キャビネットシミュレーター・IRと仲良くなりたい!【DTM】
はじめに
宅録でギターの録音をもっといい音でしたい。宅録勢ギタリストなら誰もが思うことだと思います。そして、ご多分に漏れずわたしも青い鳥を追い求める一人です。
プラグインを駆使してギターの宅録をするケースを考えるとき、宅録ギターサウンドを構成するのはざっくり挙げると下記のようになるかなーと思います。(抜け漏れあるかもしれませんが、勢いで書いておりますのでご愛嬌ということで……)
ギター本体
シールドケーブル
オーディオインターフェース
電源
アンプシミュレーター
キャビネットシミュレーター
EQなどの最終調整的な処理
この中の1~4はフィジカルな世界の話で、5~7はデジタルな世界の話です。このそれぞれが掘り下げていくと非常にディープで私の理解など到底及ばない暗く深い深淵が広がっているわけですが、いつまでも理解が浅いままで放置していてはレベルアップしないので、記事を書くことで調査・勉強してすこしでも解像度を上げよう!というのがこの記事の趣旨です。
この記事では6番のキャビネットシミュレーターに焦点を当てて、「んーよくわかんないなーとりあえずこれでいいか」からのレベルアップを目指します。つまり、キャビネットシミュレーター・IRともっと仲良くなりたい!ということです。
自分用の趣の強い記事にはなってしまいますが、お付き合いいただけると嬉しいです。それでは、しゅっぱーつ!
※ヘッダー画像はみんなのフォトギャラリーよりお借りしました。素敵な写真をありがとうございます!
DTMにおけるキャビネットシミュレーターの整理
キャビネットシミュレーターにはハードウェアのものと、ソフトウェアのものがあります。今回のトピックでは、DAW上で使うソフトウェアプラグインに着目したいと思っています。
キャビネットシミュレーターの機能は実はアンプシミュレーターのほぼ全てに搭載されています。わたしが触れたことのあるメーカーで言えば、OverloudさんのTH3、Native InstrumentsさんのGuitarRig、Neural DSPさんの各種プラグイン、MercuriallさんのAmpbox、SoftubeさんのAmpRoom、Nembrini Audioさんやbrainworxさんのプラグインがありますが、これらには全て搭載されていました。
そこで、理解をもう少し深めるために「キャビネットシミュレーター」を以下のような構成要素に解きほぐしてみたいと思います。
キャビネット&マイキングエミュレーター
キャビネットIR
IRローダー
IRミキサー
各々の簡単な内容について、もう少しだけ書いていきます。
1. キャビネット&マイキングエミュレーター
キャビネット&マイキングエミュレーターは、モデリングされたキャビネットの音やマイクの位置などをGUIで操作できるものを指します。呼称は便宜的にわたしがつけました。画像はNeural DSPさんのプラグインのキャビネット編集画面です。
ほぼ全てのアンプシミュレーターに搭載されていると前述したのはこれに該当します。細かく設定ができて詳しい方には非常に便利なんだろうなーと思うのですが、アンプシミュレーターVS実機論争のように、「モデリングはあくまでモデリングであって音のクオリティを上げたければ代替手段がある」という論調が強いように思います。その代替手段というのが次のキャビネットIRの活用です。
ここに強いメーカーとしては、ハードウェアも多く手がけているTwoNotesさんが当てはまるのではないかなと思います。TwoNotesさんがプラグインも出しておられるというのは、今回調べてみて初めて知りました。
追記:Softubeさんがスピーカーメーカーの老舗のCelestionさんとコラボして作った超本気のエミュレーター、Celestion Speaker Shaperというのがあるらしいです。興味深い!あと、ハードだとUniversal AudioさんのOXとかすごく評判いいですよね、プラグイン版とかでないかな。
2. キャビネットIR
キャビネットIRとは、キャビネットのIRです。って書くとメチャクチャな感じがしますので、もうすこし噛み砕きたいと思います。
IRというのはImpulse Responseの頭文字で、バツっという単発の音が収録された、主にwav形式のデータファイルです。バツっというインパルスに対する、録音した環境・機材のレスポンス(音)が記録されたファイルということですね。DYNAXさんのページがわかりやすかったです。
そしてこのIRは、ある音声信号を入力したときにこの環境・機材ならこういうふうに加工されて出力される、という関数だと考えることもできます。このIRを活用してその環境・機材で鳴らしたらこうなる、を再現・シミュレーションできるというのがIRのすごいところです。
ここまでを踏まえて書き直すと、キャビネットIRとは、あるキャビネット・マイクでこのバツっという音を流したIRのことです。ギタリスト的には、アンプシミュレーターの入力を実機のキャビネット・マイクで録音したかのような生々しい音に加工して出力してくれるようなイメージで大きな間違いはないのかなと思います。
ここに強いメーカーとしては、わたしが触ったことがあるのだとRedwirezさん、名前を存じ上げているのがOwnHammerさんとDYNAXさんなどがあります。
追記:IRにはIRの欠点があることをGodspeedさんがご指摘されているようです。なるほど、納得。関数だと書きましたが、関数のパラメータは入力信号があるレベルであることしか想定せずに決められている、ということですね。後述のCABINETRONなんかはここで指摘されているようなスピーカーの非線形な挙動をいじれるツマミがあるらしく、こういうオリジナリティのある機能がIRミキサーをつくる方達の勝負所なのかもしれません。他にも、非線形なスピーカーのダイナミクスを補ってIRの物足りなさを解決することを謳ったBogren digitalさんのIRDX Coreというプラグインも見つけました、興味深い……。
3. IRローダー
IRローダーは、キャビネットIRを読み込むための機能です。実はこちらも多くのアンプシミュレーターに搭載されています。1のエミュレーター部分の中にIRを読み込める場所があることが多いです。画像はNeural DSPさんのマイク機種を選択するプルダウンですが、一番下のCustom IRという項目がIRローダーに該当します。
このセクションは、シンプルに読み込むだけ、というのがポイントです。つまり、一般的なアンプシミュレーターでは、エミュレーターで柔軟に調整をするか、ファイルごとに固定の設定となっているIRのいずれかを読み込むか、という2つの選択肢のどちらかを選ぶことになります。
4. IRミキサー
IRローダーは読んで字の如くロードすることが役割でしたが、IRミキサーは読み込んだIRを組み合わせたり微調整したりと、ミキシングみたいなことができる機能です。呼称は便宜的にわたしがつけました。
アンプをマイクを立てて録音するシチュエーションでは、例えばキャビネットを複数台違うマイクを立てて録音したものをミックスして音作りをする、などの応用的なケースが存在します。IRでも、例えばMarshallの4×12のキャビネットにSM57とR121をミックスしたものがあったりします。出したい音を追求していく過程ではキャビネットやマイクを組み合わせるのは一般的なアプローチみたいです。
一方で、IRを活用するケースでは必ずしも所望のIRが手に入らないケースがあるかもしれません。例えば、SM57で録られたIR1がある、R121で録られたIR2がある、でもSM57+R121で録られたIRはない……、みたいなケースです。
こういうときに活躍するのがIRミキサーです。IRミキサーでは複数のIRを読み込んでそれを任意の割合でミックスする、読み込んだIRのパラメータを微調整するなど、ただのローディングにとどまらない機能が実装されています。どんな機能を持たせるかは各社が競い合っているところなんだと思います。
今回の調査で初めて知ったカテゴリですが、代表的なプラグインとしてはRedwirezさんのmixIR3、STL TonesさんのIgnite Libra、THREE-BODY TECHNOLOGYさんのCABINETRONあたりがこれに該当しそうです。LibraとCABINETRONはUIも興味深いですね、とっても気になります。
キャビネットIRをもうすこし詳しく
概要がわかったところで、もうすこしだけキャビネットIRを具体例を通して掘り下げてみたいと思います。
こちらの画像は、わたしが昔使ったことのあるRedwirezさんのfreeのIRに収録されているIRの中身イメージです。この数字の数だけwavファイルが入っています。
収録されているファイルは、以下の例のような属性で記述されています。
Marshall 1960Aのキャビネットに乗っかった
12インチのCelestion G12Mというスピーカーについて
例えばShure SM57のマイクを使って
スピーカーのコーンポジションに90°でマイクを立てたときの音
ファイルによってはマイクAとマイクBをミックスした音、のようにあらかじめ複数本のマイクを使って収録されたIRもありました。このような、ある特定の組み合わせを収録したファイルがたくさんある中で好みのセッティングを選ぶ(再現する)というのがIR活用のポイントとなります。
一部のアンプシミュレーターの中には、あらかじめメーカー側が収録したIRをつけてくれていてIRローダーやキャビネットエミュレーターの設定画面から選べるようになっているものもあります。実際に使ってみると音が全然違って楽しいです!
なんですが、IRの難しいなーって思うところは、どれを選んでいいか迷ってしまうところだなって思います。実機をお持ちでそれに合わせたいとか、あるバンドが大好きだから同じような機材構成にしたいとか、導きがあれば迷わないと思うのですがわたしのように音作りの真っ最中の人間は、どれを選んでいいかとーっても悩ましいです。
総当たりすればいいのかもしれませんが、組み合わせ数が増えると総当たり自体も非常に手間で、なんとかしてスコープを少数に絞ってから総当たりできないか考えたいところです。
そこで、必要なIRにたどり着くためにキャビネットIRを仕分けてもうすこし絞り込もうと思いつきました。先ほどのRedwirezさんのファイルを鑑みると、キャビネットIRは次のような構成要素の組み合わせとしてある程度定式化できるのかなと思います。
Cabinet IR = Cabinet Character × Speaker Character ×Mic Character × Mic Setting ……(1)
キャビネットメーカー側の都合でキャビネットとスピーカーはセットであり分けて考えられないこともあるので、大胆に単純化してCabinet Character≒Speaker Characterだと考えると (1) の定式化は次のように要素をひとつ減らすことができます。
Cabinet IR = Cabinet Character ×Mic Character × Mic Setting ……(2)
つまり、好きな/必要なCabinet IRを探し当てるために必要となるのは以下の3点だと言えます。
主要なキャビネットのキャラを知る
主要なマイクのキャラを知る
マイクセッティングの原理を知る
しかも、1と2は種類が多く新製品などに合わせて適宜更新を求められるタイプの知識ですが、3は音響に関わる物理的な原理原則だと思うので、一回学んでしまえば問題なさそうです。膨大な数の問い合わせ問題を総当たりしなくて良いのではないかという希望がすこしずつ見えてきました。
と、いうことで、下から3→2→1の順番に「そもそもなんなのさ!」を紐解くそもそも論として攻略していきたいと思います。
そもそも論①:マイクセッティングについて
マイクセッティングについては、調べてみたところマイクの立て方とマイクの位置の組み合わせで整理することができそうです。以下のリンク先がとても参考になりました。
1-1 マイクの立て方について
マイクの立て方については大きく2パターンを理解しておけば良さそうです。
スピーカーに正体させるストレート
スピーカーに対して角度をつけるアングル
アングルをつけると音が斜めに入ってくるためすこしマイルドになる、くらいの理解をしておけば良さそうな感じがします。
1-2 マイクの位置について
マイクの位置は、大きく次の2パターンを理解しておけば良さそうです。
X軸の位置:スピーカーの中心寄りか辺縁寄りか
Z軸の位置:スピーカーに近いか遠いか
ざっくり、X軸はスピーカーの中心に近ければ高域がしっかり出て離れるほど落ち着いていくこと、Z軸はスピーカーに近いほど低音が出て遠ざかるほど落ち着きながら空気感が含まれていく、くらいの理解をしておけば大きく外さなさそうです。
そもそも論②:マイクのキャラについて
マイクのキャラクターについては、理想的には周波数特性表などを見て感じ取れるくらい熟達するのが望ましいのかもしれませんが、そこまでの目利きには一朝一夕ではなれないのでおとなしく代表的なマイクの特徴を学ぶのが良さそうです。
参考になりそうなページが2つありました。
これらを熟読し、適宜シミュレーターやYoutubeなど耳で好みを感じられる手段でじっくり選ぶのが良さそうです。のんびり楽しく学びます……!
そもそも論③:キャビネットのキャラについて
キャビネットのキャラについてもマイクと同様です。こちらもじっくり楽しんで学んでいくしかありません。ワクワクしてきました。
参考になりそうなページを置いておきます。わたしもこれからちゃんと読みます。
おわりに
こんな感じで自分への宿題を出しながら打ち切り漫画のように駆け抜けて終わった記事でしたが、ある程度学びたいことと、それを通してできるギターの音作りへの便益が見えてきたので個人的には充実感のある記事執筆となりました。
ここでまとめたメモや参考リンクがすこしでもどなたかの役にたてば嬉しいです。楽しくいっぱいインプット・アウトプットを重ねて、素敵な音楽ライフにしていきたいですね。また筆を取りたくなったときにお会いしましょう〜!