一人娘の結婚
母子家庭の知人の娘が結婚するという。
それはおめでとう。
彼女は「聞く?」と言った
「何を?」
「あの子の彼氏が結婚の挨拶に来た日の私の話、聞く?」と言った。
「…聞く」
「私あの子に彼氏がいたことも知らなかったの、そういう感じ絶対にみせなくて」
「うん」
「で、いきなり、結婚するから彼氏連れてくるって」
「へえ」
「びっくりした」
「うん」
「で、家に来てさ」
「うん」
「普通の人でさ、愛想もそんなにないけど真面目そうでさ、あんまり喋らなくて背が低くて顔もよくもなくてさ、でも、実は大学の時からずっと付き合ってたんだって」
「完璧じゃん」
「そう。完璧だよ」
「良かったじゃん」
「私一言も話せなくてさ」
「なんで?」
「そしたらその彼が、あのう、お母さん、何か僕に言うことがあれば、言うことっていうか、僕への要望とか、って言って」
「へえ」
「帰ってください!!!って言っちゃった」
「なんで」
「この子はずっと彼氏もいないと思ってたし結婚もできないだろうと思ってた、私に似て男運がないか、男の趣味が悪いんだろうと思ってたでも大丈夫だよ私がいるよ結婚なんてしなくてもいいよ2人で暮らしていこうよねって思ってたそれが大学の頃からずっと付き合ってた普通の大して面白みもない顔も普通背も低いでも無口で優しそう真面目そう要するにずっと少しかわいそうだと思っていた娘が全然かわいそうじゃなくてその上一つも間違えず完璧な結婚をするという目の前の現実をそんな短時間で受け入れることができずに、私は、彼を追い返してしまいました…」
「でもほんと良かったじゃん。いい人と結婚するなら」
「今は、素直にそう思えます」
「よかったね」
「うん」
「面白い話だった」
「でしょお?」
「私だったら、そんな正直な気持ち恥ずかしくて誰にも言わないよ」
「そお?」
「たぶん」
「そお?」
「言えないよ」
「何でも話してよ」
「なるべくそうしたいけど」
これは、子離れができていなかった母親の話とかじゃなくて、子育てに立派に成功した母親の話
自分の気持ちを自分で正確に理解することに長けた女の話
こう思っていた、こう思った、という事を正直に人に言える女の話
聞けてよかったなー
ほんとに…