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37 KUWAHARAのユニフォームを着ていく日本シリーズ(2024/11/3)
2017年7月1日の東京ドーム、ジャイアンツ対ベイスターズ戦。
ベイスターズは9回表の時点で2点ビハインドだった。このまま負ければ借金生活に逆戻りだが、勝てば2位阪神を追っていける位置だ。ラミレス監督が言うところの「ターニングポイント」。
ぼくは上段スタンドで試合を見ていた。8回まで引っ張った先発・石田健大がノックアウトされた時点で負けを覚悟していた。ベイスターズからFA移籍していた村田修一がタイムリー二塁打を放ったのもストレスを倍加させた。
だが、9回2アウト満塁、チャンスとピンチの狭間から、桑原将志がベイスターズ応援団の待つレフトスタンドへ逆転満塁ホームランを叩き込んだ。
周囲では青い服のベイスターズファンが総立ち、ぼくも叫んでいたと思う。相手投手のカミネロも、まさか小柄な桑原が1試合2本塁打するとは思わなかったろう。
そう、桑原は初回にも先頭打者本塁打を放っており、満塁本塁打と先頭打者本塁打を同一ゲームで打った打者はNPB初、MLBにも例が無かったそうだ。
あとでテレビの録画を見ると、ハイタッチする桑原の後ろ姿をラミレス監督がじっと見つめていた。大仕事をやってのける、勝負強い打者だとインプットされたに違いなかった。
後日、ぼくはこの日の偉業を記念して桑原の37番のユニフォームを買った。あえて、満塁ホームランを叩き込んだ7月1日と同じ、青いビジターユニにした。
桑原は、この日の勢いを維持して月間打率.389、月間MVPを初受賞した。彼に「夏男」の異名が付いたのは、この活躍を受けてのことだ。また、年間打率.269の13本塁打、全試合出場でチームの日本シリーズ出場に貢献、初タイトルのゴールデングラブ賞を受賞した。
だが、その後の桑原は出場機会を減らしていった。守備には定評があるものの、打撃は不調に陥ると長引くことが多かった。2019年に神里和毅にレギュラーを奪われると、2020年シーズンはわずか34試合出場、打率1割台と低迷した。
これではいけないと奮起したか、2021年は前年にジャイアンツへFA移籍した梶谷隆幸の穴を埋めるべく奮闘、4年振りに規定打席に達し、キャリアハイの打率.310・14本塁打をマークした。84得点・39二塁打はチーム最多、一流の証である3割打者の称号を得て、再び不動のレギュラーに復帰するかと思われた。
しかし、2022年は新型コロナウイルス感染で出遅れ、翌年は2度のふくらはぎ負傷と、成績は安定しなかった。それでも2023年は2度目のゴールデングラブ賞、規定打席到達を達成しているのは、桑原の代名詞・ダイビングキャッチに代表される卓越した外野守備があったからに他ならない。
ひとことで言うなら、桑原は「守備職人、ただし打撃にムラあり」ということになろうか。
擁護するならば、桑原のバントは上手い。犠打をここぞというところで決めてくれるのは、ベイスターズでは桑原と柴田だ。二軍の横須賀で鍛えられてきたので、地味な仕事をしっかりできる選手であると思う。そんな地味な桑原が、時に満塁ホームランのようなド派手なことをやる、というのが真骨頂である。
2017年に買った桑原のユニフォームは、長らくクローゼットの中に眠っていた。
ほかに好きな選手ができたこともあるし、桑原の背番号が2018年に37番から1番へ変更になり、着づらくなったことも理由だ(37番は天才打者・楠本泰史が着けた。楠本のファンへの遠慮もあったと思う)。
桑原はレギュラーになったり二軍に行ったりと振幅が激しく、安定した成績を残せない選手で、それゆえにイチ推しという気にはならなかった。
それでも、中畑監督から「クワマン」と呼ばれてかわいがられていた頃から、ずっとDeNAベイスターズを支えてきた生え抜き・高卒ドラ4叩き上げへの思い入れも持っていた。
外野守備なら桑原がナンバー1、新庄剛志や岡田幸文にも負けないぜ、と。
近年、ベイスターズでは外野手の競争が激化している。
2023年には関根大気が初の規定打席到達、2024年には蝦名達夫や梶原昂希を優先的にスタメン起用し、桑原の出場機会は守備固めに限られつつあった。
よく話題になる、エスコンフィールド北海道での交流戦の「きつねダンスの桑原」についても、ぼくの気持ちとしては複雑で、桑原の底抜けの明るさがクローズアップされるのは嬉しい反面、試合に出場できない悔しさの裏返しとしての「きつねダンス」だったのかな、と思うのである。そりゃモーニング娘。を向こうに回しての大活躍だから、嬉しいんだけどね、現場の日ハムファンは桑原が大型映像に映るたびに沸いていたし、記憶してもらえたろうけど。
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ところが、2024年シーズンも終盤になり、「勝ち切る覚悟」を合言葉に順位をひとつでも上げるための戦いに入ると、桑原の出場機会が増していった。
特に印象深いのが9月22日のヤクルト戦で(ジョン・シピンが始球式をした日だ)、激走のはずがホームへのスライディングがぎこちなくてアウトの判定も、よく見るとチョイと手をホームへ延ばしていてリクエストで生還が認められた、なんてこともあった。
セーフのジェスチャーをしながらも、アウトの判定に天を仰いでしまって「やっぱりアウトなのか?」と周囲を混乱させてしまうあたりといい、「OK愛してるヨコハ~マ~!!」とスベり気味のヒーローインタビューといい、実に桑原らしかったこの日。同点打と追加点の犠飛を放った彼は、異常気象の暑い秋にあやかって「夏男」ならぬ「残暑男」を自ら襲名した。
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9月の月間打率は.385、振幅が激しいはずの桑原の打棒は高止まりし、クライマックスシリーズではチームが極度の打撃不振に陥る中で打率.263と奮闘。
そして、勝ち進んだ日本シリーズでは第5戦までで打率.391・6打点の猛爆、守っては連日のダイビングキャッチに第5戦では押し出し死球と、MVP級の活躍を見せている。
ベンチ裏でも、他の選手を叱咤激励するなど、キャプテンシーを発揮している様子を漏れ聞く。相手のソフトバンクホークスには「熱男」と言われた松田宣浩がいて、同僚を叱咤激励しつつ自らもハッスルプレーで鼓舞するなどキャプテンシーを発揮していた。いま、松田が引退したために、ホークスよりも「残暑男」擁するベイスターズの方がモチベーション高くプレーできているのかもしれない。
ベイスターズをはじめて見た人は、このチームは桑原が中心のチームだと思うだろう。
でだ。
秋晴れの肌寒いきょう、文化の日。
ぼくは横浜スタジアムに行く。
何を着ていくべきか考えた末に手に取ったのは、
37番・桑原のビジターユニフォーム。
日本シリーズの間は、残暑が続きますからね。
なにがあっても見守るよ。
その視線の先には、アッチアチの桑原がいるはずだ。
秋の夜長の横浜を熱帯夜に変えてみせる、そんな桑原が。
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