トランスジェンダーを隠しての就業
戸籍を男性から女性に変更した目的は、10年連れ添った彼氏と結婚するためだった。
東京に出てきた後、モデルなどはせずに、会社勤めを始めた彼と結婚すること言う事は、彼の仕事の邪魔にならないよう、彼の身近な人や会社関係の人たちなどにもカミングアウトせずに、"生まれながらの女性" の振りをして暮らすほかなかった。
2005年の年末タイでの性適合手術を終え、翌2月には戸籍変更の許可が下りた私は、これからは元男性と言う事を隠して生きる覚悟もできていたし、自分が女性としてどこまで行けるのか確かめたいようなチャレンジ精神のような気持ちもあったため、大変だったが何とかやってこられた。
戸籍変更後最初の職場は、外資系ソフトウェア会社のコールセンターで、サポートを行っていた。電話でしか相手を認識できないコールセンター業務は、トランスを始めてからトレーニングをしつづけた女声をさらに磨き上げてる手段となった。
その職場に在籍中に彼と結婚、挙式をした。挙式についてはまた別の機会に書こうと思うが、職場の方々にもお祝いをしていただきとても幸せだった。
その後の職場は、SIer(エスアイヤー)某日本企業のサポートセンターでの女性ばかりの受付部署だった。四十人ほどいる部署の人間すべてが女性。その中でトランスジェンダーということを隠して働くことに・・・
男性だったころは、周りの女性はみな私に優しくしてくれる人ばかりだったが、女性になったとたん、マウンティングの対象となった。これには本当に面食らった。女性同士の付き合いをこれまでしたことのない私が、女の園に足を踏み入れしごかれていった。この経験は当時はかなりつらいものだったが、その後、女子会だの、ミセスコンテストだのと、女性ばかりのシチュエーションで立ち振る舞うには、大いに役に立つ経験だったと思える。
見た目は、白ギャル寄りの軽そうな見た目と、とても内気な性格(女性として歩き始めたばかりのため)とのギャップが、他部署の男性社員にはウケが良かった。女性ばかりの部署にもかかわらず、飲み会の誘いやら、お花見やBBQなどの誘いが多く、しまいには、「俺の部署に異動してこないか」と引き抜きされるほどであった。
女性ばかりの部署に半年いたのち、受付からサーバー技術系のサポート部署に異例の異動を果たした。この企業始まって以来の出来事だったらしく、社内でも話題になった。技術系部署での約5年間は私の技術スキルを大いに上げてくれた。
そして、2013年、前職の日本企業に就職。3年間、六本木にある大手サーチエンジン系の企業に出向常駐することに。たまたま、このサーチエンジン系企業は夫の前職の会社で、夫の知り合いが多い職場だったため、初めての出向常駐にもかかわらず、のびのびと仕事することができた。
出向期間が終わり、本社勤務になってからは、社内の女性活躍推進部の活動に駆り出され、他社の女性社員たちと推進活動をするなど、一般的な女性社員ができない事を経験させていただいたことなどを思うと、自分のトランスクオリティは決して低くないのだと確信したのだった。
一方で、どの職場にも、嫌な女は必ずいるもので、そういった女たちとの付き合い方も学ぶことができていい経験だったと思うが、一人だけ、私に「キノさんって身長も高いけど、首も太いし、手足もごついよねぇ~(笑)」と言ってきた女がいた。
この時ばかりは、「ばれたかぁ」と思ったが、周りの女性たちがその女を諭してくれたためそれ以上の会話にはならなかったし、より一層、スタイルを気を付けようと身が引き締まった事を思い出す。