秋を祝ったのかも知れません. 10月半ばというと日本のほとんどの地方で稲刈りが終わった頃. 収穫祭にふさわしい時期ではないでしょうか.
それに月齢13前後だと, ガチで月を見てもなかなか楽しめます. 今年2024年の十三夜は10/15ということで, 月齢は12.4. Stellariumのシミュレーションはこんな感じに↓
欠け際に近い左側ではクレーターに陰影がついて立体的によく見えるでしょう. 左上の縁近くに小さく白く輝くアリスタルコスは, 月の平均より2倍も明るい(アルベドが高い)ことが知られていて, ガスの噴出などの現象も観測されたことがあるそうです. 隣に並ぶ暗いクレーター, ヘロドトスと合わせると白黒の眼鏡をかけたオジサンのようです. 内側のコペルニクスやティコは満月に近い頃に目立つ「光条」(放射状の白い筋)がよく見えます.
後の月が次の十五夜じゃなく十三夜なのは, 満月よりちょっと外したほうが面白いと, 先人たちも気づいてたんじゃないか?とも思ったり…
今年の十五夜は「十のうちの一」だったようで, 晴れた空に輝きました. 十三夜はどうでしょう? そのころに反対側の西の空には紫金山-アトラス彗星が, 果たして見えるでしょうか?
参考
室橋, 日本古来のお月見「十三夜」, https://nature-and-science.jp/jusanya/
伊予原, オオルリ流星群, 角川(2022)
佐伯, 月の砂「レゴリス」の不思議な性質 球体なのに「盆のよう」に見える理由, https://www.gentosha.jp/article/22033/
柴田ほか, 星空案内人になろう!, 技術評論社(2007)