ガンパウダー・ミルクシェイク/観てみて_10
◎ミシェル・ヨーさんが激しくカッコ良し!
『ガンパウダー・ミルクシェイク』
一日のスタートにこれを観て、その後人の話を聞く機会で起こったガチャ。目前にいる前列の人が、話している人の言葉にボブルヘッドの様に頷き続けてらっしゃった。文字にしたとしたら句読点の付く位置の全てに。なんならその狭間狭間にも。楽しかったんだろうと思う、背中まで揺れていた。でも私は酔った。私の視界の半分はその人の上半身が占めていて、彼方の話者でなくその人の揺れがぐんと手前にあった。そして多分照明の極端な明暗差が引き金となって、間もなく眉間の痛みと嘔気がやってきた。うなづきマーチが脳内を巡った。
ライブ映画の客席でも稀にこういう場面に遭遇してしまう。音楽とはそういう力を持つものだから当然なのだけれども。ここでも明暗差。そして私は酔わされる。自分の三半規管に途方に暮れる。だとしても、公開されたら観に行く予定の『スパークス・ブラザーズ』、そこでまたこの人の後列に座る奇跡的な緊急事態が発生したらどうしようか、もうビニール袋は常時必携か、とか、うなづきトリオの竜介さん以外のお二人は誰だったっけとか、様々なことを考えて気をまぎらわせようとしたけれど、もはや逆光の中のボブリングが止むことは無く作戦は失敗に終わった。その後知人と会ったとき、お食事処がもれなく閉店していて実はホッとした。食べられそうになかった。閉めたくて閉めておられる訳ではないのを承知の上で勝手なことをいうと、終了間際のまん防にこの時ばかりは感謝した。
◎振り返り(内容に触れています)
この作品、血沸き肉踊るどころか、血吹き出し肉潰されます。斧は繰り返し振り下ろされナイフはシャキンシャキンと鳴きガンパウダーも勿論舞い散りまくりです。強い女性達が強面の男性達をぶっ殺しまくるのです。気を抜くとぶっ殺されるのでお互いさまです。ですが完全に絵空事として描かれるのでチキンハートでも鑑賞は可能でした。観終えて先ず気付いたのが疲労感。冒頭のチラシ裏の件もこれが誘因となったなと思いました。
とはいえこの疲労感、ネガティブな意味でなくむしろ称賛です。鑑賞中とてつもなく集中して観ている自分に気付いて驚き、ふと館内を見回してみたところ、皆さん気持ちが前のめりなのがありありと。このテンションで114分だったのですから。私に限っていえば、結果として老体に鞭打ってしまったのだと思います。(恥)
作品のコピーは「新時代をブチ抜く、シスター・ハードボイルド・アクション!」主人公の女性は会社(ファーム)に属する闇の後始末人。貰い事故的なもので組織から追われる事になり、母親と母親の元同僚女性3名、、、みんな殺し屋ですが、そして成り行きから助けた8歳9か月の少女、この5名と共に闘う物語です。
設定についてはさして説明されません。かといってあれこれ問うのも無用に思います。出てくる男性たちは上意下達の世界に従属し割と十把一絡げ。時に愚かでコミカルに描かれますが、彼らの個々を意識させる紹介もほぼありません。そんな中でファームの敵対組織トップの怖い人が、女の子はピンク色が好きで、幼い少女でさえ考えていることが複雑で理解し得ない存在だというような事を口にするシーンがあります。こういった、他者への想像力に乏しいメンズをレディースがとっちめる(最後は震え上がらせる一言を放つ)物語だとも言えるかもしれません。なのでこの作品にポリコレ要素を求めるならばそれも不可能ではないのかも知れません。ミシェル・ヨーとカーラ・グギーノは特別な関わりがあるようではありました。
しかし、となるとここまで一方的に男性を簡略化してニヤニヤするのは、これまたポリコレ的にはどうなんだと思いもして、私自身は、本来それをこそ意図されたであろう、戦いに勝とうとしている人たちが突飛な方法で勝利に到るという、娯楽に特化した話の運びをただただ楽しんだのでした。主人公達の圧倒的な強さとその爽快感を。中でも、ミシェル・ヨーの鎖を用いた攻撃が素晴らしく、だったらやってくれないかなー?と思っていたら、有り難くも仕事人の中条きよし氏さながらな技を披露してくれたので、それにはテンションが爆上がりしました。なのにあれやこれやをオマージュとして取り入れたというナヴォット・パプシャド監督は彼についてはご存じないそう。インタビューではメアリー・ポピンズを意識したと語っておられ、それはそれで納得。確かに彼女の浮遊っぷりは軽やかで可愛らしささえあって、握る鎖はパラソルの柄のようでした。
主人公を演じたのはカレン・ギラン。非常に上背のある人で、着ていた上衣はスカジャン、、、あちらではスーベニアジャケットと言うそうですが、とても目立つオレンジ色。着丈がとても短くジャストウエストで、一瞬キッズサイズ?と思ったけれど、袖は彼女の長く伸びる腕に手首まで綺麗に沿っていました。下衣は黒のタイトなジャージ。この上下が彼女の存在感を知らしめる最強の戦闘服になっているのがとてもカッコ良かったです。足蹴のシルエットが映えたし、直立して男性と同じ視線の高さだったり、中背の男性に顎を下げずに視線だけ下ろしたりした時の、舐めてます感(舐めんじゃないよ感でなく。)が伝わり過ぎて、衣装さんは素晴らしいお仕事をされたなぁと思いながら観てもいました。図書館職員でもある母親の元同僚3人が並んだ時の、洋服のテイストと配色のバランスもとても良く考えられていて素敵でした。ボーリング場のネオンカラーも美しく、さまざまなディテールに非常にこだわって物語をラッピングしているのが、時代も場所も実はよく分からないこの作品を、更に魅力的にしていたと思います。
背景音楽は歌詞のある(都度日本語訳も字幕に出されます。)ものが多くて、少し懐かしい雰囲気の音で、なるほどちょっとタランティーノみもあるなと思ったし、今から何かが始まりますっていうときに流れるデンデンデン(語彙が。。。)っていう煽りの音楽も良くて、久しぶりにサントラを買おうかなと思った次第です。楽しんで観ることが出来る作品でした。