ヘイ、ユー
ある日病棟内から「ヘイ、ユー!!」と大声が聞こえて日があった。
看護師さんに聞いてみると帰国子女の80代のおじいちゃんが入院してきたらしい。
「ヘイ、ユー!」となぜ叫んでるのかと言うと家のお手伝いさんに電話して迎えに来てもらおうとしてるらしい。
この時点で入院している自覚もないので認知症が混ざってると把握。
彼の名をコービンと呼ぼう。
コービンと最初は関わりはなかったものの、ある日病棟内をすれ違う時「ユー、べっぴんさんだねぇ、ユー、べっぴん!!」と言われた日から顔合わす度に絡んでくるようになった。
コービンが入院した理由は脳梗塞で倒れたからって風の噂で聞いた。
コービンも車椅子なのでこの前も車椅子をこいでたら後ろからトコトコとついてきて「ヘイ!ユーの車椅子いいねぇ」と言ってきたので「これは病院側がレンタルしてくれてるやつだよ」と答えたのだが私は腹筋の力が麻痺しているので声を張って言えないのと、コービンは耳が悪いのできっと伝わってなかっただろう。
3日に1回は私の名前を忘れるので左耳の耳元で大きな声で教えてあげるんです。
『まりな』じゃなくて『まりあ』に聞こえちゃうから実質1度も私の名前を覚えてくれた事はないんですけどね。
コービンは私の麻痺した手を握りながら「痛くないか?」って撫でてくるんです。麻痺だから痛くないって言うのに。笑
私の姿を見つけたら「ユーはそこで待ってて、私がそっちに行く」と言ってよちよち車椅子でこっちにやってくるんです。私が向かったほうが早いと言うのに。
先日もコービンが「ユーと私は親子、私パパ!結婚したかったけど年が離れすぎている!私はユーに惚れちゃった。でも親子!パパやからね!」親子どころか孫レベルだと言うのに。
そんな突っ込みどころのあるコービンが3日後退院してしまう。
病院内では私のストーカーとして定評だったコービンだがスケベジジィとかではなく、愛がある手の握り方だったり、私の声が小さくて聞き取れてなくてもニコニコ返事してくれたりとか私と2、3日病院内で会えなかったら元気がなくなったりとか時計(ロレックス)をあげるとか言い出したりするところが、いとおしくて仕方ありませんでした。
病院内で「ヘイ、ユー!」と言う叫び声もあと3日と考えたらちょっと切ないです。
これは軽い軽い恋心なのかもしれません。
もう入院と言う形では会いたくないので、コロナで面会もできないし電話番号でも渡してみようかな?と思っています。看護師さん達に止められそうだけど。
別にコービンとなら結婚してもいいかもしれないって思う今日この頃でした。