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初めての「オムプリ」は春風を連れてきた。

HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE。
知っているだろうか。

知ってるよな。そりゃ、「オムプリ」ってこのnoteのタイトルをみて、ピンと来た人なら知ってる。でもね、世の中には知らない人もいるのよ。例えば、一年前の私。

オムプリ、といえば、オムライスの一種である。
ふわふわのオムの中に、プリっとした海老が…

くらいには思っていましたよ。ええ。

でも違うんですね。オムプリってのは、「オムプリッセ」の略で、そのオムプリッセってのは、あのISSEY MIYAKEのブランドらしい。ほぼ全ての服に採用されている太めのプリーツがかっこいい。ここからは見た方が早い。

ジャジャーン!

いつの頃からだろうか。
友人がオムプリばかり着るようになった。

パンツもオムプリ、ジャケットもオムプリ。Tシャツも、カバンもなんでもオムプリ。プリーツにプリーツを重ねて、幾重にもなる幾何学模様。しまいにはネクタイまでオムプリになった。次は下着か、それとも靴か、靴下か。

おかげさまで、混み合った場所での待ち合わせには重宝する。


シンプルに目立つ!(ありがてえ…)



どんだけ持っているのかと思い、クローゼットも見せてもらった。そこにはちょっと長いオムプリパンツに、くるぶし丈のオムプリパンツ。少し膨らんだオムプリパンツに、先のすぼんだオムプリパンツ…しかも全部黒。

改めて撮影してもらった。

スティーブ・ジョブスは毎日服を考える時間や労力すら惜しんで、黒いTシャツとジーンズを何枚も持っていたという。合理的だ。友人もその類だろうか、と思ってそんな質問を投げてみた。

するとどうだろう。友人は一つ一つの違いを、愛おしそうに語り始めたではないか。


私は発狂した。


(この人…やばい人なのか?毎日、この人は、どのパンツを履くか悩むのか?大体どうやって見分けている?長さを比べるのか?場所で記憶するのか?それともこの人には、一枚一枚全く違うものに見えているというのか。)


と、そんなこんなで困惑を極めていた私だったが、そんな私にもようやく、オムプリを買ってみたいと思う日がやってきた。

この世に白いオムプリが誕生したのである。
(おそらく以前からあったと思う。でも私の世界にはなかったので誕生ということにしてほしい)

かわいい!女性でも着れそうだ。
こうして私は友人にお願いして、一緒にお店に行ってもらったのである。


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その日は、暖かい春の風が、気持ちの良い日だった。

午後1時。私は、HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE 青山店の行列を目の当たりにしていた。当たり前のようにそこに並ぶ友人に、オドオドしながらついてゆく。前の人もオムプリ。後ろの人もオムプリ。ユニクロのジーンズを履く私の人権はかろうじて保たれていた。

ようやく順番がやってきて、試着室に通された。
緊張する私の手元に白いオムプリがやってきた。
恐る恐る袖を通す。

・・・

・・・・・・・。

爽やかな春の風を纏うような着心地。

軽やか!

涼やか!

白やか!

「かっ….かっ…かわえええええええ!ここちええええ!」

私は一瞬でオムプリの虜になった。
買った。即買った。

人生初のオムプリ。私の白プリ。

私の白プリ


あれから、私の人生はちょっと変わった。

まず、友人に少し寛容になった。
「そのズボンとこのズボン、何が違うの?」なんて、もう聞かない。一つ一つのオムプリが、この世に生まれるべくして生まれた特別な存在なのだ。世界にひとつの花なのだ。

写真も撮ってもらった。
お気に入りのオムプリを着て、風通しのいいベランダで。大好きな写真家の方に。テンション爆あがりだ。

仕事へのモチベーションも変わった。
会社に行って、嫌なことがあった日も、私はオムプリを着ているんだぞと思うことで、なぜか強気でいられた。

道端で話しかけられる量が増えた。
おばぁちゃんから、外国人まで。それいいわねえ、と。英語も覚えなくてはならない。

退屈しなくなった。
オムプリを着ている人を街中で探す、「ウォーリーを探せ」ならぬ「オムプリを探せ」で、たまに遊んでいる。

困ったこともある。
冬が寒いのだ。風通しが良すぎる。冬の冷たい風が体を抜けていく。もちろん、例の友人に相談したが、「そんなところもかわいいのよ、手のやける子ね」的な回答だったので、そっとしておいた。

私は泣く泣く、冬はオムプリを封印することにした。

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そしてそれから、いくばかの月日が過ぎて…


友人は相変わらず元気だ。オムプリの布教に余念がない。
ついには、祖母・父・母・兄など、家族中に布教し、オムプリを着こなす老若男女が茨城で爆誕。

それでは飽き足らず、今度は自ら試着会を行うと張り切っている。
*確認までに、この人は別に代理店ではない。完全なる愛だ。

茨城に爆誕したというオムプリ一家。(素


そして、私はというと…






今朝。


目が痒かった。
少しクシャミも出た。
ホタルイカが美味しくなってきた。
花屋の店先には、桜の枝が置かれている。

春がやってくる。
あたたかな風のふわり吹く春が。

もうすぐ、オムプリの季節だ。

おわり。


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むーこ
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