『物件』~『文体の舵をとれ』練習問題④ 重ねて重ねまくる 問一~
スネアドラムの中に住んでいると何でスネアドラムの中に住んでいるのとよく聞かれる。僕もスネアドラムの中に住むのに最初から抵抗がなかったわけではない。スネアドラムは円柱型だから家具が置きにくいし、窓がなくて風通しも悪い。それでも駅前の不動産屋さんでスネアドラムは人気の物件だから今決めないとすぐに他の借り手にとられちゃいますよと言われたのだ。「金属製の楽器は床や壁が冷たいですし、リコーダーなんかはウナギの寝床みたいな形で天井に穴が何個も空いていて湿気もすごい。それに比べるとスネアドラムは広々としていて快適ですよ」と言われたから住んでいるのだ。確かにスネアドラムはスティックで叩かれると天井が揺れて、床が揺れて、床に接した鉄線が揺れて、空気も中にいる僕も揺れる。ただ船員が波に揺られても船の上で暮らすように、僕もビートを刻まれてもスネアドラムの中で暮らすのに慣れてしまったのだ。
『文体の舵をとれ』という本の課題に沿って書いた文です。お題は300字程度で同じ語を少なくとも3回繰り返して使うみたいなもの。
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