ある雨の日に子猫を拾った話
桜もすっかり散ってしまった、春も終わりのある夜、猫を拾った。
その日は雨で、寒の戻りで肌寒い日で、私は夫の帰りを待ちながら夕飯のカレーを煮込んでいるところだった。ふと夫から着信があり、今から帰るよコールかなと思ったら、
「子猫がいる!」
と。子猫がびしょ濡れで鳴いてる! と。だから何か(子猫を入れるものを)持ってきて! と。保護したい! と。
確かに幼い猫がけたたましく鳴いているのがスマホの向こうから聞こえる。
夫は人懐っこい野良猫を見付けるといつも電話をしてくる。でも、うちにはすでに先住猫が居て(先住猫は私が保護した)、さらには先住猫よりも先住のうさぎがいる。
これ以上増やしたら、動物園になってまう……。
私も毎回見に行ってしまうのだけど、連れて帰ったことはない。
先住猫が使っているキャリー、バスタオルを持ってサンダルをつっかけて外に出た。雨足はかなり弱まっていたので傘はささなかった。
近所に小さな工場のようなところがあり、夫はそこにいた。
「猫は?」
「この下にいる」
姿は見えないが、にゃあ! でも、みゃあ! でもない子猫特有の鳴き声がしている。積み重ねられた廃材の中に猫がいるそうだ。
木箱の上に重ねてあったプラ製パレットを夫が持ち上げると、想像していた10倍は小さな子猫が二匹、折り重なるようにそこにいた。私はかなりびっくりしながら、しかし夫に「早く!」と急かされ、えいっと手を伸ばして小さな小さな体を掴んだ。ずぶ濡れの体をタオルで包む。
連れて帰らないという選択肢はなかった。ここでこの子たちに出会ったのも運命だと思った。うちは猫もうさぎもいろいろと縁があって迎え入れることになったので、これもそういうものなんだと思った。
その運命、迷惑です。ってナレーションが一部から聞こえてきそうだが。
なにはともあれまずは病院へ連れて行かねば。
普段先住猫がお世話になっている病院はちょうど夕診が終わる時間で電話が繋がらなかったので、そこと同じ名前の別の病院へ行くことになった。少し遠い。
「月齢というか、まだ生まれて数日といったところですね……」
イケメンの先生が優しく言う。
びしょ濡れのドブネズミみたいだったので「まず乾かしましょう」と言われ、奥に連れて行かれた二匹は数分後ふわふわになって戻ってきた。
「この子は……男の子……恐らく男の子……」
タマタマらしきものが見えて、私と夫は頷き合った。
「この子は……女の子かな」
「おおお……」
謎の感動に包まれる我々夫婦。
よく見てみると一匹はへその緒がついたままだ。
「へその緒はそのうち自然に取れます」
そうなんだ。
「一匹はしっぽが……折れてますね」
「ええ!?」
夫が悲鳴を上げる。
「産道を通るときにまぁ……あることです。いわゆる鍵しっぽってやつですね……」
BUMP OF CHICKENの『K』が頭の中に流れた。
「まだ月齢が……月齢というか、日齢というか、生まれて間もないので今できることはとにかくこまめにミルクをあげて、温かくしてあげてください」
先生はとにかくイケメンで優しく優しく話してくれた。
「とにかくまずは今日を生き抜くことです。せっかく保護していただいたけど、場合によっては今日、明日で……ということもありますので……」
たくさんの資料や授乳に使うシリンジなどをもらい、病院を後にした。粉ミルクは病院では売ってないそうなのでホームセンターで買って帰ることにした。
帰りの車の中で、夫は私に「お前あの先生好きだろ」と言った。
帰宅後、最初のミッションは先住猫にバレないように子猫たちを隔離することだったが、先住猫は都合よく寝ていたのでさっさと子猫たちの入ったキャリーを洗面所に隠した。
なぜ洗面所かというと、先住猫が自力で侵入できない且つ先住猫の生活に支障がない場所がとりあえず他になかったからだ。
早速お湯を沸かして買ってきた粉ミルクを作る。必要量の少なさに驚く。10ミリリットルっていくらだっけ。
とりあえずスポイトであげてみる。
あげにくかったので次の授乳からシリンジを使った。シリンジも1ミリリットル×10回戦したらあまりにも大変だったので、その次からは3ミリリットル×3回戦にし、さらに翌々日に哺乳器を買いに再びホームセンターへ行った。
ミルクが必要な子猫を保護された方は、私たちのように「とりあえずシリンジを使ってみて、必要性を感じたらそのときに買おう」と思わず、粉ミルクと一緒に哺乳器を購入されることをオススメします。
ところで、私が初めての授乳に悪戦苦闘している間に夫は我先にとカレーを平らげていた。驚愕である。
私もカレーを食べながら、二人でYouTubeで猫の授乳について勉強した。このご時世だからネットやYouTubeに色々載ってるからって先生も言ってたよ。
一応夫の名誉のために書いておきますが、彼はその後授乳はもちろん、先住猫とうさぎのお世話、皿洗いに風呂洗いと大いに働いてくれた。
子猫たちは小さいながらしっかり猫然として眠りについていた。
なんと可愛いことでしょう。
かくして子猫と子猫と猫とうさぎと私と夫の四匹二人暮らしが始まりました。
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