某エンジニア、絵と哲学と文学を考えた2020年

個人的な趣味の話です。
もともとサブカルっぽいの好みなんですが、今年は特に楽しめました。
自分で絵を描いたり、哲学や文学について考えを巡らせるなど、創作に対する気づきがあった年でした。

絵を描くことが楽しいと思えた

5月くらいでしたか、なんとなく絵が描きたくなりました。前々から創作活動はいろいろやってきたのですが、絵だけは全然上手くいく気配がなかったので、完全に諦めていました。
しかしある日、「手だけずっと練習してたら、手だけでも描けるようになるんじゃね?」と思い、YouTube で解説動画をみて練習をはじめました。
前チャレンジしたときも、本とかサイトを見たりしましたが続かなかったので、またダメかなと思っていたんですが、今回は参考にした動画がけっこうハマりまして、半年間くらいは絵を描いていました。
室井康雄さんっていうアニメーターの方が公開しているシリーズがそのきっかけになりました。
昔は絵を描くときに、立体を忠実に描くことに頭を使っていました。算数の授業とかで方眼に立体を作図するようなイメージで。絵を描いていて分からないときには、人体の構造を調べたりだとか、よくある箱を描いて3Dを意識しながら描く手法を試していました。でもなんか上手くいかなくて挫折を繰り返してきたんです。
室井さんの動画では絵のシルエットや2D上の面積とかを大事にするっていうアプローチで解説がされていました。一般の方が描いた絵を添削する動画がけっこうありまして、上手い人と下手な人のあいだにある感覚の違いはなんなのかということが見ていくうちに理解できました。
自分に足りなかったのはひとえに認知力でした。人ってちゃんと意識しないと、見た物を正確にとらえられないそうです。お手本の絵を見ながら模写するときでも、その認知の歪みによって、パーツの位置や大きさが変わってきたりします。そのことに気づかされてから、練習を続けて3ヶ月くらいですかね、だんだん自分の絵いい!っていう感覚が味わえるようになってきました。昔は描いた絵を翌日みると、下手だなあって落ち込んでたりしたんです。でも最近は翌日みても上手いなあって思えるようになったんです。
絵を描いて楽しくなれたのははじめてだったかも。ありがとう室井さん。

オリジナリティの再定義

エヴァって毎年なにかしら復習するんですよね。新作映画観に行ったりもするし、TVシリーズみかえしたりとか。何回も見てると上辺のストーリーだけでなく、設定とかキャラの心情とか細かい点にも思考がまわるじゃないですか。いつも解説動画とかみて納得しつつ楽しんでいたのですが、今年は山田玲司さんという漫画家の方が公開している、「君はエヴァンゲリオンというアニメを知っているかね?」という動画シリーズに出会いました。
それが今まで見ていた解説動画よりも一線を画していて、エヴァを制作するうえで元ネタになったと考えられる過去の作品(ウルトラマン、宇宙戦艦ヤマト)だったり哲学や思想であったりを、漫画家的視点から面白おかしく分析されていて、ただ設定が分かって面白いというだけじゃなく、エヴァ作者の庵野秀明の頭の中を少しだけ覗けたような気分になれました。
なんかそれをきっかけに、世の中にある面白い作品って、天才がゼロから生み出したものじゃなくて、既存の好きな作品を参考にしながら作られたものなんだなっていう気づきが得られて。
そんで、今まで自分が好きだった作品とかって、作者のどんな好きが基になって生まれたんだろうっていうのが気になっていき、エヴァ以外の作品についても考えるようになりました。
例えばナルトって面白くて絵が上手いなって思ってたんですが、作者の岸本斉史がなにを好きで絵を描いていたのかなんて気にしたことなかったんです。調べてみたらドラゴンボールとかAKIRAとかに影響をうけたことが分かって、実際に絵を比べてみたら、この辺が鳥山明っぽいなとか、この辺が大友克洋っぽいなっていうのが理解できたんですね。
なんか気づけばそういう創作における起源とか歴史みたいなものを追うのが凄く楽しくなっていて。オリジナリティって自由な発想から生まれてくるものだと思っていたんです。けどそうじゃなくて、自分の好きを材料として集めてきて料理するようなものだったんだと、そういうふうに納得できたんです。
世界が少し変わって見えました。ありがとう山田玲司さん。

学問としての哲学

僕は人生で上手くいかないなと思うことがある度に、その時の悩みを解決するための自己啓発系の本を読んできました。いろいろ読んで問題解決を自分なりにしてきたのですが、最近では「嫌われる勇気」という本のアドラー心理学の考え方が好きだなと思い、My 哲学として心にとめています。
よって実用としての哲学は十分だったんですが、学問としての哲学がどんなものなのかっていうのは知らずに生きてきました。でもずっと気にはなっていたんです。哲学ってなにか語ってみたいじゃないですか。
山田玲司さんのエヴァの解説動画の中で、魂とか肉体とか精神に関する言及があって、そのあたりを調べると哲学が絡んでいたんですね。(鋼の錬金術師とかはメインに扱ってそう)
そのへんの興味に背中を押されて、「図説・標準 哲学史(貫成人)」っていう本を買って読んだり、哲学を解説している動画(ぴよぴーよ速報)を見たりして勉強しました。
哲学って今まで何となく、宗教的な思想のような、偉そうな人がこういうときはこうしろって言っているに過ぎないものだと思っていたんです。格言みたいな。でもそうじゃなくて、凄く論理的で学術的なものだったんです。この世がどうなっているのか定義していくうえで、物理的な事象は科学的に解明が可能ですが、そうじゃない部分に対して考える学問が哲学みたいな。(ちゃんとやってる人に怒られそう)
学問の分類的には文学部で研究する領域ですが、世界を解き明かすという目的とその思考法についてはすごく科学に近しいような、ロジカルな世界でした。理系な人はけっこうハマると思います。僕はハマりました。

文学とは何なのか

哲学とは何か、自分の中でなんとなく答えが分かった後、もう一つ知りたいワードがありました。文学です。
エヴァの解説動画をみた後も山田玲司さんの動画をいろいろ漁っていたんですが、どれかの動画で、涼宮ハルヒの憂鬱が村上春樹の影響を受けているっていう話があったんです。そしてハルヒだけではなく、セカイ系と呼ばれるジャンルの漫画やライトノベルに影響をもたらしていたと。(最終兵器彼女もセカイ系として分類されていました)
そうなんかぁ、それは詳しく知りたい!と思って家にあったノルウェイの森を読み進めようとしたんですが、自分の教養が低いせいか、全然読み進められなかったんです。(ハンブルク空港?ハンブルクってどこだっけ?フランドル派の絵ってなに?ノルウェイってノルウェーのこと?)仕方がないので映画を観ました。すると、村上春樹の世界観って意外とシンプルで分かりやすかったんです。
ノルウェイの森には、生の世界と死の世界っていう概念があって、人間は生の世界を1人で生きていくことはできない。ヒロインは死の世界に浸って生きていたが、主人公とセックスをすることで生の世界との狭間で苦しんでしまった。みたいな、映像でみるととてもシンプルに読み取ることができたんです。(村上春樹ファンに怒られそう)
いままで文学っていうと、隠喩がいっぱいで、さっと読んだだけでは理解できない高貴なものだと思ってたんですね。でもノルウェイの森をみた後で思ったのは、文学の主題自体はとてもシンプルだったんだということでした。
調子に乗った僕は、同じような要領で著名な文学作品をさらっと理解したいなと思いまして本を探しました。「有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。」というシリーズを見つけて、夏目漱石とか太宰治とか江戸川乱歩とかをさらさらっとつかんでいって、なんとなく文学って何なのかを理解していきました。(ちゃんと文学やってる人に怒られそう)
結論としては、「人生観を短い物語にのせて語るもの」みたいな理解を得ました。

村上春樹 と 浅野いにお

僕はもともと心情をリアルに描写している作品が好きで、さらに言うと思春期のボーイミーツガール設定のものに弱いです。ぱっと思いつくのを挙げると、彼氏彼女の事情、東京大学物語、げんしけんなど。二十歳の頃に「秒速5センチメートル」を観て真冬の寒い時期にロケ地を一人で巡ったこともありました。当時は暇あらば黄昏ているヤバい奴でした。
浅野いにおさんの漫画では「おやすみプンプン」が一番好みで、数年前に一周したんですが、なんとなく秋くらいにまた読んでみました。
最近は漫画を読むときに作者の視点に立って考える癖がついていて、このときは全体の構成とか、世界観について自分なりに分析しながら読んでみました。
すると、おやすみプンプンから村上春樹ライクな世界観がビシビシ伝わってきました。おやすみプンプンでは、日常の世界と負の世界(ヒロインの世界)の2つの世界があり、ヒロインの世界に足を踏み入れた結果、破滅に向かってしまうというような流れがあり、これ村上春樹っぽいな!って。
他にも、昔みたドラマや邦画(白夜光、怒り、園子温作品)みたいな演出やストーリーの展開方法があったり、作者はこの辺に影響受けたのかな?っていうところに思いを巡らせることで楽しんでいました。
おやすみプンプンを再読したあとに、もっと読みたくなってしまって、同じような世界観の作品を探しました。浅野いにおの漫画は、プンプンの他にソラニンと素晴らしい世界、あと短編集を2冊ほど持っていたんですが、活動した時代によってけっこうテイストが違ったんですね。で、おやすみプンプンと同時期のものを探したら、バッチリなものがありました。「うみべの女の子」です。脳内が村上春樹でいっぱいになっていた僕は、海辺のカフカからとったのかな?と読む前からテンション上がってました。
2冊完結なのですぐ読めちゃったんですが、とてもいい作品でした。村上春樹的な世界観の対比があり、また思春期の危うさがつまっていて、細かいセリフや行動がすごくリアル。映像作品でも文学作品でも、ここまでリアルを感じることができる作品なんていままでなかったと思いました。
おやすみプンプンと違うのは、エンディングでした。かたや闇の世界へ踏み入れ破滅する物語、かたや踏み入れずに各々の世界を生きていく物語。
こんな感じで、自分なりに解釈するだけじゃなくて、創作の歴史的な流れに思いを馳せることができるようになって、より作品に触れるのが楽しくなりました。(ただの自己満足なんですけれど)

まとめ

こんな記事書いても誰も得しないだろ、と思いつつも、今年アウトプットが全然なくて寂しくなっていたので書いてみました。
そろそろ自分もなにか作品作れたらいいのにな、と夢見ながらも何もしない。そんな日々が続きます。

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