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2021シーズンプレビュー

「今年の目標は?」と聞かれれば異口同音に「J2優勝」「J1昇格」と答える、長崎の選手・監督・フロントのみならず多くのサポーターも同じ思いだろう。勝点を80まで積み上げておきながら昇格に失敗した昨シーズン、可能性が潰えた甲府戦は12/16の出来事で、まだ悔しさは記憶に新しいところだ。

この2か月で書き残した『2020シーズンレビュー』と『20-21オフシーズン雑感』を合わせて読めば『2021シーズンプレビュー』になるが、せっかくなので少し要点をまとめておこうと思う。

①補填はできたが補強は限定的だった

先日、イバルボの契約更新が発表されて長崎は31人でシーズンインすることになった(A契約24人/C契約6人/2種登録1人)古今東西、昇格を逃したチームは草刈り場になる運命だが、それを跳ねのけて多くの選手の慰留に成功した。主力でチームを離れたのは角田と氣田のみと言ってよいだろう。秋野ら主力が早々に契約更新を決断したこと、吉田コーチの監督就任で継続路線が明確になったことが良い方向に作用した結果だろう。

新加入は6名。角田の代わりに新里、氣田の代わりに山崎、時間が限られた中でしっかり穴を埋めることはできた。また、高さと強さに不足感があった最前線に都倉が加入したのは大きな補強になった。しかし昨シーズンの大きな課題だった「足元で繋げる即戦力ゴールキーパー」や「本職サイドのプレーヤー」の補強は実施されなかった

あらためて所属選手一覧を確認してみると選手層の厚さと同時に、ややバランスの悪さを感じる。守備あればどのポジションでもこなせる磯村や鍬先の存在は大きいが、推進力のあるタイプではない。どうやら昨シーズンから怪我を引きずっている選手も何人かいるようだ。最終戦で退団を明言していた磯村の逆転残留や、シーズン開幕直前で契約更新となったイバルボの動向を見るに、強化部としても全てが理想通りに進んだわけではなかったように思う。

要するにリーグ屈指の選手層を保有していることに疑いの余地はないが、穴のない完全無欠の陣容というわけではないという懸念は頭の隅に置いておいた方が良い気がする。

②吉田フィロソフィーが浸透するメリット、デメリット

――吉田V・ファーレンの目指すスタイルは?
攻守にアグレッシブに主導権を握る。攻撃ではボールを保持しながら相手のアタッキングサードやペナルティボックスに侵入する回数を増やし、見ている人がワクワクするサッカーをしたい。昨季は守備時に構えることが多かったが、構える時間よりボールを奪いに行く時間を長くしたい
(吉田孝行監督)

吉田新監督が就任して、昨シーズンのチームと最も変わるのは攻撃→守備(ネガティブトランジション)の振る舞いだろう。手倉森前監督は「得点できないなら失点しなければ良い」という哲学の元、ボールを失ってからは自陣に撤退してブロック守備を敷く(リトリート)ことが多かった。ボールを奪う位置が低くカウンター欠乏に陥りがちだったが、代わりに不用意なカウンターを喰らって失点する場面も少なかった。

吉田長崎の試合を確認できたのは2/6に無料配信された鹿島とのトレーニングマッチのみだが、前線からプレスを掛けていくという意思を垣間見ることはできた。都倉と玉田の2トップではスピード感に欠け、鹿島相手には思うようにはハマっていなかったようだ。逆に陣形が前掛かりになる分、簡単に裏を取られたり縦パスで簡単に侵入される場面も目立った

ともすれば消極的な戦術ともいえる手倉森監督のサッカーには批判も少なくなかったが、前からプレスに行けば万事解決するほどサッカーという競技は単純ではない。攻守のバランスを崩せば失点が先行する可能性もある。選手からは「戦術的には昨シーズンからそこまで変わらない」という声も聞こえてくるが吉田監督の色がどこまで反映されているのか、というのは序盤の注目ポイントになる。

③克服するべき2つの課題

20シーズンレビューで昇格に失敗した要因を7つ挙げたが、中でも克服するべきなのは「3バックのチームをいかに攻略するか」「セットプレー絡みの失点をいかに減らすか」という2点だろう。

昨シーズン、4バック相手には勝率65%と好成績を残した長崎だが、3バック相手には勝率20%、わずか3勝という相性の悪さを露呈した。3-1-4-2可変システムでピッチの横幅を広く使いながら相手の穴を探す戦術を軸にした長崎だが、5バックで引かれてしまうと途端に攻め手を失ってしまう試合は少なくなかった。最前線で起点になれる都倉が解決策になるかもしれないが、対3バックの戦い方をどのようにアップデートするかは吉田監督の腕の見せ所だろう。

また、ここぞという時にセットプレーで失点する悪癖も改善できなかった。特にシーズン終盤の松本戦で喰らった劇的同点被弾、甲府戦で献上した先制弾、いずれも昇格失敗に直結した痛恨事だった。そもそもセットプレーの守備はシーズン通して不安定で、シュートを打たれる場面は多かった。現代サッカーでコーナーキックから失点する確率は3%程度と言われているが、体感的にはそれより失点してるような…セットプレー戦術も担当していたと言われている三好元ゴールキーパーコーチが退団したこともあり、セットプレーの守備がどのように変わるのか?という点も地味に気になる。

④金棒は正しく使わないと意味がない(2年目)

これは2020シーズンプレビューでも指摘した内容だが、長崎はもはや「持たざるクラブ」ではない。人件費は15億にも迫ると言われており、おそらく今シーズンはJ2で1~2位を争う金持ちクラブということになるだろう。それでも必ず昇格できるというほど圧倒的に戦力を保有しているわけではないが、武器は十分に手元にある。19シーズンの柏がオルンガとクリスティアーノを正しく使ってJ2を蹂躙したように、長崎もルアンとエジガル・ジュニオを正しく使う必要がある

特に鳴り物入りでブラジル1部から加入したルアンはテンポの速い(というか攻守にせかせかしている)Jリーグに中々適応できず、出場時間も伸びなかった。自身初の海外挑戦で、さらにコロナ禍による過密日程やプライベートの制限で大いにストレスを感じた1年だっただろう。それでも出場すればパス、クロス、シュート、ドリブル、トラップ…何をとってもトップクラスの技術を披露し、終わってみれば6ゴール3アシストという数字を残した。しかしルアンの実力が十分に発揮されているとはまだ言えず、チームへのさらなる融合は言わずもがな重要になる。すでにJリーグへの適合が済んでいるエジガルの存在も助けになるかもしれない。

ボール保持路線を継続するためチームの中心は秋野になるが、ルアンの活躍はチーム浮上の鍵を大いに握る…気がする。

⑤吉田監督に掛かる重責とヘッドコーチの役割

「持たざるクラブ」が走力を活かして上位を喰っていく、というのはJ2ではよくある話だ。13シーズンの長崎がそうであったように、人件費の差が反映されづらいという点はJリーグの大きな特徴だろう。意外と戦力を持っているクラブを率いるのは難しいという事は千葉や京都、ここ2年の大宮を見れば明らかだ。

果たして吉田監督が「昇格を至上命題に掲げるクラブ」のストレスに晒されたとき自分のポリシーを貫けるのか、修正する引き出しが十分にあるのか、それともズルズルいってしまうのか……これはシーズンが始まってみないと分からない。どちらかというとコーチ陣、とくに戦術的にチームを支えるヘッドコーチの役割は大きい。手倉森前監督とともに仙台へ帰還した原崎前ヘッドコーチは13シーズンの仙台躍進にも関わっており、どうやらかなり有能だったようだ。代わりに入閣した佐藤一樹ヘッドコーチ(前京都ヘッドコーチ)はボール保持右翼だった19シーズンの中田京都を支えた実績があり、志向するサッカーは近いはず。

昇格を目指すチームでも浮き沈みは出る。昨シーズンは9月を上手く乗り切れなかった事が昇格失敗の主要因となった。上手くいかない時こそ監督・コーチの出番になる。試合中の采配や修正含めて、手倉森監督の手腕を超えていくのは簡単ではない。

⑥終わりに

サッカーは複雑系。内的要素、外敵要素、運……様々な要素が複雑に絡み合って結果が出るスポーツだ。去年強かったチームが今年も強い保証は誰にもできない。選手をほぼ入れ替えず継続性をもってシーズンに入れるアドバンテージは活かすべきだが、勝点84を達成するには長いシーズンを一歩ずつ進んでいくしかない。

このシーズンプレビューは高い期待を持ったサポーターにとっては水を差すような内容かもしれないが、自分たちはあくまでチャンレンジャーという事を再認識するために書き残しておきたかった。去年昇格していった2チームを除けば断トツの勝点を稼いでおり、屈指の戦力を保有し、継続性もあるものの、完全無欠の陣容ではないし、克服するべき課題は少なくないし、懸念点もある。例年にないほど昇格予想に名前を挙げられた長崎だが、決して常勝クラブなどではない、という事を肝に銘じてシーズン開幕戦に謙虚な気持ちでのぞみたいと個人的には思う。

え?開幕戦の予想スコア?5-0で勝つでしょ!()


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