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【切り花】ダリアの品質管理の試験結果まとめ

【用語説明】
●品質保持剤=切り花の品質を保持するために使用される薬剤の総称。
●前処理剤=生産者が収穫後にすぐに処理する薬剤。切り口から吸水させて処理する方法が一般的であるが、切り花に散布あるいは浸漬する方法も。
(前処理剤の例)
 ・エチレンの作用を阻害するチオ硫酸銀錯体(STS)剤
 ・植物ホルモン剤(BA=ベンジルアデニン)剤
 ・その他(抗菌剤、界面活性剤、糖)
●後処理剤=消費者が用いるフラワーフードと呼ばれる切り花栄養剤。糖と抗菌剤が主成分。本文では、糖質と抗菌剤から構成される溶液をGLAと表記。


1.特徴

 キク科の宿根草で球根を形成する。原生地はメキシコからグアテマラの山地。以前は主として花壇用花きとして利用されていたが、秋田国際ダリア園の鷲澤氏により‘黒蝶’、‘かまくら’および‘ミッチャン’をはじめとする優れた品種が育成され、人気切り花品目となった。露地で生産されることが多かったが、現在は施設内での生産が一般的になっている。寒冷地では夏秋期、暖地では冬春期に主として生産され、周年出荷が可能となっている。現在の主産地は長野県、北海道、秋田県、山形県、福島県、千葉県、奈良県などである。

 花色は赤、桃、黄、白色など様々である。フォーマルデコラ、セミカクタス、ボール咲きなど多様な花形の品種が作出されている。花径は、10cm前後の小輪から26cm以上の巨大輪まで幅広い。

 現在は、‘黒蝶’に代表されるような中大輪の品種をある程度開花させてから出荷する流通が主流である。‘祝盃’など古くからの流通する一部の品種では、切り前はかなり硬い。

2.収穫後生理特性

日持ちは品種間差が大きい
 日持ちは基本的に短いが品種間差が大きい。日持ちの長い品種と短い品種では2倍以上の差がある。日持ちの長い品種として‘ミッチャン’、‘祝盃’、‘球宴’などが挙げられる。育種により日持ちの長い系統を選抜することで、これまでよりも日持ちの長いダリア品種が育成されることが期待されている。

【参考】ダリアの花弁老化タイプ(萎凋型と離脱型とがある) 
萎凋型:
アジタート、ミッチャン
離脱型:
カーネリアン、NAMAHAGEキュート、ラララ
萎凋と離脱が同時に起こる型:
ガーネット、かまくら、ムーンワルツ、ポートライトペアビューティー

エチレンに対する感受性は比較的高い
 エチレンに対する感受性は比較的高く、10ppmのエチレンを連続処理すると処理開始後2日目あるいは3日目には花弁の萎凋や落弁が引き起こされる(図1)。また、老化時に小花からエチレン生成が急激に上昇する品種もある。 

図1 ダリアの落弁に及ぼすエチレン処理の影響
左:対照、右:エチレン(10ppm) エチレン処理開始後3日目

ダリア図1

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高湿度条件では脱離しやすい
湿度がダリアの日持ちに与える影響は以下のとおり。

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3.品質管理

(1)生産者段階

BA(=植物ホルモン剤)の散布で日持ちが延長する
 合成サイトカイニンである6-ベンジルアミノプリン(BA)を花に散布または浸漬処理することにより日持ちが延長する。処理濃度は10から20 mg/Lが適当である。花弁に直接処理すると効果が高いため、BA溶液を花全体に散布または浸漬するとよい。BA散布処理による日持ち延長効果は、‘黒蝶’、‘熱唱’、‘かまくら’、‘ミッチャン’など代表的な品種を含む多くの品種で有効である。展開した花弁に散布液が付着することが重要なため、切り前が早いと十分な効果が得られない。

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 BAを処理した切り花を1%程度の糖質と抗菌剤を含んだ溶液を用いて水揚げするとよい。輸送中も処理を続けることにより、品質保持効果はさらに高まる。

 市販の球根用後処理剤を茎下部より吸い上げで処理する方法も普及が進んでいる。ただし、品種により効果に差があるといわれている。また、溶液に浸漬している茎下部が褐変しやすいため、注意が必要である。

STS処理により日持ち延長

 一部の落弁するタイプの品種ではSTS剤の前処理により日持ちが延長することが明らかにされているため、他の品種での効果を検証することが必要である。

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(2)流通段階

 乾式輸送では萎れやすく、花弁が傷みやすいため縦箱の湿式で出荷することが必要である。‘祝盃’など、収穫時期が早い品種は乾式横箱輸送される。輸送温度は10℃が適している。15℃以上で日持ちが短くなる傾向があり、5℃では輸送時に葉に障害が発生するおそれがある。冬期は、凍結や急激な温度変化による花弁の変色(しみ)に注意する。湿式輸送時には糖質と抗菌剤を含んだ溶液を用いるとよい。

 水揚げはよいが、切り口が腐敗しやすいため、塩素系殺菌剤で消毒するのが望ましい。

 小売店到着時に、BA含有剤を散布処理すると日持ちがさらに延長する。生け水は糖質と抗菌剤を含んだ溶液を用いる。

(3)消費者段階
 糖質と抗菌剤の後処理により日持ちが延長する。BAの散布処理と併用すると品質保持効果は高まる(図3)。糖質では5%グルコースや2.5%スクロースと2.5%フルクトースの組み合わせが有効である。グルコース濃度が高いと葉に障害が発生することがあるが、スクロースでは障害は発生しにくい。通常は市販の後処理剤を使用すればよい。

図3 ダリアの日持ちに及ぼすBAの散布処理と後処理の影響
左から対照、後処理、BA処理、BA処理+後処理、日持ち検定8日目

ダリア図3


(参考)STS処理と後処理の組み合わせ

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(参考)STS処理+BA散布+GLA(後処理)の組み合わせ

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4.日持ち判定基準と品質保持期間

 舌状花弁の50%以上が萎れあるいは変色した時点で日持ち終了とする(図4)。
 品質保持剤処理などの品質管理が適切であれば、常温で5日間以上の品質保持期間を確保できる。


図4 日持ち終了時の状態

ダリア図4左

ダリア図4右


【まとめ】ダリアの品質管理のまとめ

・エチレンに対する感受性は比較的高い

・萎凋する品種と脱離する品種がある

・高湿度条件では脱離しやすい

・BA処理により日持ち延長

・STS処理により日持ち延長

・後処理により日持ち延長

・STS、BA、後処理の組み合わせにより日持ちはさらに延長


出所:次世代国産花き産業確立推進事業 ジャパンフラワー強化プロジェクト事業(2019~2020年)国産花き日持ち性向上推進協議会


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