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昔は良かった理論

過去は美化されるとよく言う。
「懐かしい」という言葉にはどこか「愛おしい」という情緒が含まれる。

あの頃に戻りたい、だけど戻れない。
もう二度と手に入らないあの時間。

プール帰りのサイダーと焼きそば。
友達と「また明日」と言って別れる5時の鐘の音。
家族みんなでこたつに潜って紅白を見る大晦日。

過ごした時間はどんどん過去になる。
1分1秒ごとにどんどん遠くなる。
やがて「今」から隔てられ、遠い遠い「過去」になる。
時間に境界線ができるのだ。
境界とは、あちらとこちらを隔てるもの。

過去はもう記憶の中にしか無い。
色も形もぼんやりと、抽象化された表象の中にしか無い。
美しい綺麗なところだけが残って、ネオンがぼやけてきらきら輝くように、過去もまた、ぼやけてきらきら輝くのだ。
遠すぎて、ぼんやりとして、頭の中にしか存在しない、実体のないもの。
抽象画のように、曖昧で綺麗な表象だけが、ゆらゆら、ゆらゆら、混じり合って、私の心を刺激する。
絶対に手に入らない。二度と手に入らない。
それは夜空の星と同じ。
遠くにあって決して手に入らないからきらきら輝いて見える。
だから過去は美しいのだ。


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