「ラブレター代筆」1996年秋くらい
僕が小学二年生のときのことだ。昼休みにタイヤ山で遊んでいたところを同じクラスの女子、Yさんに呼び出された。
正直どきどきしていた。恐怖的な意味でである。このときの僕に女性に対する興味関心は皆無だった。別の班だし、話したこともあんまりないのに何の用だろう。なんか怒られることでもしたっけかと思いながら教室に戻った。
「これ読んでみて」
Yさんは会うなり、レターセットのようなものを渡してきた。
「何これ」
そう言いながら僕は開ける。
「Tくんへのラブレター」
「へえ」
これが話に聞くラブレターってやつか。本当に渡すやついるんだな。
まぼろしかと思ってた。好きとか嫌いとかよくわかんないから謎だなと思った。
「いや、渡す相手違うでしょ。自慢?」
謎の質問だが、小学二年生であるからこんなもんだ。
「読んで、変だったら教えて欲しい」
Yさんは照れながら言う。正直面倒だなと思った。
間違いを指摘したら怒られる気配をびんびんに感じていた。
記憶を再生すると内容は以下のような感じだったと思う。
『Tくんえ あたし、YわTくんがサッカーをしているとこを見て、かつこういいなとおもった。それでTくんわやさしくてあたまもいいからすきです。あたしとこいびとになつてください。Yより』
最初から間違えまくっている。
「えじゃなくて、へって書くんだよ」
僕は恐る恐る教える。
「そうなんだ。渡す前に聞いてよかった」
Yさんは意外にも素直に聞いてくれた。
ただ一個ずつ指摘していくとだんだんと面倒になったらしく、「だったら〇〇くん書いてよ」と命令をしてきた。
僕自身、説明するのが面倒くさく思い始めていたので、「じゃあ書くね」と言って消しゴムで間違いの字を消して、書き換えていった。
えをへに。わをはに。つをっに。
「ねえ、何で僕だったの」
最後に僕がYさんに聞くと「たぶんクラスで一番国語がうまい」と言ってくれた。
それじゃあ、Tくんより僕のが頭がいいのではとちょっと思った。
この当時の僕は好きという感情がよくわからなかったが、どうでもいい僕のことを「クラスで一番国語が上手い」と見ていたYさんが好きになったTくんはよっぽどすごい人なんだなと思った。
この手紙を実際に渡したかは知らないし、二人がその後付き合ったかも知らない。
ただ僕が初めて書いたラブレターは男の子に向けてのものだったというだけの話だ。
現在の所感(2019年6月25日)
この話は昔、mixiでも書いたことがある。そのときは「僕がその女の子が好きだったというわかりやすいオチはない。ただよく考えたら僕もラブレターを書いたことがあって、それにはたしかに純な気持ちがこもっていたというだけの話だ」みたいな結びをした気がする。
そのときはそれでいいかなと思っていたのだが、今考えると僕はこの登場人物らとその後も同じ中学校に行っている。話が終わっていないのだ。
Yさんは中学校で不良グループに入った。Tくんの方は卒業アルバムの集合写真には写ってないが、他の写真には載っているので途中で引っ越したらしい。
改めて、同じ出来事を書いてみてYさんは大分僕より先に大人になってるなと思った。先に「好き」という気持ちを知り、行動し、中学校に入ったら大人への反発の気持ちを知り、行動した。人懐っこい人で、煙草を吸ってしばらく学校に来なくなった時に少し寂しいきもちになったのを憶えている。
おっさんである僕が感傷に浸ったり、この出来事から人生とはみたいなものを書いたりするのは気持ち悪いし、本意ではないのでここで終わる。
蛇足だったかな。
ハッシュタグを無事つけられるようになったことがうれしいが、おっさんには何個くらいつけるものなのかがよくわからん。
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サポートしていただいた場合、たぶんその金額をそのまま経費として使った記事を書くと思います。