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読書感想文

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2024年10月の記事一覧

つんく♂『「だから、生きる。」』(2015)紹介と感想

つんく♂『「だから、生きる。」』新潮社, 2015 2015年4月に母校・近畿大学の入学式の日から振り返る、上京してからの仕事一色の忙しい毎日、後に妻となる女性と出会ってから結婚、子供が生まれて価値観や過ごし方が変化していく幸せな日々、喉頭癌発覚後の闘病から口頭全摘出となるまでを赤裸々に綴ったエッセイになります。 自分にとっては『リズム天国』のプロデューサーとしてのイメージが強いのですが、本作を読むことで悩みや嫉妬もする立体的な一人の人間として浮かび上がってきました。 不

又吉直樹『第2図書係補佐』(2011)紹介と感想

又吉直樹『第2図書係補佐』幻冬舎, 2011 紹介と感想 芸人であり作家である著者による、ヨシモト∞ホール発のフリーペーパーに掲載された本を媒介にした自分の人生や考えを語るエッセイに書下ろしを加えてまとめた一冊です。 本書には、あまりにも繊細で感情豊か、しかし社会に対して上手く表現できない一人の若者としての著者が描かれていました。 そして、その著者の語りを通して、紹介されている本にも興味を持てる所が本書の凄い所だと思います。 読んでいる自分と似ている様に見えながらも、

浅見光彦シリーズ長編12『美濃路殺人事件』(1987) 紹介と感想

内田康夫『美濃路殺人事件』徳間書店, 2015 あらすじ 愛知県犬山村の明治村で殺された高桑雅文。凶器は小刀で、和紙に包まれて捨てられていた。 美濃紙の取材で岐阜県美濃市を訪れていた浅見光彦は、旅館のニュースで事件を知るが、被害者の顔に見覚えがあった。 数日前に東京の宝石商・月岡和夫が車の中に大量の血痕を残して失踪した事件がワイドショーで報じられた際に、月岡家へ押し寄せるマスコミを制している被害者をテレビで見ていたのだ。 月岡和夫には借金があり、狂言誘拐ではないかと騒がれ

水野敬也『夢をかなえるゾウ』(2007)紹介と感想

水野敬也『夢をかなえるゾウ』飛鳥新社, 2011(文庫版) あらすじ うだつの上がらない僕は「変わりたい」と思っていながら、毎日の生活に流されて一歩を踏み出せていなかった。 しかし、ある時ガネーシャの置物と同じ姿をした神様が眼の前に現れる。 そして、ガネーシャとの奇妙な騒がしい共同生活が始まった。 自分を変えるためにガネーシャと契約した僕は、毎日ガネーシャが出してくる課題を実践していくことになった。 「靴をみがく」「食事を腹八分におさえる」などの課題に始めは半信半疑だっ

井伏鱒二 読書記録②

朽助のいる谷間(1929年) 幼い頃から面倒を見てくれていた谷木朽助は、私のことを贔屓していた。彼は私が偉くならなければ辛いと常々話していた。東京に出て文学青年をしている私は、弁護士だと思われるような振舞いをしていた。そんな時、タエトというハワイからやって来た朽助の孫娘から手紙を貰った。朽助のいる谷間が日本政府の命令で貯水池が作られるため沈むことになったが、朽助が了承しないため説得して欲しいと言うのだ。私は朽助のいる谷間を訪ねた。 若い頃はハワイへ出稼ぎへ行っていた77

クリスティ書店の事件簿1『雪山書店と嘘つきな死体』Dead and Gondola(2022)紹介と感想

アン・クレア 谷泰子 訳『雪山書店と嘘つきな死体』東京創元社, 2024 あらすじ 故郷のラスト・ワードへ戻り実家の書店ブック・シャレーを継いだエリー・クリスティは、姉のメグや頼れる書店員ミス・リッジと共に書店を切り盛りしていた。 そんなある日、店に『春にして君を離れ』の初版本を忘れて行った謎の男が、ゴンドラで刺殺された事件に巻き込まれる。 そして、同じ日にミス・リッジも姿を消してしまったのだ。 エリーは、メグや祖母のグランマ、姪のロージィなど家族の協力も得ながら二つの事

ホーソーン&ホロヴィッツ第5弾『死はすぐそばに』Close to Death(2024)紹介と感想

アンソニー・ホロヴィッツ 山田 蘭訳『死はすぐそばに』東京創元社, 2024 毎年楽しみにしているホロヴィッツの最新作。今回はホーソン&ホロヴィッツシリーズになります。 あらすじ リヴァービュー・クロースという、周囲を門で囲われ電動門扉からしか出入りができない高級住宅地に最近越してきたケンワージー一家は、周囲の家と諍いを起こし嫌われていた。 住民たちの憎しみが高まっていく中、ジャイルズ・ケンワージーが住民の一人が所有するボウガンで喉を打ちぬかれて殺される事件が発生する。

2024年9月の読書まとめ+『世界の名著がすじがきでわかる 読んでおきたいベスト26』『日本人なら知っておきたい日本文学 ヤマトタケルから兼好まで、人物で読む古典』感想

9月は、漫画は殆ど読めませんでしたが、先月に続き普段の読書傾向とは違う本をいくつか読み、いつもとは違う刺激を得た一か月でした。 三浦朱門編『世界の名著がすじがきでわかる 読んでおきたいベスト26』あ・うん,2004 三浦朱門がセレクトした世界の名著26冊のあらすじが、作者の簡単な紹介とともに記載されています。 選ばれている本は、読んだことが無くても名前だけは多くの人が訊いた事のある本ばかりでした。 自分は、作家単位なら作品を読んだことはあったり、映画化されたものを観たり