私の色
今年初めの着物の話。
『私の年代ならどんな色を着たらいいのかしら?』そんなお悩みがあるそうな。
『色』というなら、『この年代にはこの色』なんていうのは無いです。私達は基本的に、初めてお会いするお客様には、その方の年代より少し派手目の商品から見て頂きます。どんなお客様にも地味なものからお見せすることはありません。派手目なモノをお見せしてそこを羅針盤にしてお好みを探っていきます。お客様の反応を見て、派手好きなのか地味好きなのかをざっと判断していくわけです。最終的に行き着くのは『お好みの色』です。これはあくまでも『色』です。色には明度もあるし彩度もある。お好きな色を中心にパッとした感じなのか、渋い感じなのか、です。たとえば、70代でピンク系でも全然アリです。赤でも良い。そこに渋みがあれば良い。だから、年代で色系統を決めるのはナンセンスです。まぁ、確かにわが国には多彩な色味の文学的表現はありますがね。臙脂やえび茶、錆び朱も赤系です。80歳のご婦人が柔らかなピンクを着ていらっしゃる姿なんてなんとも可愛くて上品なものです。しかし、似合っているかどうかが終着点てもありません。一番大事なのは『着ていて落ちつくこと』です。よく、『同じ色ばっかりになるから、今回は冒険してみます』といつもと違う色の着物を購入される場合がありますが、大抵はお召しにならず、箪笥の肥やしになっていしまいます。なぜかといえば『なんか落ち着かないから』実はオシャレな方というのは『自分の色』をきちんと持っていらっしゃって、その周辺の変わり色で遊ばれているんです。ですから、究極を言えば『私にはどんな色が似合うのかしら』なんて考える必要はありません。着慣れていて、着ていて落ちつく色が『私の色』その中で、『良い色』を選べば良いのです。『良い色』は同じ系統の色をずっと見ていると見えてきます。『百紺十茶』という言葉があるように日本人が紺系に眼力があり、茶系に弱いのは、紺系は藍があり、茶系の着物を見ることが少なかったからです。だから日本人は紺系に眼力がある。実はこれがわが国で繊維産業が発達した大きな要因の一つでもあります。また、『地味派手』という言葉があります。色が地味で柄が派手、色が派手で柄が地味。地色と柄の大きさ、彩色で全体のバランスをとる、という考え方もあります。
お好みと言うことに関してはあんまり細かいことに囚われずに、大らかに楽しんでもらいたいものです。
実はね、こんな話をお客様と楽しくできるのが、本当のプロの呉服屋です。