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N.001『海に憧れた月』

まんまるお月さまは、海に憧れていた。

いつもぷっくら膨らんで、空に浮かぶのに飽きてしまったのだ。

たまに飛んでるカモメさんに聞いてみる。

「ねえ、カモメさん。海ってどんなとこ?」

「広くて、大きいね。あとは、美味しい魚がたくさんいるよ」

「良いところ?」

「魚がいっぱいいるから、良いとこなんじゃないかな?」

「へえ〜」

眺めるだけで、絶対届かない海。

自分が反射した光で、キラキラと輝く海。

憧れは、日に日に増していくばかりだった。

ある日の夜のこと。

まんまるお月さまは、今日こそ海に行ってみようと思った。

雲に隠れた瞬間を見計らって、結んでいた口をぽっと開いた。

ぷしゅううぅぅぅ。

徐々にしぼんでいくお月さま。

ゆっくりと海に落ちていく。

ちゃぷん。

ずっと眺めていた海は、ひんやり冷たくて気持ちがよかった。

風に吹かれて、ゆらゆらゆら。

波にさらわれ、ゆらゆらゆら。

海を漂うのは、空に浮かぶより楽だった。

お月さまはそのまま波間をゆらゆらと漂っていた。

あまりにも気持ちいいもんだから、口をぽっかり開けたまま。

どんどんしぼんでくお月さま。

気がついたら、ぺらぺらのぺっちゃんこ。

もう空には戻れない。

仕方がないからお月さまは、そのまま海を漂うことにした。

風に吹かれて、ゆらゆらゆら。

波にさらわれ、ゆらゆらゆら。

そんな事とはつゆ知らず、月がいなくなった空は大混乱。

とりあえず、急いで別の星が代わりに月になった。

だけど元お月さま、そんなことはお構いなし。

風に吹かれて、ゆらゆらゆら。

波にさらわれ、ゆらゆらゆら。

自由気ままに世界中の海を漂った。

ひとりぼっちは慣れてるから、全然寂しくなかった。

だけど、たまには空に帰りたくなる日もあった。

ある日の夜。

空を眺めていたら、そこに仲良しだったカモメさんがひゅーん。

懐かしくなった元お月さまは声をかけた。

「やあ、カモメさん!お久しぶり!」

驚いたカモメは、声のする方を見て一言。

「ああ、びっくりした。海にうつる月かと思った」

サポートされればほぼ間違いなく喜ぶ男です。