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【タスマニア劇場④】

【タスマニア劇場】マガジン

 辿り着いたファームにはファームステイ用の宿泊施設があり、それは日本人用施設その他用とに分かれていた。
 元々は別に分けようと思っていたわけではないが、綺麗好きで真面目で酔っ払って暴れたりもしない日本人を新しく建てた方の施設に割り振りしていたら自然といつのまにかそうなったらしい。
 当然、自分はその他用の施設に割り振られた。いや、なんでよって話なんだけど。まぁでも受け入れたよね、なんかそれこそ自然とそういう流れだったから。
 その他用の施設の部屋はお世辞にも綺麗ではなかったし、窓のサッシには大量の干からびた虫の死体が転がっていた。それを見てそのまま掃除しないで放っておくあたり、自分がそっちに割り振られた理由だろう。
 水道から出る水は茶色くて、とても飲めたもんじゃなかったけど、コップについでしばらく置いておくと、茶色が沈殿して上の方は透明な水になるから、透明な部分だけ飲めば良っかてね、だからそうだね、その他用施設に割り振られたのは必然であり当然だ。

 りんごの収穫にはまだ早いってことでしばらくはイチゴのピッキングに連れて行かれたんだけど、出発は朝の3:30頃だったと思う。なんでそんな早朝というか深夜からイチゴ摘まなきゃなんないんだよと不満はあったが、おい起きろと起こされて、早よ乗れとハイエースに押し込まれ、さぁ下りろと畑の前で下ろされて、文句を言う余地もない。

 環境的には清々しかったけど、イチゴはしゃがみ込んで収穫しなくてはならなかったからかなりキツかった。しゃがんだまま移動するから腰や膝がキツいのなんの。
 お腹が減ったらイチゴを食べてなんとか空腹を紛らわせるんだけど、お腹が減りすぎてたのとイチゴが好物なのもあって、1レーン分のイチゴをほとんど食べちゃった時には、収穫したイチゴを詰め込んだトレイの分が収入になるから、トレイはほぼ空のままで、なんのために小一時間イチゴを摘んでたんだろうって憂鬱になったりもした。

 ピッキングは儲かるってワーホリ仲間たちから聞いていたけど、同時にモノによってはキツいだけで大して稼げないから注意しろって言われていたから、イチゴに関しては間違いなくハズレの方だったということには早々に気がついた。

 マァムの車で山を下りないとスーパーもないし、ファームの付近にはちょっとしたくたびれたカフェが1〜2軒あるだけで、もちろんコンビニなんかもあるわけないから、世界と隔離されたような生活で、どうだったかと聞かれたなら、それでも素晴らしかったと答えたくなるのが不思議なところ。
 イチゴのピッキングを終えてカフェで飲むカフェラテは本当に最高だったし、タスマニアのブリオッシュはこれまた最高だった。

 だけどここはリンゴの島タスマニア……ということでいよいよリンゴの収穫がスタートする、リンゴのシーズンがやってくる。
 因みにその他用の施設にはドイツ人だったりイギリス人だったりがたぶん10人ぐらいいて、日本人用の施設には日本人がこれまた10人以上はいたと思う。
 たまにみんなでBBQしたり、イチゴジャムを作ったり、それぞれホント自由に生活してたけど、日本人と外国人との交流はあまりなかった。
 自分はその他用の施設にいたから外国人たちとも交流したり、日本人用の施設に行ってみんなで夕飯を食べたり好き勝手な感じで、でも日本人用の施設の方がキレイで居心地が良かったからもっぱらそっちで寛いでる時間の方が長かったかな。
 シャワールームとかその他用の施設はひどい環境だったから、基本シャワーは日本人用の方で浴びてたし。

 そうそう、ある雨の日の朝、ドイツ人の女の子が下着姿で部屋のドアを開けて入ってきて、「今日は雨だからオフよ!」って満面の笑みで言って去ってったのを鮮明に憶えている。ドイツ人の女の子ってそういうのホント気にしないんだよね。
 全く書く必要のない出来事なんだけど、忘れられない思い出の1つなので一応書いてみた。もちろん良い思い出だ。

 いよいよリンゴの収穫がスタートするぞ。

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