そのアカウント
そのアカウントをフォローした者のタイムラインは機能しなくなる。そのアカウントの1ツイートは永遠の一歩手前まで続く。タイムラインには、どう遡っても、どう更新しようとしても、そのアカウントのつぶやきが表示されている。それはまるでプランクトンが、シロナガスクジラの頭尾を判ずることができぬかのように、そのつぶやきの両端を見つけることができない。ブロックもミュートもシェアやリプライでさえもできないということだ。
「まさか…140字制限はどうした⁉︎」
私はオカルトの類いには目がなく、すぐにこの話に飛びついた。ネットで調べてみたが、どの記事も「フォローしてはいけないアカウント」などと煽る割には核心的な情報が何もない。例のアカウントのスクリーンショットを見ると、どうやら彼はどこの国の文字コードにも属さない記号を無限の一歩手前まで並べているらしい。
「一番下には何がある?」
好奇心は猫を殺すという英国のことわざを知らぬ私の指は、すでにTwitterを開いていた。検索ボックスに「@」と入力すると、アイコンが漆黒のアカウントが表示された。
「破局したカップルアカかよ!」
と脳内ツッコミし、失望した。中二病臭さ・俗っぽさを感じたからだ。アカウント名も「」で、よく知っているローマ字だ。
しかし、その失望は一時的だった。そのアカウントに飛ぶと、例のツイートが見えたからだ。文字でも記号でもなく、模様と呼ぶにふさわしい。しかも毎秒ツイートされているらしい。ツイート時刻の表示が「ちょっと前」から動かない。「フォロー1・フォロワー3971」だ。
「ああ、もう4,000人近くも犠牲者が…」
1フォローが気になってタップしてみた。
「うーん…」
なぜか重くて、ページ遷移に2秒はかかった。
「あ!」
自分自身をフォローしてるらしい。Twitterでそんなことできないはずだ。不思議なことは続く。スワイプして戻ると、なぜかもう「フォロー中」と水色に光っている。
「おかしい」
慌ててフォロー解除の手続きをした。その時、私は体が熱くなっているのを感じた。この感覚は母親に隠れて布団の中で超次元サッカーのゲームいたとき以来だ。変な懐かしさを覚えつつ、ツイートをスクロールしてみる。本当に毎秒ツイートされているようで、20行も下れば次のツイートが押し寄せてくる。どれも曼荼羅を連想させるような模様である。ただし、仏教芸術にも西洋美術にも属さない恐ろしく精緻な文様が施されている。
「不思議だけど、まあこんなもんか」
鉄のように熱しやすく冷めやすい私は、さっきの探究心が嘘のようにもう飽きてしまった。「よくわからない模様を毎秒ツイートするbot」。未知の部分は残るが、実態を半分は理解したと思ったら、興味が半減したのだ。
(続く)
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