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「FREETEL」が日本の携帯業界に遺したもの
佐々木希が最近話題になっているのでそれに関連する内容を。
(あまり関係ないかもしれませんが...)
FREETEL、ひと昔に急拡大し、そして急速に消え去ったブランドです。
今はもうなくなったFREETELですが、実は今日の「格安スマホ」を築いた礎となりゆく存在なのです。
そんなFREETELがいまのスマホ業界、携帯業界に遺したものは大きく分けて以下の2つ。
①スマホにローエンド、ミッドレンジの概念を築いた
②段階制プランを導入した
③カウントフリーを導入した
④格安スマホと端末のセットという新しい売り方を行なった
⑤ネット直販という新しいビジネスモデルを確立したこと
このことをを書いていきたいと思います。
フリーテルのはじまり
FREETELは2012年にレノボジャパンやデルコンピューターの日本法人で働いていた増田薫氏がマンションの一室で、社員数わずか2人で立ち上げた会社プラスワンマーケティングが元になっています。
そんなFREETELですが、当初はスマートフォンの企画・販売を主な事業内容としていました。そして、実際に初となるスマートフォン「freetel」を発売したのが2013年のことです。
当時のスマホとフリーテルの違い
iPhoneが5万円以上、AndroidでもXperiaなど高級機種が中心のラインナップとなっていた日本のスマホ市場において、「freetel」の1万円代前半という価格設定は驚きをもたらしました。しかし、高級なiPhoneやXperiaなどと機能面で全く同じというわけではなく、電話・メール・LINE・マップ程度が使えれば大丈夫という非常に割り切ったモデルでした。(①)
しかし、ネット中心の販売・当時格安SIMがまだ今ほど普及していなかったこともあり爆発的大ヒットとまではいきませんでした。
しかし、日本で企画・設計を行い、製造は中国のメーカーに委託するものの、品質管理のために自社社員を工場で監督させたり、フリーテル専用の製造ラインをつくるなどし、「日本品質」を確立したため、iPhoneのように割高もしくは、中国直輸入スマホのように低品質だったSIMフリースマホ市場で人気を博します。
SIMフリースマホとは
ここで、FREETEL(以下、フリーテル)が販売していた「SIMフリースマホ」について解説します。SIMフリースマホとは、従来特定の通信会社でのみ使えるように制限されていた(SIMロックといいます)スマートフォンを、どこの通信会社でも使えるようにしたものです。
つまり、SIMフリーのスマホを買えば、ドコモでもauでもソフトバンクでもUQモバイルでもワイモバイルでもマイネオでも使えるわけですね。
フリーテルの急拡大
そんなフリーテルですが、急拡大を遂げました。これにはいくつか理由があります。
まず1つめは「格安スマホ」なる新しい通信会社(MVNOといいます、LINEモバイルやmineo、IIJmioなどのこと)への参入障壁が低くなったこと。どの通信会社でも使えるSIMフリースマートフォンとMVNOの相性は非常によく、フリーテルの1 万円ちょっとのスマホを初期投資するだけで、月々1000円程度の非常に安価な月額料金でスマートフォンが持てるようになったことが追い風となりました。
次に、ヨドバシカメラとの提携です。ヨドバシカメラはFREETELが株式を22.3%所有し、自社の店舗でフリーテルの製品を入り口入ってすぐの一等地に設置するなど、マーケティング面・資金面でフリーテルを支援しました。このおかげで、ヨドバシカメラにおけるSIMフリースマホのシェアは日本一となります。
さらに、「携帯電話料金が高い」という意見が政府の中で出てきたことで、フリーテルをはじめとする安価にスマートフォンや通信サービスを提供する会社への支援が強まったことも理由としてあげられます。事実、官民ファンドである海外通信・放送・郵便事業支援機構(JICT)から出資を受けるなど、政府からの支援も手厚いものとなりました。
格安スマホの垂直統合へ
スマホ本体の販売だけにとどまらず、フリーテルは通信会社としても活躍することとなります。
2014年にはfreetel mobile(フリモバ)として既存の格安スマホ業者のサービスを再販する形で通信会社のサービスをスタートします。
2015年にはドコモより直接回線を借り上げ、FREETEL SIMとしてサービス提供を開始します。
このときに打ち出したのが、月額299円〜スマホが使えるといういわゆる「段階制プラン」なのです。
このプラン、OOGBとあらかじめ定められた通信量で契約するのではなく、実際に使った通信量に応じて月額料金が決まるというプランです。(②)
今となっては当たり前のプランですが、当時は革新的なプランでした。
さらに、App Storeや当時爆発的人気を誇ったPokemon Goの通信量を使用料に含めない「カウントフリー」を打ち出したのもこのFREETEL SIMでした。これにより、FREETEL SIMは国内格安スマホで第5位にまで浮上します。(③)
また、自社でスマホ端末も販売していることから、スマホの販売で利益を出さなくても通信サービスで儲けることができれば会社としては利益を出すことができます。この強みを生かして、従来の格安スマホでは少なかった「通信とスマホ端末のセット販売」を行います。(④)このことにより、スマホの端末と通信のサービスを別々に契約しなくてはならないという、一般人にとっての高いハードルを下げる役割を果たしました。
そしてこのFREETEL SIMの宣伝役となったのが佐々木希(と高田純次)です。この2人、FREETELのCMに出演する前は、実はウィルコム(PHS=安い)のCMキャラクターとしても出演しました。安い携帯電話というイメージを最大限生かすという意味では非常に理にかなったキャスティングだと思います。
フリーテルの陥落
順調にみえたフリーテルですが、そんなに事が上手く運ぶはずもありません。
広告宣伝費に大きな資金を投下したこと、ほかのMVNOの豊富な資金による追随が激しかった事、端末のセット割を始めたこと(分割払いと同じで、売る側にとっては代金の回収が遅れます)が大きな原因となり、慢性的な赤字に悩まされます。
さらに、海外展開や実店舗(200店舗出店予定だったそうです...)といった拡大路線が上手くいかず、国内でも消費者庁から指導を受けるなどイメージダウンとなりました。
その結果、2017年秋にはFREETEL SIMの事業をわずか3億円で楽天に売却することとなります。垂直統合モデルの崩壊が予想できる中でここまでのはした金で売却することには私も驚きました。
それからまもなく、2017年年末に、フリーテルを運営するプラスワンマーケティングは民事再生法を申請し、事実上の倒産となりました。
現在では、フリーテルのブランドだけが売却され、MAYA SYSTEMSという企業でフリーテルブランドのスマートフォンが販売されています。
ちなみに、創業者かつ筆頭株主の増田薫氏は、個人でも自己破産をせざるを得ない状況となりましたが、TAKUMI JAPANという新たな企業を立ち上げ、KAZUNA eTalkという自動翻訳機や海外向けのガラケーなどの生産・販売を行なっています。
フリーテルが日本の携帯電話業界に遺したもの
先に挙げたように、フリーテルは日本の携帯業界に
①スマホにローエンド、ミッドレンジの概念を築いた
②段階制プランを導入した
③カウントフリーを導入した
④格安スマホと端末のセットという新しい売り方を行なった
⑤ネット直販という新しいビジネスモデルを確立したこと
といったことを残しました。
①スマホにローエンド、ミッドレンジの概念を築いた
フリーテルの誕生前は、スマートフォンといえばiPhoneに代表される高級モデルばかりを日本の携帯電話会社では取り扱っていました。
しかし、フリーテルが目指した「機能を割り切って安く」というビジネスモデルが上手くいくことが判明してからは、携帯電話会社も比較的低価格なスマホを取り扱うようになりました。
iPhoneという高額・高機能の機種を売りにするAppleでさえ、iPhone SEという廉価版モデルを扱うまでになりました。
さらに、2019年より始まった携帯電話の値引き規制や、ローエンドスマホの性能向上によりさらに存在感を増しています。
事実、ドコモやauのGalaxy A20、ソフトバンクのPixel 3a、各社のAquos senseシリーズ・HUAWEI P30 liteなど低価格でもそれなりに使えるスマートフォンがキャリアからも発売されています。
②段階制プランを導入した
auのピタットプランや、ドコモのギガライト、ソフトバンクのミニフィットプラン(ミニモンスター)など、使った分に応じて使用料が課金されるプランは今の携帯電話キャリアの基本的なプランとなっています。
しかし、このプランの礎を築いたのはいうまでもなくフリーテルです。
「データ使用量に見合ったプランを契約させろ」という国の指示も大きいですが、それ以上に、段階制プランでも利益を出せるという点を体現したフリーテルの功績は大きいでしょう。
③カウントフリーを導入した
auのフラット7やソフトバンクのメリハリプラン(ギガモンスタープラス)、LINEモバイルなど、特定のサービスの通信量を利用料金に反映しないプランも最近のスタンダードとなってきています。
これも日本ではじめて本格的に導入したのはフリーテルであり、それで得たシェアというものが活かされています。
④格安スマホと端末のセットという新しい売り方を行なった
従来、格安スマホといえば、端末と通信を別々に用意し、自己責任で通信会社に「持ち込む」という形がほとんどでした。
しかし、慣行として日本の携帯電話は端末を通信をセットにして販売するということを何十年も行なってきました。
だからこそ、この新しい買い方に拒否反応を覚える方も多かったのだと思います。
そこでフリーテルが行なった格安スマホと端末のセット販売(分割販売)は消費者の不安を払拭する意味で非常に理にかなった施策となりました。
楽天モバイルやLINEモバイル、IIJ、マイネオなど大手の格安スマホ会社ではおしなべて端末のセット販売を行なっています。
⑤ネット直販という新しいビジネスモデルを確立したこと
従来、携帯電話は携帯ショップで対面で購入するのが一般的でした。もちろんオンラインショップというものもありましたが、各社あまり力を入れていないようでした。
しかし、フリーテルでは初期にネット販売のみという限られた販路での販売でしたが、満足いく台数、今後の成長につながる台数を販売できました。
これはネットで携帯電話を販売するということへの障壁が下がったことを意味します。
そこで、ドコモ・au・ソフトバンクともに(特にiPhoneの)ネット予約やオンライン販売を注力するようになりました。
さらに、2020年のCOVID-19による対面販売の懸念から、各社オンラインショップへの誘導、手数料の無料化などを行い、オンラインでの携帯販売は非常に重要なものとなっています。
携帯電話ショップが減少する中で、オンラインショップへのシフトは今後も続くのではないでしょうか?
まとめ
以上、経営には失敗したフリーテルが日本の携帯電話業界に残したものでした。
こう考えると、そこまで大きなシェアを獲得できなかった格安スマホ会社でも、その会社が遺したシステムは残り続けるのだな、と思いました。
三流の人間は多数派と同じことを考えているときに幸せを感じる。二流の人間は少数派と同じことを考えているときに幸せを感じる。一流の人間は考えているときに幸せを感じる
というA・A・ミルンの名言があります。
黎明期にあった格安スマホの世界で「考え続けた」企業がフリーテルという企業ではないのでしょうか?
確実に多数派ではない格安スマホという市場、少数派の人間にも物議を醸す割り切った端末、それでも一定の人に支持され、勢力を伸ばした存在。
その思いは、今日の格安スマホが三大携帯電話会社の脅威となっていることにつながると私は考えます。
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