逆転は茫然の母(2023.6.4 Sun 横浜DeNA 5-4 埼玉西武)
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「なんでもいいから塁に出ろ!」
9回表1アウト、打席は埼玉西武の代打・金子侑司。
レフト側、西武ファンが占めるビジター外野席から怒号のような、あるいは咆哮とも言うべきコールが聞こえた。その迫力は、横浜DeNAのクローザー・山﨑康晃が思わず投球へ向かう動作を停めて、視線をレフトスタンドへ見やるほどで、ヒーローインタビューでも西武側の応援に言及していた(もしベイスターズが逆転負けしていたら、西武ファンによる投球妨害か?と言われる可能性さえあった怒号だった)。
結果としては、ショート京田陽太のダッシュと軽快なスローイングでゴロアウトとなり、試合もベイスターズが勝ったのだが、終始試合を支配していたのは、レフトスタンドの西武ファンの感情だった気がしてならない。
よく晴れた日曜日の午後2時に始まったゲームは、徐々に天候が曇天に変わりながら、しかし試合の流れは一貫して(そう、8回表までは)西武が勝つ流れだった。
都合10安打。外野フライさえ少ないピストル打線だが、4安打した若林楽人を筆頭に、西武の打者は単打と四球をからめて着実にチャンスメイクをする。スモールベースボールと言っていい。それは実績ある長距離打者を様々な理由で欠いている中で、必然的に松井稼頭央監督が選択したものに違いなかった。
それでもDeNAの先発・ガゼルマン投手は、2回表以外毎回塁上に走者を出しつつも、2度のダブルプレーを交えて粘り強く抑えていた。
3回表は二死一三塁、5回表は無死一二塁、西武はチャンスを作りながらも物にできない。いくら若林が好調でも7番打者ゆえ、8番9番の捕手投手の打席で火が消えてしまう。
残塁に西武ファンのストレスが溜まっていく、そのため息が客席から眺めていても分かるようだった。
一方DeNAの打線は、初回に先頭打者・佐野の二塁打があるも、2番・関根がなぜかセーフティバントのそぶりを見せ、中途半端なサードゴロに終わったのがケチの付け始めで、二塁走者・佐野が3番・宮﨑の打席で走塁死。その後はほぼ、西武の先発・平良海馬の前に沈黙していた。
この試合、安打数で比較すれば西武の流れにあるのは明白。
そしてついに、6回表に西武打線が火を噴いた。
3番・外崎四球から渡部がレフトへポテンヒット、マキノン四球(最後は逆球、これが痛かった)ののち、6番・川越誠司が一死満塁、2ストライクと追い込まれてから、外角高めチェンジアップの失投にバットをぶつけるように、三塁線を抜く2点タイムリーヒット。ちょうど僕の目の前、川越の打球が三塁手の手の届かないところを通過していった。
これまで溜まっていたうっぷんが爆発した、レフトスタンドの西武ファン。「ミラクル元年奇跡を呼んで~」野太い歌声が響く。
さらに若林がライト前ヒットで続くと、一死満塁から8番・古賀が初球を左中間へ2点タイムリー二塁打。
「1、2、3、ダーッ!!」西武が一気に4点奪取、ガゼルマンは降板。
その後、平良海馬は7回無失点の好投、ベイは手も足も出ず。勝負あった、というところだ。
ベイファンの観客としては、ショート・源田壮亮の広い守備範囲と、素早く華麗な守備を堪能するほかは楽しみの無い試合であった。
8回表が終わった段階で、僕は試合への興味を失って、コンコースで青星寮カレー(900円)を購入していた。だから、このあとしばらくは場内の液晶画面で、カレーを食べながらの観察になる。
代打・大和がフェンス直撃、あと10センチ上ならホームランという当たり。
平良は7回限りで降板、8回表から佐藤隼輔が投げ始めていたが、少しでも投手の実力が落ちると、とたんに打ち出す現金なベイスターズ打線は佐藤を苦にしないようだ。
大和に続いて佐野が初球をライト前、関根の投ゴロが一塁への送球ミスで1点。
投手がティノコに交代しても、ベイスターズへの流れの逆流は収まらず、宮﨑が内角球を左手1本でさばいてライト線二塁打。2点目。4番・牧のセカンドゴロの間に3点目。
そして、代打・楠本が初球をライトオーバーの二塁打で同点。
投手は左腕・公文に代わるも、8番・戸柱がフルカウントからセカンドゴロ、これを逆向きに捕った二塁・外崎がうまく送球できず、5点目。
左投手が苦手な戸柱が、逆転タイムリーとは。
オールドユニフォームに恥じない、大逆転試合になった。
ベイファンには痛快だが、我慢我慢の展開から4点取って大歓喜、それが地獄へ真っ逆さまとなった西武ファンの心中はいかばかりか。それを思うと素直に喜べなかった。
ただ、呆然とするのみだった。
「なんでもいいから」とはいえ、ヒットを打つのも勝つのも、難しい。
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