『絶対に成功する告白方法』2009年6月ごろ
あるとき、同じ下宿に住んでいたKという先輩に「絶対に成功する告白方法を教えてやるよ」と言われた。
2階建ての土壁の建物に、郵便受けが一つ、四畳半の部屋が四つ、トイレが一階に一つ、流しが各階に一つずつ、お風呂は母屋に行かないとない。
春の初め、庭にフキノトウが目を出し、梅雨の時期に池にボウフラが沸き、夏が終わると毎年同じ球根から白い彼岸花が咲く。
毎朝、登校中の小学生が冗談で鳴らす防犯ブザーで起こされる。
クーラーはないし、ガスコンロもない。
前の住人が置いていった扇風機は合わせて四台ある。
僕は平成の大学生だったけれど、そんな時代遅れの下宿に月1万6千円で住んでいた。
住人はこの春に一人卒業したため、Kさんと僕の二人で住んでいた時期だったと思う。
Kさんは一回り上の年齢の方で、学生時代にこの下宿に住んでいて、地元で仕事を辞めて、この熊本の地で住居と仕事を探しているとのことだった。
僕が大学から戻り、下宿の引き戸を開けて、黙って二階の自分の部屋へ行こうとすると「寂しいだろうが、『ただいま』くらいは言え」と言うような先輩だった。
「絶対に成功する告白方法を教えてやるよ」
下宿の一部室での夕方のことだった。
僕が「はあ」と言って素直に聞いたのは、Kさんが実際にモテていたからだ。
Kさんがエスプレッソマシンで淹れてくれたコーヒーを一口飲む。
苦い。多分モテの味だ。
「大学のそばに白川が流れているだろう」
「はい」
「まず、告白相手に『白川の川岸で待っていてくれ』と頼む。新屋敷(地名)側な」
「その時点で怪しい提案だし、ハードル高くないですか」
「黙って聞けよ。付き合いたいんだったらこのくらいのことはしろ」
「はい」
「それでお前は大学側から白川に飛び込む」
「はい」
「それで川岸で待つ彼女の元へ泳ぎ切って『好きです。俺と付き合ってください』。これだ。ここまでして断るわけがない」
「はあ、先輩はそれを実行したことがあるんですか」
「あるわけないだろ。お前のために考えたんだよ。今の時期(梅雨)とかいいぞ。水嵩増えてるから頑張った感がすごく相手に伝わる」
Kさんはニコニコしながら「絶対やれよ。成功するから」と言っていた。
僕はこういうテキトーなことをその場その場で即座に言えるから、この人はモテるのだろうなと思った。
実行はする気はない。雨がざあざあ降っていた日の与太話だ。
現在の所感(2019年6月27日)
僕がこんな話を10年経った今も憶えているのはこの告白方法がワンチャンあるのではと10年間思い続けていたからだと思う。
僕が告白相手だったら、こいつヤバい、めちゃくちゃ面白い、とりあえずOKしといてみよ、とその日の体調次第で考えてしまいそうだと思う。
びっしょびっしょに濡れて、ゲホゲホ言ってたらとりあえず笑っちまうもの。