【Mリーグ】近藤誠一、華やかさの裏に。【最高位戦】
近藤誠一。
言わずと知れたセガサミーフェニックスの大黒柱であり、最高位・最強位の冠を戴く男である。(画像:最高位戦日本プロ麻雀協会HP)
近藤の麻雀と言えば、「大きく打って大きく勝つ」のフレーズに表されるように、観る人を惹きつけるその華やかさが持ち味だ。
今期のMリーグでも、近藤は開幕早々に大三元というド派手な花火を打ち上げ、大きな話題となった。
この大三元の和了に関しては、近藤の配牌からの切り出しが注目された。
近藤は、
こんなバラバラの配牌から、唯一の萬子の両面塔子、5m6mと払っていったのである。
その意図については、放送時に勝又プロが分かりやすく解説してくれた。
いわく、「和了りづらく、役牌を切り出していく手ではないので、47mの両面を失敗しようが大して影響はない。それなら徹底的に高い手を目指そう」というわけだ。
絶賛された近藤の手順だが、もしかすると、中には「途中でツモが寄ってきただけで、誰でも和了れたのでは」とか「両面塔子から外したのは最終形に関係ない」と感じた方もいるかも知れない。
だが、その指摘は正しくない。
実はこの局、5巡目にして北家の藤崎が、
このような混一の聴牌(5678m待ち)を果たしていたのだ。つまり、上の近藤の配牌から漫然と端牌の9mや1sを切り始めてしまうと、道中で5mや6mが藤崎に捕まってしまう公算が極めて高いのである。
藤崎がここまで早い聴牌を入れていたのは結果論だが、少なくとも誰でも和了れていたというのは大きな間違いである。最初に両面塔子を外さない限り、この最終形はあり得なかった。近藤の構想力が見事に結実した、象徴的な一局だったと言えるだろう。
さて、このように華のある打ち筋が語られがちな近藤だが、今回は、そんな煌びやかさとは程遠いところで下された、しかし確かに光る近藤の選択をご紹介したい。
場面は、10月20日(日)に行われた、第44期最高位決定戦第3節の4回戦、東4局である。
下家の醍醐が中を仕掛けて混一模様だったところに、村上から立直が入って近藤は受けに回っていた。そうした状況で訪れた近藤の最終手番、手牌は以下の通りである。
局面の補足をすると、村上の立直に対して親の坂本はオリている様子。立直を受けた後の醍醐の捨て牌、西、8m、6m、發は全て手出しである。そして、山は残り2枚で、次に醍醐、村上とツモって局が終わることになる。
前巡に醍醐が發を切ったことで、近藤の手牌のうち2枚の發は完全安牌といえる。(それ以外に、立直に対する現物は無い。)
さて、少しだけ想像してみてほしい。ここから貴方なら何を切るか。そして、近藤は何を切ったか。
ここでじっくり時間を使った近藤の選択は、なんと打7pだった。
驚きはしないだろうか。たった今通った發があるのに、そして、それさえ切ればもう自分の手番はなく、流局を待つのみなのに、わざわざ通っていない牌を切ったのだ。一見、意味不明である。何故そんな選択があり得るのか。
その秘密は、醍醐の河にあった。
前述の通り、村上の立直を受けた醍醐は、西、8m、6m、發と手出ししている。西は生牌で、8mは通っていない牌。6mは安牌で、發は生牌だ。
勿論、点棒状況的に苦しい醍醐が押し続けて聴牌を取った可能性も0ではないだろう。だが、前巡に6mを切った段階で受けに回ったのだとすれば、今切られた發は、単独で1枚持っていたものだとは考えづらい。そう、対子落としだ。
実際、前巡に醍醐は、
索子の無筋を掴んで發の対子落としを始めていたところだった。
さて、場面を元に戻すと、近藤が7pを切ったところで、残り山は2枚である。近藤の下家である醍醐がもう一枚の發を切ると……。
「ポン。」
そう、發を残していた近藤は、これをポンできるのである!
下家の醍醐からポンすることで、村上に行くはずだった海底は醍醐に移る。近藤はこの仕掛けで、立直をかけている村上のツモ番を消し去ってしまったのだ。
醍醐の發の対子落とし、そして、それをポンして村上の海底を消してしまう道筋。近藤はここまで見越していたからこそ、手拍子で安牌の發を打つことをしなかったのである。
7pは、両面待ち、シャンポン待ちが無く、8p9pがともに自身から3枚見えていたためかなり通し易い牌ではある。だが、通っていない以上、放銃する危険はあるのだ。
それでも近藤は、自身のノーテンが確定している中で、村上のツモ番を消せる可能性を察知し、そのために負うべきリスクを負って最善を尽くしたのだ。
冒頭の大三元で花開いた發とは違って、こちらの發のエピソードは、多くの人に知られる事もなく、風に流され土に埋もれていくのかも知れない。
だが、そこに確かにあった鮮烈な輝きを、私は忘れはしないだろう。
近藤は感性の打ち手であると言われる。その独創的な手順と絢爛な和了の数々が、私たち麻雀ファンを魅了する。
だが、そうした近藤の華やかさを支えているのは、実はこの海底消しを見据えた發残しのような、地味で泥臭い、緻密な理なのではないかと、私は感じた。
近藤が連覇に、そして永世最高位戴冠に挑む第44期最高位決定戦の最終節は、明日11月4日(月)に行われる。
今回取り上げた妙手などは、全身全霊を懸けた彼らの闘牌の、ほんの一部に過ぎない。どれほど濃密なストーリーが、震えるようなドラマが最終日に待ち構えているのか、よろしければぜひ一緒に、目撃していただきたいと思う。