個人的名盤雑多感想① フジファブリック「TEENAGER」
私とフジファブリックとの出会い
私がフジファブリックというバンドを知ったのは、7年くらい前、高校生のときでした。
軽音部の友達の定期ライブを見に街のライブハウスに行ったとき、前座で出てきた軽音部OBの大学生の先輩が、アコギ1つで「花」(メジャー1stアルバム収録)を弾き語りしていたのを聴いて、美しい曲なのになんか妙に奥歯に引っかかる感じというか、複雑なのに澄み渡っている感じが頭から離れず、それからずっと脳内に「フジファブリック」という単語が居座っていました。
とはいえその後は勉強やらなんやらで忙しく、また当時80年代の音楽にどハマりしていた(追々このあたりの好みについても記事を出します)こともあって、取り立ててフジファブリックを聴いてみることもなく過ごしていたのですが、その数ヶ月後のある日たまたまYouTubeを垂れ流していたときに、あの大名曲「若者のすべて」が流れてきて、
「あ!この曲歌ってるのが、あのフジファブリックなのか!」
と気付いた瞬間に脳内を電流がビリビリと駆け巡って、そこからあれよあれよと曲を聴き込み、バンドの歴史について知り、アルバムを買い、ライブに行き、今に至るというわけです(ウサインボルトも驚きの超速駆け足)。
「若者のすべて」は、バンドの代表曲であり、かつ異端曲だと思う
とまあそんな経緯でフジファブリックと出会っているので、「花」はバンドと自分とを出会わせてくれた曲として、「若者のすべて」はその出会いを末永いものとして繋ぎ合わせてくれた存在として、非常に思い入れのある曲になっています。
中でも、「若者のすべて」は、もはやフジファブリックというバンドよりも有名になっているのではないかというくらい一般的な知名度も高く、フジファブリックというバンドを紹介するときに「若者のすべてのバンド」という紹介の仕方をしているファンの方も多いんじゃないかと思います(そしてその自分が放った言葉に対してなんとなくモヤモヤしているファンの方も多いんじゃないかと思います)。
確かに「若者のすべて」という曲は、21世紀のJ-POP屈指の完璧な曲だと思います。私は音楽のプロでもなんでもないので、具体的に何が凄いとかそういう専門的なことは全然分からないんですが、それでも曲構成やアレンジ、そして歌詞に至るまで、無駄なところが一切ない、日本的な「引き算の美学」による洗練っぷりを感じるわけで、そんな完璧な曲をバンドを代表曲として紹介することも当然っちゃ当然なのです。
しかしながら!
フジファブリックにハマってたくさんの曲を聴き込んでいけばいくほど、この「若者のすべて」という曲からは、バンドの他の曲とは明らかに異なる匂いがするというか、言葉を選ばずに言えば「異端」を感じてしまうんですよ。
だからこそ、フジファブリックというバンドを「若者のすべてバンド」と紹介するのになんとなく歯痒さを覚えるんですよね。
曲の良し悪しではなく、向いているベクトルがあまりにもいつもと違いすぎていて戸惑ってしまうんです(曲の出来が悪いとか、「若者のすべて」が最高傑作だと思ってるヤツはニワカだ!とかそういうことを言いたいわけではなく。本当に)。
「TENNAGER」は、「若者のすべて」が異端であることの最も簡単な証明
そうは言っても、なかなか言葉だけではその感覚を理解してもらうのは難しいと思うんですよ。
そこで出てくるのが、今回の主役なわけです。
「若者のすべて」が実はバンドのバイオグラフィーの中で若干浮いた存在であることを手っ取り早く説明する手段となり得るのが、今回紹介するメジャー3rdアルバム「TEENAGER」だと、私は思っています(つまりここからが本題で、今まではただの壮大な前フリでした、ごめんなさい)。
詳細は各曲紹介でも述べるのですが、とにかくこのアルバムにはフジファブリックというバンドの持つ「ポップな変態性」が如実に表れているという点、そしてその中に「若者のすべて」がポツンと入り込んでいることの奇妙さを身をもって体験することができるという点で、フジファブリックを代表するアルバムとして最も相応しい内容になっていると思っています。
曲紹介
曲紹介とは言いつつも、曲の情報はWikipediaなりアルバムのライナーノーツなりを見る方がよっぽどいいので、感想をひたすら書き連ねていきます。
1. ペダル
一見非常に爽やかな、駆け抜けていく青春の1ページを切り取った曲のように見えつつ、よくよく観察してみると一筋縄ではいかないぞ、という印象がどんどん強くなる一曲。
どんどん楽器が増えて盛り上がっていく曲の展開や雰囲気は王道で爽やかな感じだが、下降して終わるサビのメロディや、オリエンタルな雰囲気を感じるギターリフ、そして最後の
という歌詞なんかを見ていると、ちょっと普通ではないぞ、という印象が全面に出てくる。特に、ギターリフのフレーズからはちょっとインドっぽいというか、ジョージハリスン的なラーガロックの匂いを感じる。
フジファブリックの魅力のひとつに、こういうルーツの多国籍性(単にUKやUSの王道ロックだけを参考文献にしてない感じ)があると思っていて、この曲にもその魅力が全面に出ているんじゃないでしょうか。
2. 記念写真
この曲と次のB.O.I.Pは、Gt.(現・Vo.Gt.)山内総一郎作曲。
このアルバムは、志村期の中でも特にバンドメンバーの個性が色濃く出ているアルバムでもあり、それも名盤たる所以と言えるかもしれない。
この曲はとにかく爽やかで真っ直ぐな曲(歌詞は切ないが)。「ペダル」と「記念写真」までの2曲は比較的爽やかな青春の雰囲気で、アルバムタイトル「TEENAGER」やジャケットの雰囲気にも合っていて違和感は無いのだが、この先から一気にカオスな雰囲気が雪崩れ込んでくる。
3. B.O.I.P
ここからが本当にヤバい。
けたたましいギターリフにキーボードが乗っかり、そこに意味不明な歌詞が乗っかっている。
サビのメロディは相変わらず変な終わり方だし、ラスサビの最後は輪をかけて変だ。
散々わけ分からん曲を聴かされても、最後の最後に謝って終わるところに憎めなさがあるというか、メタ発言的な「そうきたか!」感があるというか、この裏切られ続ける快感こそがフジファブリックの変態性の核心部分だと思う。
4. 若者のすべて
ここで真打登場。このタイミングが絶妙すぎる。
あとでまとめて説明するんですが、この曲自体あまりにも強いパワーを持っているはずなのに、アルバムを聴き終わったときに不思議と印象にはそれほど残っていないんですよね。
この表現が正しいかは分からないけど、「若者のすべて」という曲は料理に例えるなら「鰹と昆布からとったお出汁と厳選した塩のみを使用した究極のすまし汁」みたいな感じで、それそのものの料理としての価値はたしかに最高級だし沁み渡る美味しさがある一方で、その前後に「ハンバーガー!カレー!!ピザ!!!チキン!!!!」ってな具合で最高にジャンキーな連中がフルコースで出てくるもんだから、食後の感想はそっちに引っ張られちゃう、みたいな。
もちろん多分それら全部が意図的な演出だと思うんですよ。「若者のすべて」があまりにも最高級なすまし汁であるが故に、アルバムが「若者のすべてとその仲間たちアルバム」にならないためには周りの味付けが相当濃くないといけないわけで。
ジャンクフードを作ってたら奇跡的にすまし汁ができたのか、あまりにも美味しいすまし汁を作ってしまったから対抗すべくジャンクフードを作ったのか、どちらが先なのかはバンドのご本人方にお聞きしないと窺い知れないところではありますが、とにかくアルバム全体がそういう奇跡的なバランスで成り立っているということだけは確かに言えることだと思います。
5. Chocolate Panic
6. Strawberry Shortcakes
7. Surfer King
8. ロマネ
9. パッション・フルーツ
10. 東京炎上 -Album mix
敢えてこの6曲はまとめて紹介。
この6曲は本当に重要で、この曲たちこそがこのアルバムの核心部分であり、フジファブリックというバンドのアイデンティティだと、私は勝手に思っています。
なんでかというと、答えは単純で、「他にこの6曲を作れそうなアーティストが1人も見当たらない」からです。
聴けばわかると思うのですが、とにかくこの6曲は全部が全部「変」なんですよ。でも変なんだけど、全く崩壊してない。ちゃんとポップで聴きやすい。最初にも少し言及したんですが、この「変態ポップ」こそフジファブリックの本質で、バンドのトレードマークだと思うんです。
5.のラストの雰囲気とかまさしくカオスそのものだし、8.はまだまともだけどよく考えたらギターの「ジャージャン!」だけでほぼ丸々1曲ゴリ押す構成はかなり攻めてるし、7. 9. 10.あたりは歌詞からサウンドから何から何まで正直私の語彙力では解説不可能な領域だし、MVは変だし。
そして私がフジファブリックのすべての曲の中で1番好きなのが、6.のStrawberry Shortcakes。
この曲、なんだか妙にエロさを感じるんですよ。
なんて言うんですか、この「あざとい女に骨抜きにされているようで、実はわざと振り回されてあげているようで、やっぱり本当は手の上で踊らされているだけかも知れない男」って感じの駆け引きのエロさ。
そしてそれを際立たせる怪しげなギターとキーボードのメロディ。
性的なニュアンスを全く醸し出すことなく、完璧な形で「エロ」を表現している、これぞまさしく「変態」の極致なのではないでしょうか。
私は今猛烈に褒めています。本当に。
11. まばたき
ここまでの怒涛の変態ラッシュから一転、静かで美しい一曲。
ただ、やはりここでも一筋縄ではいかないのが流石なところで、この曲に関しては歌詞が分かるようで分からない、脈絡があるようで無い感じが不思議な浮遊感を与えているように思えてくるんですよね。ファンの皆さんはこの歌詞をどう解釈しているんでしょうか。
12. 星降る夜になったら
アップテンポでキラキラしていて、今でもライブの最終盤で演奏されるとフロアのテンションが一気に跳ね上がるキラーチューン。
ここまでちょっとずつひねくれた曲が続いてきたこともあり、この曲の疾走感のカタルシスは凄まじいものがある。
あと、ライブでこの曲をアコースティックで演奏したのを見たときに、元のアレンジとは全く違う、輪郭がぼやけたような浮遊感があって、いわゆる「チル」な感じのイメージだったのが非常に印象的で、アレンジの違いで爽やかな疾走感にも、チルな浮遊感にも化ける、引き出しの多い曲でもあると思います(多分それはシンプルにメロが素晴らしいからで、それを可能にしたのがキーボーディスト(Key.金澤ダイスケ)作曲という背景なんじゃないかな〜、とも思ったり)。
13. TEENAGER
最高のフィナーレソング。この歌詞がすべてだと思う。
アルバムを通じて感じる高揚感は「『追憶の』若者のすべて」
このnoteを書くために改めてアルバムを通して聴いてみたけど、やっぱりアルバムの中で「若者のすべて」はなんか浮いている。浮いているというか、アルバムを象徴する1曲を選んでくださいと言われて「若者のすべて」を提出するという選択肢はおそらく自分の中には存在しないんじゃないかと。
曲紹介を通して、その原因についてはいくらか自分の意見を書いてはきた(すまし汁とか訳の分からないことを長々と述べているあたりです)けれども、果たしてその違い(「若者のすべて」vs「変態ポップ」)にはどんな意味があるのだろうか、あるいは1リスナーとしてそこにどんな意味を見出せるだろうか、という思いであれこれと考えているうちに、1つの結論が出た。それが、
「若者のすべて」は、その名の通り若者が若者であるときに誰もが感じる複雑な心象(チープな表現だけど、青春の甘酸っぱさだったり、あっという間に過ぎ去っていく侘しさだったり)のすべてを最低限の音と言葉で紡いだ曲であるのに対して、「TEENAGER」というアルバムは、
「なんかいろいろあったけど、若い頃って最高だったよな!」
みたいな、過ぎ去った青春時代を振り返ったときに心に残っている刺激のすべてを表現した作品(=「追憶の」若者のすべて)なのではないか
というものだ。
青春時代、”ティーンエイジャー”だった頃をザッと振り返ると、確かにすぐに思い出すのは体育祭だったり、修学旅行だったり、そういう刺激的で楽しかった思い出だけど、目を凝らしてよく思い出してみれば、夏休みの花火大会が終わった帰り道のなんとも言えない喪失感だったり、会いたい人に会えるかもしれない期待や高揚感だったりも確かに青春の思い出のひとつで、振り返ってみれば実はそういう気持ちこそ当時の自分にとっては「すべて」だったかもしれない。
そう思うと、このアルバムにおける「若者のすべて」の奇妙な立ち位置にも、納得できる理由ができた感じがするのだ。
もちろん、これは全部私の個人的な感想、妄想の飛躍でしかないので、本当のところどうなのかは私には知る由もないんですけどね。。
まとめ
とにかく、あれこれ書いてはみたものの、とりあえず1枚通して聴いてみてください!
特に「若者のすべて」でフジファブリックのことを認知した人!安直に「知ってる曲が入ってる!」って理由だけでこの青いジャケットに手を出しちゃってください!
きっと予想だにしない沼に引きずり込まれて、あなたは二度と戻ってこれなくなります。