生き物
「私たちのワンピース」を開いてから、わたしの世界は変わってしまった。きっと、いい意味で。
かわいい、便利そう、安い。そんなちっぽけな、ぺらぺらの感情だけで手に入れたモノの数々は、わたしの奴隷であり、死んでいる。
そんなモノに、服に、囲まれている自分が気持ち悪いとさえ思ってしまう。
モノが、服が、生きるように、わたしが生きていかなくてはいけないと、覚悟をしなくてはならないと感じたあの夜。
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そして、あの夜から日々、思うことがとまらない。
わからない感情が渦巻いているからだろうか。
文章の才能なんてない。日本語だって間違ってるかもしれない。
けれど、心を削るように、今日もまた文章を打っている。
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最後にはさまれた1枚の紙。
何度も読んで、著者のコミュニティをさかのぼり、もう一度読まなければ、理解できなかった。
ただ、その繰り返しの中でも、ひとつのとある言葉に重みを感じ、怖くなった。
何度も何度も読み返しても、毎回、ぞわっと怖くなる。
背筋を冷たい何かが走って、嫌な気持ちになる。
大量の服の山を見て、あんな文章が書ける人が、そういうところに向き合って大事に大事に日々ものづくりをしている人が、最後、自分の本を完成させるために、それを行い、その言葉を選んだ。
ものすごい熱量だ。そして、その表現を選んだのだ。
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読み終わったわたしは表紙をなで続けていた。
生きている。この目の前にあるモノは生きている。
アートブックといっていいのだろうか、モノといっていいのだろうか、本といっていいのだろうか。どの言葉を選んだらいいんだろう。
でも、確かに生き物だ。命がある生き物。魂がある。
わたしが家にいないあいだに手と足がでてきて、動いているんじゃないか、と想像ができてしまうほどだった。だから、届いたときに包まれていたプチプチにしっかりしまいこんだ。
そして、表紙をそっとおさえる。胸がどきどきして、背中がぞくぞくする。
さらに、表紙をおさえこむ。表紙を裏にして机にそっと置く。何を封じ込めたかったのかはわからない。でもそうしないとわたしの心は落ち着かなかった。
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開く、さわる、めくる、読む、眺める、封じ込める。
届いた日から繰り返している。毎日、頭の中がこの生き物のことでいっぱいだ。
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わたしのもとにきたモノを奴隷にしてはいけない。死なせてはいけない。
その人生は、わたしのもとにきた以上、わたしの手で終わらせなくてはいけない。それができないのならば、とあるその言葉で表現して、そうするしかないのかもしれない。それが生きていた証を、わたしも、そうして表現するかもしれない。
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すごいものを手にしてしまった。
そう思いながら、また表紙をなでる。
生きている。この感触はこの生き物に触れた人だけしかきっとわからない。
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