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フランス留学における登録エトセトラ

 上の写真は、フランス国立国会図書館の横でダンスの練習をしている人々の写真です。
 今回は、知っていると選択肢が広がるな、と思ったフランスの大学の制度の中の編入の制度について紹介したいと思います。留学と言えば英語圏への留学が主流で、フランスへの留学はやはりマイノリティだと思いますが、様々な国の教育制度を知ることで可能性が広がるのではないか、と思います。
 フランスの高等教育機関には、バカロレア(中等教育修了と高等教育入学資格を併せて認定する国家資格)取得者が入学できる大学と、バカロレア取得後、プレパと呼ばれるグランゼコール準備級を経て入学試験を受けて入学するグランゼコールがあります。ここでは、グランゼコールではなく、バカロレア取得で入学可能な大学に関する登録の話に限定します。

「登録(Inscription)」とは?

 フランスの大学に留学する方法は、交換留学の場合は大学の選考を経て、提携先の大学に留学することになります。交換留学ではなく個人で留学する場合は、留学を希望する学科に期限内に応募書類を送ります。以前は郵送でしたが、現在はネット申請がほとんどです。結果は、メールで送られてきます。大学への入学許可が下りると入学許可証が送られて、漸く大学への登録が可能となります。まずはInscription administrativeと言われている大学への登録を行い、次に Inscription pédagogiqueという履修科目登録を行います。
 大学への登録期間は、大抵、7月から9月までになっています。大学によっては10月に入っても登録できるところもありますし、学科主任の許可があれば登録期限を過ぎていても登録できたりします。今はネットでも大学への登録ができるようになったので不可能かもしれませんが、大学の窓口でしか登録手続きができなかった時代には、登録期間を随分過ぎてから留学生が正規課程の留学生としてやってくる、ということもありました。どの大学もネットでの登録と窓口での登録、両方が可能になっているので、今でもこういったフレキシブルな対応もされているのかな、とは思いますが。
 このInscription administrativeは、2年目以降は再登録 (réinscription)を毎年する必要があります。この再登録は、近年ではネットでできるようになりましたが、以前は窓口に並んで再登録の手続きをしなければなりませんでしたし、今も窓口での登録の方がすぐに学生証が作れるのでこちらが主流かもしれません。日本の場合は、毎年履修登録はしますが、一回入学すると、卒業まで自動的に進学、又は留年になるので、随分と違う印象を持ちました。

「トランスファー(Transfer)」がなぜ可能?

 Inscription Administrativeの手続きで大学を訪れた際、「最初の登録(Première inscription)」、「再登録(réinscription)」の他に「トランスファー(Transfer)」という窓口がありました。「トランスファー」とは、日本語では編入と言う意味になります。どこの窓口もものすごい人が並んでいましたが、「トランスファー」の窓口にも長蛇の列があり、あれ、と思ったのです。
 日本にも大学編入の制度はありますが、日本とフランスの規模は全く違い、フランスではかなり浸透しているように感じました。これには、EU諸国間の学生の移動や交流を促進することを目的に設けられた欧州単位互換制度(European Credit Transfer and Accumulations System, ECTS)というシステムが関係しているようです。ECTSというシステムは、ボローニャ・プロセスというヨーロッパの高等教育機関のシステムを同一水準化しようというプロセスの一環で設けられたポイントシステムです。このシステムは、ポイント(単位)を、学科のプログラムや個人的な学業も含めた学習や学修過程を構成するものに対して付与するものです。独立行政法人大学改革支援・学位授与機構がボローニャ・プロセスに関する文書や宣言をまとめているので、そのページを以下、引用します。ボローニャ宣言は、1999年6月19日に、欧州29カ国の高等教育担当大臣が調印した宣言です。

1999年6月19日にイタリアのボローニャで、欧州29か国の高等教育担当大臣が調印した宣言。2010年までの欧州高等教育圏(European Higher Education Area: EHEA)の確立に向けて、主に以下の課題の達成に努力することで各国の大臣が署名した。なお、「ボローニャ・プロセス」とは、本宣言から始まった欧州における高等教育システムの改革に関する、一連の流れを指す。

ボローニャ宣言の要旨

・理解しやすく比較可能な学位制度を採用すること。また、ディプロマ・サプリメント(学位・資格の学修内容を示した様式)を導入すること。
・学士課程と大学院課程の2段階の学修構造をすべての国に導入すること。・学士は修業年限3年以上の課程を前提とし、欧州の労働市場で適切なレベルの資格とし、大学院課程の学位は、欧州で共通して修士号・博士号とすること。
・学生・教職員の自由な移動を阻む障害を取り除き、流動化(モビリティ)を促進させること。
・欧州レベルの単位互換制度を確立させること。
・質保証における比較可能な基準と方法を開発し、欧州レベルの協力を進めること。
・高等教育(カリキュラム開発、機関間協力、学生・教職員流動化促進のための方策、学習、教育訓練、研究の統合プログラム)における欧州的特徴を確立させ、それを促進させること。

(独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構 「欧州連合 European Union」)
https://www.niad.ac.jp/consolidation/international/info/1272551_3028.html

 ECTSといシステムは、学業のプログラムをヨーロッパのレベルで理解しやすくし、比較可能にするために、また、一国から他国へ、また一国内の1つの機関から他の機関へという移動を可能にするためにできたようです。フランスでも、このシステムは適用され、UVというシステム(le système des unités de valeur)に代わって用いられるようになりました。ECTSシステムでは、1単位が学習時間によって付与されるしくみになっていますが、1セメスター30単位が必要です。そのため、単位を認定することで、ひとつの大学から他の大学機関に編入が可能となるのです。

(European Comission "Education and Training" )

 ただし、このシステムは、単位を自動的に認定するものではありません。単位を認定するか否かは、編入先の受け入れ機関が自律的な方法、または国の規則に従って決定します。そのため、フランスの大学には、トランスファーが可能かどうかを審査する部署が大学によっては設けられています。
 ボローニャ・プロセスは、ヨーロッパ高等教育圏を構想していますが、現在の参加国は48カ国で、EU諸国に限定した取り組みではありません。加盟国にはロシア、ウクライナ、アゼルバイジャン、アルメニア、カザフスタン、グルジア、トルコ等も含まれており、対象となっている学生の数はかなりの数にのぼりそうです。
 では日本から留学する場合、単位認定はどうなるのか、というと、日本で取得した学士号や修士号は、フランスでも通用します。バカロレアに相当する資格は、高校卒業資格になります。ただし、フランスで学士に入学するにはフランス語の語学力を証明する試験に合格している必要があります。単位認定に関しては、各大学の学科の審査を受けなければなりません。
 ところで、日本も欧州の事例を参考にして、UCTSという単位互換の制度を設けているようです。一般社団法人 国立大学協会によると、この制度はアジア太平洋諸国間の学生交流をスムーズにするために設けられました。

The UMAP単位互換方式(UCTS: UMAP Credit Transfer Scheme)(以下「UCTS」という。)とは、欧州諸国の学生交流事業(ERASMUS: European Region Action Scheme for the Mobility of University Students)における欧州単位互換制度(ECTS: European Credit Transfer System)をモデルにしたもので、1999年(平成11年)よりUMAP事業の下、アジア太平洋諸国間の学生交流を促進するために奨励してきた単位互換のための換算方式です。しかし、欧州型の換算方法は、アジアの単位数を欧州のシステムに変換し、またアジアの単位制度に戻すというプロセスを踏むため、手続きを複雑にしていたので、2013年5月に開催されたUMAP国際理事会により、新たな概念が導入されることとなりました。これにより多くのUMAP参加国並びに参加大学間では、1単位は1単位で単位互換できるようになりました。

一般社団法人 国立大学協会 「UCTS(UMAP単位互換方式)の普及」
https://www.janu.jp/international/umap-ucts.html 

 一単位の学修量及び授業時間が、ECTSとUCTSとでは少し違っているようです。単位互換制度は、留学時の取得単位が帰国後も生かされるので、留学への意欲を高めるいいシステムだと思います。ですが、国の教育制度には歴史的社会的な背景から独自のものもあり、また授業スタイルも評価の方法も違うため、各国の教育のシステムを比較可能にするために均一化する、というのはかなり無理があるような印象も持ちました。たとえばフランスでは、以前はDEAと呼ばれる博士準備課程がありましたが、突如としてDEAがなくなり、代わりにマスター2というディプロムになりました。ボローニャ・プロセスでフランス独自の教育システムからヨーロッパ共通のシステムに移行したため、このようになくなったディプロムもあります。ヨーロッパ高等教育圏実現のために国は独自の制度を修正し、欧州レベルで統一させていったのですが、それぞれの国に流れていたリズムもこれにより随分変わってしまったのではと思います。フランスの「トランスファー」制度は、もともとあったUVがECTSシステムになったことで、国内だけでなく海外への移動のハードルを下げ、進路選択をより多様にしているのかどうなのか、そこまでは分かりませんが、学生の選択肢を広げる役目を担っているように思います。
 

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