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『暗殺』(柴田 哲孝 著)をめぐる話

2024年5月に発売されたこの小説、飲みの席などでついつい話したくなる刺激的な内容だった。「政治とメディアと宗教」に関するこの国の近代史への、別角度からの視座があることを小説の体で示唆してくれている。陰謀論と一蹴するには検証が詳細すぎる。

この挑発的な本がベストセラーになっているという現象は注目すべきだと思うけど、読んでいる友人にはまだ会ったことがない。

まあタイトルの字面からして取っ付きにくいし、重そうだし、自分の趣味からしても、本来手に取ら無いタイプの本だったかもしれない。もしあの旅行に行っていなければ。。


自分にとってこの本の始まりは、2024年3月に行ったとある南の島だった。日本の辺境とも言えるその島を旅したとき、面白い宿に泊まった。


外観は小洒落たビーチハウス。壁にはサーフボードが立てかけてあり、徒歩10秒で広大な砂浜にアクセスできる。珊瑚の破片で構成させるその浜には、見渡す限り人はいなかった。無人島に漂着したような気分になる。



宿の主人Hさんは気さくで感じの良い人だった。漁師としての顔も持ち、ディナータイムには獲りたての伊勢海老や夜光貝などを食べさせてくれる。コンビニすら存在しないこの島において、至上の贅沢ディナーだ。

配膳が一段落すると、Hさんも離れたテーブルに座り食事をとり、客と会話を楽しむスタイル。基本的に1〜2組しか泊まれないペンションで、その日の客は我々だけだった。

Hさんは饒舌な人物で、声がよく通る。
政治、地理、芸能、サブカル、宗教、オカルトなど様々な事象に見識が深い。

文化的なものがほとんど何も無いこの僻地において、Hさんの喋りは文明そのもののような頼もしさがある。

聞けば島へ移住する前は原宿で広告代理店をやっていて、芸能界にも片足を突っ込んでいたとのこと。サーフィン好きが昂じて、ワイルドな自然が残るこの島に移住したとのことだ。


ちなみにこの島は天候が悪いと辿り着けない。
実はこの日も強風でフェリーが欠航してしまい、辿り着くのが大変だった。紆余曲折を経て、漁船でたどり着いた経緯を語ると、Hさんはと大喜びだった。私たちは猛スピードで意気投合した。

部屋の隅にはライフルのような水中銃や罠のようなものがディスプレイされている。本気の漁をするときはこれらの道具を持って、夜の海に潜るらしい。

「この辺サメとかはいないんすか?」
「普通にいるよ。でも怖くはない。同じ獲物を狙うライバルって感じ」

Hさんが語る水中の話はリアルだった。私は小学生の頃釣りキチだったこともあり、海に詳しい実力者を自動的にリスペクトする性質がある。Hさんも我々を気に入ったらしく、ハイペースで赤のアルパカを空にしてしまった。

夜が深まるにつれ、通常酒の場でNGとされる天皇や宗教などの際どい話も飛び出し始めた。

幸い自分はその手の話が好きな方なので、相槌が止まらない。そしてあのセンセーショナルな事件の話題になった。

「アベさんの暗殺、どう思った?」
「自分は政治に疎い方ですが、Twitterなんかでは犯人よくやった的な声が多かったですよね。」
「えーと、、君はヤマガミが犯人って信じてるの?」
「えっ。。違うんですか?陰謀論的な・・」
「いやいや、ちゃんと情報精査したらアレは別角度から、別の人物による射撃だって誰でも分かるじゃん」

そこからHさんが語った内容はこの本に書かれているものと大部分重複していた。ただ、Hさんと話したのはこの本が発売される2ヶ月前だった。

「可能な限りあらゆる情報源を調べたよ。絶対におかしいと思ったから」

事件当時、ニュースの裏を読む人たちの間での「通説」となっている共通認識があったようだ。言われてみれば自分もチラッとその説を見聞きしたような気もするが、この事件にそこまで注意を払っていなかった。


その後もHさんは様々な事件や事象の裏側について教えてくれた。私も隙を見て自分の体験した不思議な話や陰謀論などについて語り、0時を回った頃、固い握手をしてお開きにした。

離れにある寝室に向かうため食堂から外に出てると、満点の星空が見えた。そこでしばらく立ち尽くした。


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