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メグレ警視シリーズ長編25『メグレと奇妙な女中の謎』(1944)

ジョルジュ・シムノン「メグレと奇妙な女中の謎」『EQ MAY'86 NO.51』光文社, 1986, p213-280


あらすじ

パリから数キロ離れたジャンヌヴィル分譲地で、気難し屋の男《義足のラピィー》が銃殺された。
メグレは、ラピィーと一緒に暮らしていた女中のフェリシイに話を聞こうとするが、つっけんどんな態度を崩さない。
あまつさえ、警察の尾行をまいたり、嘘をつき続けたりする。
そんな彼女に苛立ちながらも、拘ることをやめられず付け回すメグレ。
自分の家のように動き回るメグレに、反応を示さないフェリシイ。
春の香りが漂う田舎町を舞台に、メグレとフェリシイの奇妙な関係が幕を開ける。


本の紹介と感想

メグレシリーズにはいくつかのパターンがありますが、今作はメグレが特定の人物に拘り続けるタイプになります。その人物はフェリシイと言い、メグレは事件解決まで殆どの時間をフェリシイとともに過ごすことにしました。

話の殆どはメグレとフェリシイの二人で占められており、その合間にリュカやジャンヴィエなどの捜査の様子や、時折メグレがパリへ捜査に行く様子が描写されます。

この、メグレとフェリシイの何とも言えない関係の描写がとても良く、事件がどのように解決するかなどどうでもよくなり、この二人の関係をいつまでも観ていたくなります。

最初はフェリシイの態度や行動にイラっとしますが、その裏にある夢見がちな心が見えてくるとき、メグレと同じように、フェリシイに対して憎らしいけど魅力的な気持ちになると思います。

しかし、二人の関係がどれだけ良かったとしても、事件は起きました。
「それでも《義足のラピィー》は殺された!」のです。
決して付き合いやすい人間ではない《義足のラピィー》でしたが、誰よりも平穏を望み、誰よりも予定調和の中で行きたかったのに、それを手に入れられなかった彼の人生は哀しいものだと思ってしまいます。

シリアスとコミカルが混じり合った空気感も良く、特に第七章の伊勢えびを巡るやりとりが、メグレの中で事件が解決に向かう空気を表現していて面白かったです。
伊勢えびに目がないのに、メグレに取られて食べられなかったリュカがかわいそうでした。

《第2期メグレ長編は面白い》という話の通り、『メグレとマジェスティック・ホテルの地階』に続き、今回もメグレ物の傑作として誰にでもお勧めできる素晴らしい作品でした。
謎解き要素なども含むバランスの良い警察小説が好きなら『マジェスティク』、メグレが特定の人物に拘るタイプの話しを読みたかったら今作という感じになると思います。
残り4作ある第2期長編を読むのが楽しみです。

 メグレの頭にあるのはフェリシイなのだ、ずっとフェリシイのことなのである。メグレが秘密を聞き出したいのはフェリシイからなのだ。

ジョルジュ・シムノン「メグレと奇妙な女中の謎」『EQ MAY'86 NO.51』光文社, 1986, p232
他の人のことは気にも留めず、フェリシイのことばかり気にしているメグレ

 メグレが自転車にまたがったとき、彼女が大声で叫んだ。
「やっぱりあなたなんか嫌いだわ!」
 メグレは振り返ると、にっこり微笑み、
「私は、フェリシイ、あんたが大好きだよ!」

ジョルジュ・シムノン「メグレと奇妙な女中の謎」『EQ MAY'86 NO.51』光文社, 1986, p266
メグレがオルジュヴァルへ戻るために自転車にまたがった時のフェリシイとのやりとり

映像化作品

ルパート・デイヴィス主演シリーズ(英)
 シリーズ3 第6話「Love from Felicie」(1962) ※日本未紹介

ジャン・リシャール主演シリーズ(仏)
 第6話「Félicie est là」(1968) ※日本未紹介

マイケル・ガンボン主演シリーズ(英)
 シリーズ2 第6話「メグレとジャンヌヴィルの女」(1993)

ブリュノ・クレメール主演シリーズ(仏)
 第40話「メグレと奇妙な女中の謎」(2002)

メグレシリーズ 既読作品リスト

そろそろ自分で読んだ作品、お気に入りの作品を覚えてるのが大変になってきたので現時点での読了リストを自分用のメモとして書いておきます。
☆がお気に入り、〇がお気に入りには後一歩だけど良いと思った作品です。
全て現時点での評価になります。

長編
〇03.サン・フォリアン寺院の首吊人(1930)
 06.黄色い犬(1931)
☆07.メグレと深夜の十字路(1931)
 14.サン・フィアクル殺人事件(1932)

☆21.メグレと超高級ホテルの地階(1942)
☆25.メグレと奇妙な女中の謎(1944)

☆29.メグレと殺人者たち(1947)
☆35.メグレと老婦人(1950)
☆36.モンマルトルのメグレ(1950)
☆38.メグレと消えた死体(1951)
☆39.メグレと生死不明の男(1952)
☆44.メグレと田舎教師(1953)
☆45.メグレと若い女の死(1954)
☆46.メグレと政府高官(1954)
☆47.メグレ罠を張る(1955)
☆63.メグレたてつく(1964)
〇64.メグレと宝石泥棒(1965)
〇72.メグレと老婦人の謎(1970)
 73.メグレとひとりぼっちの男(1971)

中短編
 01.首吊り船(1936)
 03.開いた窓(1936)
 04.月曜日の男(1936)
 05.停車──五十一分間(1936)
 07.蠟のしずく(1936)
〇12.メグレと溺死人の宿(1938)
☆14.ホテル“北極星” (1938)
〇17.メグレと消えたミニアチュア(1938)
〇19.メグレとグラン・カフェの常連(1938)
☆20.街中の男(1940)
☆23.メグレと無愛想な刑事(1946)
☆24.児童聖歌隊員の証言(1946)
〇25.世界一ねばった客(1946)
〇26.誰も哀れな男を殺しはしない(1946)
☆27.メグレ警視のクリスマス(1950)


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