空想で手を繋ぐ
『ねえ、カナ。今日の夜、お願いしたいことがあるんだ』
『ん?なに?』
『えーとね。寝る前に私と手を繋いでほしいの』
ここは学校帰りにふたりで寄る馴染みの喫茶店。ミホはいつも、私にいろんな発見を教えてくれるの。世界の不思議、映画や恋愛、そして心のこと。
『ふーん。どうやるの?』
で、ミホと私は友達だけどまだお互いの家に泊まったことはなかったし、家も違うので寝る時に手を繋ぐってどういうことかなって思ったけど、私はなんで?とは聞かない。だって、前置きなんていらないこの会話が大好きだから。わかっているから。
『あ。お泊まりじゃないよ。寝る前に、空想で私を思い浮かべて手を繋いでほしいの』
『へー。いいよ。で、これはどんな実験なの?』
『えーとね。これは、心で想えば離れていても、人は人の温もりを感じることができるのか実験です。ジャジャン』
ミホはとっても嬉しそうに話すから、私まで嬉しい気持ちになるのよね。
『わぁー。おもしろそうだね。時間は何時にするの?』
『あ。時間はね、決めなくていいんだ』
『え?同じ時間じゃなくていいの?』
『うん。だって、心は時間だって飛び越えるから』
『へー。うまくいくといいね』
『あー。カナ、疑ってるなー』
『そんなこと、ないない。いや、やっぱり、ちょっぴりあるかな』
『だよねー。私ね、小学生のときに一度だけカズくんと試したことあるんだ。そのときは、うまくいったと思うんだけど、もう一度やってみたかったの』
カズくんは、小学6年生のときに転校した、ミホの初恋だった男の子の名前だ。
『わぁー。そうなんだ。これ、恋人同士でやると絶対うまくいきそうだね』
『恋人じゃなくても、カナと私なら、きっとうまくいくよ。イメージを強く持つことが大切なんだ。手と心にきっとあたたかいものを感じられるよ』
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