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M.R.LABO業務紹介:クリエイティブ・ディレクション

性暴力啓発ポスターのニュースに触発されて

 内閣府が制作・配布した「若者の性暴力被害予防を啓発するポスター」において使用されたイラストが、別のイラストレーターの作品に酷似していたため、使用を中止するという事件をネットニュースで知りました。
 先日も、大阪のIR施設のイメージ画と動画の中に、奈良美智氏や村上隆氏の作品が勝手に使われていたという事件があったばかりでしたので、「またか…」という暗澹たる気持ちになったのですが、考えれば考えるほど「なぜそんなことが起るのか」と、私の中では疑問が膨らむばかりです。
 そこで、[クリエイティブ・ディレクション]という私の一業務を紹介しながら、その本来あるべき姿勢をお知らせしたいと考え、今回の記事にすることにしました。

疑問点 その1:発注元も受注先も大手なのに…

 まず、発注元は内閣府ということで、当然それなりのレベルのものを作らなければならない立場にある、という認識が担当者にどこまであったのか、ということです。それなりのレベルというのは「予算を潤沢に使って」という意味ではもちろんなく、簡単に言えば「ちゃんとしたものを作る」ということです。つまり、小手先でごまかしたり、深く考えずにササっと仕上げたりすることなく、キチンと考えて本当に良いものを作るということです。そして、その姿勢は発注元のみならず、受注先にも求められるのです。
 近年、TVCM等でもよく見られる傾向ですが、担当者が「ノリで作った」としか思えないようなモノが増えている気がします。「友達の似非クリエイターに頼んで作っちゃったの?」と疑ってしまうような、メッセージ性の薄い、ただ目立てばよいだけのモノが大企業でも横行しているからです。
 ちなみに、このポスターの受注先は皆さんご存じの凸版印刷ということで、「なぜ、あの凸版がこんなことを?」と思ってしまうわけです。

疑問点 その2:ある種の模倣は大事だけれど…

 「芸術は模倣から始まる」ということを、どこかの大芸術家が言っていたように思いますが、それを商業美術で行うと「盗作」と呼ばれることになります。
 今回、酷似しているとされたイラストレーターのたなかみさき氏の作品が持つ雰囲気は、確かにこのポスターの訴求したいテーマに合っていると思います。おそらくこのポスター制作に関連したクリエイターの誰かが、たなか氏のことを知っていて「ああいったテイストで行こう!」と主張し、それに同意したアートディレクターが似せて描けるイラストレーターに頼んだ、というようなことだと思いますが、そこにも疑問が生じます。
 まず、なぜご本人にイラストを頼まなかったのか、ということです。先に言った通り、発注元は国であり、若い人たちに広く啓蒙するためのポスターなのですから、まずはご本家にお伺いするというのが筋だからです。ただ、ご本人に依頼したら断られたというのなら仕方ないのですが、最初から「似せたイラストを用意すればいいや」などと思っていたなら、ディレクター失格と言わざるを得ません。
 私が携わってきたクリエイティブでも、予算がないために「〇〇風でね」と色々なタッチが描けるイラストレーターに頼んだことが、何度かあります。ただ、それらはあくまで「風」であり、「似て非なるもの」となるよう内容やタッチなどに気をつけてきたつもりです。
 本物を使うことができれば一番よいのですが、そうできない場合は、それなりの工夫をすることが必要なのです。

疑問点 その3:熱意はどれだけあったのか?

 もし仮に、私がディレクターとしてイラストレーター決定の権限を持っていたのでしたら、ご本人に最初は断られたとしても、なんとか交渉してOKをもらうように動いたと思います。
 というのも、該当するポスターは2枚のイラストが大きく使われており、それぞれのコピーとともにデザイン全体の中で大きな位置を占めているからです。
 ポスターという表現ツールは、主に駅などに貼られるように、通りがかりにパッと見ただけで言いたいことの大半が伝わるものでなければなりません。そのためには、インパクトのあるビジュアル(写真やイラスト)と心の琴線に触れるコピー(キャッチフレーズ)が重要になります。
 そして、そこに盛り込まれたメッセージ要素を「なんとか伝えたい!」という、作り手の熱い思いが絶対的に必要なのです。

 先日、あるテーマで集められた商業ポスター展に行ってきました。かの凸版印刷と双璧をなす印刷会社のギャラリーで行われたものですが、主に80年代頃から現在に至るまでの作品群の中には、著名クリエーター陣に交じって、横尾忠則氏や和田誠氏などの作品もありました。
 どれもインパクトがあり、惹きつけられる”力”を感じました。作り手の熱い思いが伝わるとともに、ち密に計算されたレイアウトや色使いなど、私自身とても勉強になりました。若い観覧者もチラホラ見かけましたが、こういった機会を生かして学んでほしいと思います。


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