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BBCドラマ『殺人は容易だ』(2023/全2話)紹介と感想

『そして誰もいなくなった』(2015/全3話)から始まった、BBC製作のクリスティー原作ミニドラマシリーズ。

その後も、『検察側の証人』(2016/全2話)、『無実はさいなむ』(2017/全3話)、『ABC殺人事件』(2018/全3話)、『蒼ざめた馬』(2020/全2話)、『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』(2022/全3話)と作られてきました。

『殺人は容易だ』は第7弾になります。


あらすじ

1954年、ナイジェリアで警官を退職したルークは、政府職員としてイギリスへと戻って来た。
ロンドンへの汽車の中、同席したピンカートンという老婦人が村の中で3人が殺害され、まだまだ殺人が続くため警視庁に知らせに行くところだと話を聞く。
しかし、ロンドンに到着して分かれた直後にピンカートンは何者かにひき殺された。
ルークはピンカートンの住んでいたウィッチウッドを訪れ、文化人類学者と正体を偽りながら独自に捜査を始めるが、その間にも事件は続いていく……。


感想

ひと言で言うと、特別悪くもないが、細かな変更が生きるほど良い訳でもなかったという評価になります。


80年代のアメリカドラマと同じく、ルークのすぐ近くでひき殺される形に変更となっており、ピンカートンの代わりに賭けた競馬の賞金というアイテムも増えることで、短い時間の中でピンカートンとの親密さを増しており、事件に飛び込むための動機づけを強めていました。

ルークの謎の夢描写などはありますが、物語自体はアレンジしながらも基本的に原作通りに進行します。
村の閉鎖的な男性管理社会の空間の中で生きる女性のテーマもありますが、ルークの設定変更をした割には、当初予想していたほど大きな改変はありませんでした。

カラフルな色彩の美しい村の風景は、その中で起こる連続殺人や村の閉鎖性との対比で良かったと思います。

登場人物的は、出番は少ないが原作よりも存在が盛られているピンカートン、やたら頼れるホートン少佐、トム・ライリーの演技によりアクの強さが際立っていたホイットフィールド卿が印象に残りました。


ただ、最初に言ったように良くも悪くも大きな特徴がなく、演出も何となく平板な感じがしてしまったのが少し引っかかるところです。
制作者が、このドラマで何を伝えたいのか(原作の良さなのか、原作から広げられる現代的なテーマなのか、サスペンスなのか等)がドラマの中から見えづらいことが原因なのかなと思います。

比較的楽しめたのですが、原作自体がクリスティーの最善作ではないこともあり、人に伝える時ににどう勧めたいか又は勧めたくないかを伝え辛い作品です。
ただ、個人的には以前の改変しまくりで納得はできない作品群よりは良いとは思います。

総じて、重すぎない現代サスペンスドラマを観たい時や、物語自体を変に改変していない映像化を観たい際には悪くない選択肢だと思います。


最後に、2015年からBBCが製作しているクリスティー原作作品を好きな順に並べてみました。

エヴァンズ>誰もいなくなった≧殺人は容易だ>>蒼ざめた馬>>無実はさいなむ>検察側の証人>ABC

次回の作品『ゼロ時間へ』はどのような内容になっているのか楽しみです。


ドラマデータ

【原題】 Agatha Christie’s Murder Is Easy
【制作】 2023年 イギリス
【時間】 1話約59分×全2話
【原作】 アガサ・クリスティー『殺人は容易だ』(1939)
【演出】 ミーヌ・ガウル
【脚本】 シアン・エジウミ=ルベール

【出演】
ルーク・フィッツウィリアム/デヴィッド・ジョンソン(阪口周平)
 ブリジェット・コンウェイ/モーフィッド・クラーク(清水理沙)
 ラヴィニア・ピンカートン/ペネロピ・ウィルトン(滝沢ロコ)
   ホイットフィールド卿/トム・ライリー(小山力也)
        トマス医師/マシュー・ベイントン(中村章吾)
       ホートン少佐/ダグラス・ヘンシャル(魚健)
     ハンブルビー牧師/マーク・ボナー(村治学)
     ハンブルビー夫人/ニムラ・ブッチャ(水野ゆふ)
   ローズ・ハンブルビー/フィービー・リコリッシュ(松井茜)
        ピアス夫人/タムジン・アウスウェイト(所河ひとみ)
       カーター夫人/キャスリン・ハウデン(竹口安芸子)
         リバース/ジョン・ポインティング(北田理道)
 オノリア・ウェインフリート/シネイド・マシューズ(渋谷はるか)
        リード巡査/ケビン・メインズ(松川裕輝)
         ブル刑事/ブライアン・マッカーディー(斎藤志郎)
※吹替声優は2025年放送予定のNHK放送版より


その他の映像化作品

『殺人は容易だ』(1982/米)
 脚本:カルメン・カルヴァー
 演出:クロード・ワサム

ジュリア・マッケンジー主演『ミス・マープル』(英)
 シーズン4 第2話『殺人は容易だ』(2009)

 脚本:スティーブン・チャーシェット
 監督:ヘティ・マクドナルド

『アガサ・クリスティーの謎解きゲーム Les petits meurtres d'Agatha Christie』(仏)
 シーズン2 第9話『殺人は容易だ Un meurtre est-il facile?』(2015)

 脚本:ジャン=リュック・ガジェ
 監督:マルク・アンジェロ


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